これは紛れもなく“ピュア・スポーツカー”の領域だ!「トヨタ GRヤリス」サーキット試乗

2020年9月4日、正式発売が開始されたトヨタのスーパー4WDスポーツハッチ「GRヤリス」。その最速モデル「RZ“High Performance”」(456万円)の実力を、富士スピードウェイ・ショートコースで試すことが出来た。テスターは、レース経験も豊富な実践派モータージャーナリストの山田 弘樹だ。高速領域だからこそ判ったGRヤリスの微細な挙動、そのひとつひとつをマニアックに解説する!

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”[4WD・1.6Lターボ] [撮影:小林 岳夫]

GRヤリス、ファーストインプレッションから鮮烈だった!

トヨタ GRヤリス RZ[4WD・1.6Lターボ]

富士ショートコースのホームストレートをフラットアウトで駆け下りたとき、その速さに“ほぅ…”となった。1280kgの車重に272psの最高出力だから、パワー・ウェイト・レシオ(重量出力比)は4.70kg/ps。日産 GT-R NISMOで2.9kg/ps、世界のハイパースポーツにもなれば、既にこれが2ps/kgを切る状況だから、その速さは決してクレイジーなものではない。

しかしパワー・ウェイト・レシオ アンダー5kg/psのスピード感は、紛れもなくピュア・スポーツカーの領域だ。あなたがレーシングドライバーでもない限り、その小さなボディから弾き出されたスピードに、思わず顔をほころばせることになるだろう。

GRヤリス、やるじゃないか!

ショートカットの1コーナーを、短いフルブレーキングからターンイン。ブレーキのタッチはしっかりと頼もしく、固められたサスペンションによって鋭いターンが決まる。2コーナーではヨーが残った状態からのブレーキングでも姿勢が乱れず、S字コーナーの切り返しが素早い。

GRヤリスの総合力を見せつけられる

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”[4WD・1.6Lターボ]

圧巻は立ち上がり加速だ。

このコースで最も急な勾配に、左ターンを絡めた3コーナー。ここでは大抵のクルマが失速するのだが、トルセンLSDを備える“Performance”は、モリモリ力強く坂道を登って行く。ほんと、モリモリ感がすごい。

1.6リッターターボの分厚いトルク、3気筒エンジンの独特なサウンド。4WDのトラクション、サスペンションの接地性。パワーに対する、車体の軽さ。そしてカッチリとしたボディの剛性感。

こうした要素が渾然一体となって、270Nmの最大トルクをもらさず路面に伝えるのだろう。ややフロントの内輪をかきむしりながらも、制御系を働かせることもなく、インフィールドまで上り詰めてしまうのである。

いいじゃないか、GRヤリス!

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”[4WD・1.6Lターボ]

前後トルク配分を3段階に制御出来るスポーツ4WDを試す!

となれば残るは、そのパワーとトラクションを制御するスポーツ4WDシステムの出来映えだ。

トヨタが30年ぶりに本腰を入れたスポーツ4WDシステム「GR FOUR」には、その前後トルク配分を3段階に分けて制御できる電子制御式カップリング「ITTC」(インテリジェント・トルク・コントロールド・カップリング)が搭載されている。

ノーマルモードは60:40。これをスポーツモードに入れることで、その前後トルク配分は30:70とリア寄りになる。そしてトラックモードでは、これが50:50の均等配分になる。

イメージ先行で言うと、スポーツモードの走りが一番サーキットでは適しているのではないか。フロントトルクを減らすことでターンインはさらに鋭くなり、アクセルオンでそのヨーイングをドリフトにまで持ち込めるのではないか? と思ったのだが、それは良い意味で裏切られた。もっといえば、昨年のプロトタイプで試乗した時から変わりはなかった。

リア寄りの「スポーツモード」30:70を試す

確かにターンインでは、他のモードよりも、アクセルオフからのフロントの入りが素直だ。ブレーキをゆっくりとリリースしながら舵を入れて行けば、スーッとリアが追従して向きを変えてくれる。

しかしここからアクセルを入れても、GRヤリスはドリフトしない。すぐさまそのトラクションがヨーモーメントを吸収し、姿勢を正してターンアウトしてしまう(してくれる)のである。

それでも朝一番のウェット路面で試乗したジャーナリストの話を聞くと、FRライクな挙動は見られたという。またもっと横Gが高くなるコースならば、この前後トルク配分を楽しむステージになるのかもしれない。

ホンキの「トラックモード」50:50、その実力は

そして最後は「トラックモード」。個人的にはこれが一番、現状でのイニシャルセッティングにマッチしていると感じた。

フロントトルクが50%となった分、アンダーステアは確かに増える。しかし同時にダッシュ力も増えるから、全体の動きがシャープに。そしてターンインまでの進入速度が、高くなるのである。

ここで活躍するのが、強力かつコントロール性の高いブレーキシステムだ。高い車速を一気に殺すと同時に、フロントに大きく荷重を与えてくれるから、ターンインではフロントに荷重がグッと乗る。また複合コーナーのような難しい場面でも、微妙な踏力調整が可能だから姿勢が作りやすい。

6速MTの感触はカッチリしており、忙しいコクピットでも正確な操作が可能となる。

やっぱり、このサイズ感がイイ!

