対馬仏像盗難問題 韓国寺院が金彩施す意向 被害側「ありのままで返して」

対馬から盗まれた観世音菩薩坐像(県教委提供)

 長崎県対馬市豊玉町の観音寺から2012年に盗まれ、韓国に持ち込まれた高麗時代の仏像「観世音菩薩坐像(かんぜおんぼさつざぞう)」(県指定有形文化財、像高59.8センチ)を巡り、坐像は日本に略奪されたものだとして所有権を主張している韓国の浮石寺(プソクサ)が、坐像に金彩を施す「改金仏事」をしたい意向を韓国の高裁で示していることが外務省などへの取材で7日までに分かった。これに対し、観音寺は「ありのままの姿で返してほしい」と訴えている。坐像盗難発覚から8日で8年になる。
 九州国立博物館によると、改金仏事は仏像に金箔(きんぱく)や金泥(きんでい)を施す仏教儀式。金など不変的なものへの信仰があつい中国や朝鮮半島で見られる。同時代の高麗仏との比較から、観音寺の坐像も当初は金彩が施されていた可能性が高いという。
 外務省によると、浮石寺が改金仏事の意向を示したのは、坐像を保管している韓国政府に引き渡しを求め同寺が提訴した裁判の控訴審。6月の審理で同寺は坐像の腐食を防ぐためと主張したが、高裁は観音寺側の許可を得る必要があると指摘したという。
 浮石寺の意向に、観音寺の田中節孝前住職(74)は「観音寺は対馬藩の朝鮮外交に携わった西山寺の末寺で、(坐像は)正当にもたらされたもの。長年にわたり地域住民が拝んできた本尊を、ありのままの姿で返してほしい」と主張。県教委学芸文化課も「現状変更は県の文化財保護条例で制限しており、改金仏事は文化財の価値を毀損(きそん)しかねない。速やかに対馬に戻してほしい」と求めている。
 外務省北東アジア第一課は「現時点で改金仏事は行われていないと判断している。盗難被害に遭った日本の文化財が現状のまま早期返還されるよう、引き続き韓国政府に求めていきたい」としている。
 坐像は12年10月、対馬市内の他の仏像1体と経典1冊とともに盗まれ、韓国の警察が13年1月、韓国人窃盗団を摘発し仏像2体を回収。窃盗犯の有罪判決が確定し、他の1体は対馬に返還されたが、浮石寺側は坐像について14世紀に同寺で造られ、倭寇(わこう)に略奪されたものだと主張し、16年4月に韓国政府を提訴した。一審の大田(テジョン)地裁は、韓国政府に対し浮石寺側への引き渡しを命じたが、韓国政府は判決を不服として控訴している。


© 株式会社長崎新聞社