静かな秋に

 囃子(はやし)の笛の音が聞こえる。あれっ? そんなはずはないのに…。すぐに演奏の録音が流されていることに気付く。きのう、長崎市の中心街アーケードを歩けば、秋祭りの風情が少しだけ漂っていた▲きのうから3日間、長崎くんちで街は活気づくはずだったが、ご存知のように新型コロナの影響で中止された。9日までベルナード観光通りで「長崎くんち まちなか写真展」が開かれ、代わりに過去の演(だ)し物を“見物”できる▲伝統文化をつなぐ思いに満ちた人、演し物に毎年見とれてきた人-と、中止が決まった春には数知れない人たちが肩を落とした。もう半年になる▲「本当だったら、きょうここで…」と今も惜しむ思いがあるのだろうか。活気とは正反対の静けさを、心に刻みに来たのだろうか。奉納踊りの舞台、諏訪神社もきのう訪ねてみたが、ぽつりぽつりと、それでもあまり切れ目なく、参拝する人の姿が見られた▲くんちに限らず、数々の祭り、催しが中止されてきた。芸術の秋、スポーツの秋、食欲の秋。人を活発にする季節だけに、静けさはいっそう際立ち、秋の物寂しい思い-秋思(しゅうし)を深くする▲「まちなか写真展」では、昭和20~30年代の豪快な演し物の写真も見ることができた。この静かな秋に、遠い昭和から「モッテコーイ」の声が聞こえる。(徹)

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