派手なモーションは一切なくても、その挙動の中には小さなドラマが幾つもあった。微妙なスライドや、アンダーステアを調整しながら、弾丸のようにすっ飛んで行く4WDの走りは刺激的だ。やっぱりこの、小ささがいい。

速く走ろうとすればするほどクルマの良さが引き出され、乗り手も集中力が研ぎ澄まされて行く。その走りはコンペティションレベルのスポーツ性であり、このモードがGRヤリスの、真の姿なのだと感じた。

そして同時に、「もう少しだけ曲げてみたい。これに車高調を入れて、思い通りのステアバランスを作り出してみたい!」と強く思った。

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”[4WD・1.6Lターボ]

[まとめ]モータージャーナリスト 山田 弘樹のGRヤリス評

GRヤリスは、今買うべきスポーツカーで指折りの一台だと思う。

これだけの速さを市販するに当たって、そのサスペンションセッティングは、しっかり作られながらも絶妙にコンサバ。きっちりと安全性を担保して作り込まれている。

本音を言えばメガーヌRS TrophyやRS Trophy Rのレベルまでステアバランスを追い込んで欲しい。そうすれば、たとえ911GT3 RSやケイマンGT4のようなクラブスポーツが買えなくても、純度の高いスポーツドライビングが味わえる。

GRヤリスのポテンシャルは、その領域にあると思う。

ともあれカーボンニュートラルが声高に叫ばれるこの時代に、その先陣を切るトヨタがここまでキレたスポーツカー、いやラリーカーを作り上げてくれたのだ。

そこから先は、オーナーがGRヤリスを自分色に染める番だろう。

トヨタ GRヤリス RZ “High performance” 主要スペック

全長×全幅×全高:3995mm×1805mm×1455mm/ホイールベース:2560mm/車両重量:1500kg/最小回転半径:5.3m/乗車定員:4名/エンジン型式:G16E-GTS型/エンジン種類:直列3気筒 インタークーラーターボ/総排気量:1618cc/最高出力:272ps(200kW)/6500rpm/最大トルク:37.7kgf-m(370Nm)/3000-4600rpm/使用燃料:無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)/トランスミッション:6速マニュアルトランスミッション/サスペンション形式:(前)ストラット式コイルスプリング/(後)ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング/駆動方式:スポーツ4WD「GR-FOUR」(4輪駆動)/燃料消費率:13.6km/L[WLTCモード燃費]/メーカー希望小売価格:4,560,000円(消費税込)

GRヤリス RZ(標準仕様)を試す

トヨタ GRヤリス RZ[4WD・1.6Lターボ]

ちなみに“Performance”ではない標準グレード「RZ」は、LSDがないうえにタイヤのグリップレベルも落としてあるから、その走りはもう少しソフト。全ての操作における正確性やソリッドさは和らげられているから、サーキットを視野に入れるなら“Performance”をお勧めする。そしてストリートを中心にその質感を味わいたいなら、標準グレードがベストチョイスだ。

ダートコースの走り、さらに1.5L+CVTモデルも試してみた

ダート路も走らせることが出来た!

当日は、ダート/ラリー用のGRパーツを装着したGRヤリスにも試乗した。

開発陣のお勧めは前後トルク配分50:50の「トラックモード」。これでもさすがに低μ路はニュートラルステアを飛び越えてオーバーステアの領域へと入ったが、等速トランスファーや機械式LSDを装備したトラクション性能は高く、その操縦性は非常にコントローラブル。車体をスライドさせながらもステアリングを真っ直ぐに保ちながら走る4輪ドリフトがたっぷりと味わえた。新車で手に入れたGRヤリスをいきなりダートに持ち込むハードルは高いが、この走りは魅力的。ダッシュ貫通のロールケージをカバーする内装も競技車然とした雰囲気を和らげているし、トヨタとしてもその面白さをより多くのユーザーに知ってもらおうとしているようだった。

1.5リッター+CVTのエントリーモデル「RS」とはどんなクルマなのか

トヨタ GRヤリス RS[FF・1.5L]

1.5リッターの直列3気筒ダイナミックフォースエンジン(120ps)にCVTの組み合わせ。そして駆動方式はFF。しかしこの「RS」グレードは、単なる“ガワだけGRヤリス”と呼ぶには、ちょっと惜しいユニークな存在だった。

もちろんその速さは4WDグレードを試乗した後だとビックリするくらい遅く、そのギャップに最初は目が点。まるでクルマが止まっているかのような気分になった。

しかしトップスピードが遅い即ちブレーキングはさらに奥にできるということであり、実際RSは、こうした走りに答えるだけのシャシー性能を持っていた。それはそうだろう、ボディはGRヤリスと同じであり、かつその車重(1130kg)はRZより150kgも軽いのだから。

しなやかながらも追従性のよい足まわり。まじめに走らせたRSのターンインはRZよりもヒラリと鋭く、スポーツシフトCVTの追従性もいい。ただこれだけの走りができるのであれば、RSにも6速MTを用意して欲しかった。できればエンジンパワーももう少しだけ……

ともあれアルミパネルやカーボンルーフまで備えたRSは、羊の皮を被った狼ならぬ、狼の皮を被ったシャシーファースター。でもやっぱり、もう少しだけパワーが欲しい……。

[筆者:山田 弘樹/撮影:小林 岳夫]

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