GoTo “錬金術”が話題、抜け穴だらけの問題点はどこにある?

「合宿免許が半額で、通学よりも安く取得可」、「ご飯を食べてお金ももらえる」--。

このような政府発「GoTo」キャンペーン関連の”裏技”が話題となっています。今月から都民にも解放された「GoToトラベル」。そして、同じく今月から全国で順次開始される「GoToイート」キャンペーンで、これらの制度を使った”錬金術”が巷で物議をかもしています。

そもそも”GoTo錬金術”とは何なのでしょうか。そして、その問題点はどこにあるといえるのでしょうか。


GoToイートに大きな抜け穴?

旅行業界と同様に、新型コロナのあおりを受けている飲食業界を支援する趣旨のGoToイートキャンペーン。制度施行直前の10月初頭に話題となったのが、格安居酒屋とポイント付与事業を組み合わせた”錬金術”です。

これはGoToイートキャンペーンのひとつである、ポイントの還元事業を利用することで実現が可能な方法です。この事業に認定されたオンライン予約サイトを介して食事をした顧客は、ランチで500円、ディナーで1,000円分のポイントが還元される仕組みです。

この仕組みが発表されるとともに「ディナーを1,000円以内で済ませれば、差額分がポイントで儲かる」とSNS上で声が上がり、話題となりました。

飲食代の最低金額は特に規定されていないため、SNS等ではとりわけ「鳥貴族」がターゲットとなっています。鳥貴族ではディナータイムでも「お通し」が存在せず、298円均一(税込327円)というお手頃メニューを展開しています。1品のみ注文して帰ればポイント還元分の”儲け”が673円発生するため、顧客としてはお金をもらって料理を食べられるという現象が発生するのです。

それでも、飲食店側にお金がいきわたるのであればまだ救いこそありますが、GoToイートでは予約サイト経由での食事が必須であることから、飲食店側が1回の予約あたり数百円程度の送客報酬を支払うことになります。そうすると、送客報酬の負担が高まり、本来救済の手を差し伸べるべき飲食店側のみがその恩恵にあずかれないという不都合な状態に陥るのです。

GoToイートキャンペーンには、「安いメニューを1つだけ頼んで会計する」といった利用方法を対象外とするような縛りはないため、世間体や倫理面はさておき、法的には何のおとがめがない状態となっています。

ただし、GoToイート錬金術で得られるのは数100~1,000円単位の利益に過ぎず、「1品のみ注文して帰る」という行動も心理的ハードルが高いものでしょう。そのため、制度の根幹を揺るがすほど多くの方がGoToイートを用いた錬金に走ることはないかもしれません。

むしろ、金額の規模や心理的ハードルの低さではGoToトラベル関連の裏技の方が、危うい様子が伺えます。

GoToトラベルで合宿免許の”危うさ”

GoToトラベルでは、その制度を用いた合宿免許の取得に賛否両論の声が上がっています。

合宿免許をメインで展開するある教習所は、「GoToトラベル合宿免許専用ページ」を作成するほど力の入れようであり、現に申し込みが殺到している状況です。このプランを活用すれば25万円の合宿免許プランが35%割引となり、代金の15%の「地域共通クーポン」と合わせると実質負担額は12万4,500円と、半額以下になります。

国内旅行の平均的な相場が1泊2日で1人当たり7万円程度であることからすれば、25万円という合宿免許のプランは、3~4回分の国内旅行需要を吸収してしまう規模になる計算です。その分だけ、真に顧客難に苦しむ旅館や宿が恩恵に預かりにくくなることになるのではないでしょうか。

他にもGoToトラベルキャンペーンをめぐっては、4万円旅行プランに国内免税・家電大手のLAOXで使える3万円分の商品券がついてくるプランが話題となりました。プラン自体は4万円なので、およそ2万円が税金から還元されることとなります。これに商品券3万円が追加されるため還元総額は5万円。「1泊で1万円以上儲かってしまう」という錬金術が話題となり、観光庁が業者指導へ入ることになりました。

誰でも思いつく抜け穴を官僚は見落とした?

このような制度の”抜け穴”といえば、ふるさと納税の高額還元問題が記憶に新しいでしょう。しかし、そのふるさと納税であっても、施行後数年はそれほど問題点や抜け穴が浮き彫りとならない状態で運用されていました。

しかし、GoTo における抜け穴は、制度が始まる前から、誰でも思いつくような状態で放置されており、異例であると言わざるを得ないのかもしれません。

その背景には、官僚が穴を見つけても指摘しにくい環境にあるからかもしれません。新総理となった菅氏は、自民党総裁選の9月中旬に、内閣人事局の見直しについて、政権の決めた方向性に反対する幹部の官僚については「異動してもらう」と強調。2日には”学者の国会”とも言われる日本学術会議では、設立以来首相が推薦された6名の任命を見送りとし、物議を醸したこともあります。

ふるさと納税についても、当時総務省自治税務局長であった平嶋彰英氏が官房長官時代の菅氏にふるさと納税の問題点を指摘した翌年に、自治大学校長へ異例の異動となったとされています。これらの行動が、官僚の指摘を萎縮させている可能性があるのではないかと考えられます。

急を要する状況下においては、スピーディな政策実行と給付が求められていることは確かです。しかし、その制度に欠陥があれば、本来支援するはずであった飲食店や旅行業者に給付が行き渡らず、予約サイトなどといった事業者や、倫理的に褒められない利用者の懐を肥やしてしまうことになりかねません。

政官での真摯な制度設計のやりとりこそが、実効的な政策運営に求められてくるのではないでしょうか。

<Finatext グループ 1級FP技能士 古田拓也>

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