ある日突然、息子が殺人容疑をかけられ失踪したら……?『望み』は堤幸彦監督の骨太な家族ドラマ

『望み』© 2020「望み」製作委員会

夢を諦め、荒れる生活――息子の身を憂える両親の思いは届くのか

ここ数年、『人魚の眠る家』『十二人の死にたい子どもたち』(共に2018年)など子どもを取り巻く社会問題をテーマに、重厚な作品を発表してきた堤幸彦。その流れを汲む最新作『望み』は、何不自由なく幸せに暮らしている夫婦に突然“ある事件”が降りかかり、夫婦・親子の絆、周囲の人々との絆があっという間に脆く崩れ去ってゆくという、現実に翻弄される夫婦と彼らの決断を描いた人間ドラマだ。

『望み』© 2020「望み」製作委員会

建築士として自分の理想の家を建て、同じ敷地内に事務所を構える建築家・石川一登(堤真一)。自宅で校正の仕事をしている妻・貴代美(石田ゆり子)、サッカーをしている高校生の息子・規士(岡田健史)、高校受験を間近に控えた娘・雅(清原果耶)と順風満帆な生活を送っていた。だが、息子が怪我でサッカー部を辞め塞ぎ込むようになってから、その幸せな日々に暗雲がたちこめる。息子は夜頻繁に外出するようになり、顔にアザを作って帰ってきても頑なに理由を話そうとしない。親子喧嘩も増え、一登が息子の部屋でナイフを発見し没収した直後、外出した息子はそのまま帰らず行方が分からなくなるのだった。

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「犯罪者でも息子に会いたい」と願う母親、「息子は無実」と信じる父親

息子を心配しながらも、そのうち帰ってくるだろうと静観していた家族は、刑事の訪問で現実を知らされる。同じ高校の男子生徒が遺体で発見され、少年が2名逃げてゆくところが目撃されていること、殺された少年の交友関係を調べたところ失踪している少年は3人いること、そしてその中のひとりが、息子の規士であるということ……。

『望み』© 2020「望み」製作委員会

地元の高校生が集まるネット掲示板から、この事件の関係者の個人情報が拡散され「実はもう1名殺されているらしい」という噂話が流れてゆく。息子は犯人として逮捕され戻ってくるのか、被害者として殺され、もう戻って来ないのか。一登と貴代美は、息子が殺人事件の犯人かもしれないという事実と、無実を信じる親としての気持ちの間で大きく揺れ動くことになる。

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「もし息子が犯人だったとしても、私は息子に会いたい。無事に帰ってきて欲しい」と腹を決める母親の貴代美と対照的に、父親の一登は「息子が殺人などするはずがない」という思いに固執し、周囲にも強く訴える。両親の考え方の違いと対立がしっかりと描かれていて、序盤からぐいぐいと作品に引き込まれる。

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事件はセンセーショナルに報道され、自宅前に記者や報道陣が連日押し掛けるようになり、ネットで住所を知った人から落書きや卵を投げられるなどの嫌がらせを受けるようになる。娘は「犯罪者の妹」と言われ深く傷つき、受験に合格できないかもしれないと不安を訴える。一登はニュースを見た顧客から仕事をキャンセルされ、建築を依頼していた建築会社の関係者の孫が事件の被害者だったことから、「今後、仕事は一切受けない」と告げられ窮地に陥る。宝物だった家が汚され、仕事も失って追い詰められてゆく一登は、それでも息子を信じ続けることができるのだろうか? 果たして事件の真実は明らかになるのか? ぜひその目で結末を目撃して欲しい。

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実力派揃いの俳優陣が魅せる! 堤真一と石田ゆり子の迫真の演技に涙

夫婦役の堤真一と石田ゆり子の演技が、とにかく素晴らしい。息子を思う気持ちは同じはずなのに、すれ違い対立し、それでも支え合ってゆくという難しい役どころを見事に演じ切っている。息子役の岡田健史の思い悩む眼差し、妹役の清原果耶のふとした瞬間に見せる不安げな表情も印象深い。そして、脇を支える竜雷太、市毛良枝、松田翔太、加藤雅也らの、現実に居そうなリアリティあふれる存在感も忘れられない。

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また、雫井脩介の原作を見事に脚本化した脚本の奥寺佐渡子、“建築家の理想の家”をセットで再現した美術の磯見俊裕、聴く者が前を向いて生きていこうとする足がかりになるバラードとして主題歌「落日」を提供した森山直太朗らのハイクオリティな仕事も高く評価されるべきだろう。

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クライム・サスペンスとして、また人間ドラマとしても大変見応えのある作品に仕上がった『望み』。コロナ禍で“家族の絆”が改めて見直され、支え合って生きてゆくことの大切さを実感できるようになった今だからこそ、家族のあり方を問う本作は重要な意味を持つはずだ。

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『望み』は2020年10月9日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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