前人未到の「タイトル通算100期」なるか 将棋の羽生九段が竜王戦に挑む

史上初の7タイトル独占を報じる新聞を読む羽生善治・七冠王=1996年2月、山口県豊浦町のホテル

 将棋の第33期竜王戦7番勝負が9日に開幕する。豊島将之竜王に羽生善治九段が挑む戦いで注目されるのは、羽生九段が前人未到となる通算100期目のタイトルを獲得できるかだ。中学3年生だった1985年にプロ棋士になって以来、将棋界の記録を次々と塗り替えてきた50歳のレジェンドもこの2年は無冠の状態が続いている。それだけにどのような戦いを見せるのかに関心が集まる。(共同通信=榎並秀嗣)

 ▽約27年もの間、保持

 羽生九段は1970年に埼玉県で生まれた。85年に15歳でプロ棋士になると、元号が「平成」に変わった89年に初タイトルとなる竜王を奪取した。19歳2カ月での初タイトル獲得は当時の史上最年少記録だった。

島朗竜王を破り、初の10代タイトル保持者になった羽生善治六段=1989(平成元)年12月27日、東京・芝の東京グランドホテル

 翌90年の竜王戦で谷川浩司九段に敗れて初防衛は果たせなかった。しかし、91年3月に棋王になると2018年12月に無冠となるまで27年9カ月もの間、いずれかのタイトルを保持し続けた。

 そのすごさは、これまでに獲得してきたタイトルと獲得期数を見るとよく分かる。

 竜王  7期 1989年度、92年度、94年度、95年度、2001年度、02年度、 17年度

 名人  9期 1994~96年、2003年、08~10年、14年、15年

 王位 18期 1993~2001年度、04~06年度、10年度、11年度

 王座 24期 1992~2010年度、12~14年度

 棋王 13期 1990~2001年度、04年度

 王将 12期 1995~2000年度、02年度、04~08年度

 棋聖 16期 1993年度前期~95年度、2000年度、08~17年度

 *棋聖戦は1994年度まで年2回開催。

 ▽国民栄誉賞も受賞

 1996年には将棋界で初の全7タイトル(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖)同時制覇を成し遂げた。さらに47歳で迎えた2017年12月の竜王戦で勝利して、99期目のタイトルを獲得するとともに「永世竜王」の資格も得た。永世称号の規定がある七つのタイトル(竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖)全てを手にする「永世七冠」が達成されるのは史上初めてのことだ。

 通算99期のタイトル獲得回数は2位に付ける故大山康晴15世名人の80期を大きく引き離している。3位は中原誠16世名人の64期で、4位に現役棋士の谷川九段(27期)が続いている。

 今年7月に棋聖戦を制し、史上最年少の17歳11カ月で初タイトルを獲得した藤井聡太二冠が50歳までに羽生九段に追いつくためには、毎年三つ以上のタイトルを取り続けなければならない計算になる。

 19年6月に1433勝を挙げて、故大山15世名人の記録を27年ぶりに更新した。日本将棋連盟のホームページによると、10月7日現在で通算勝利数を1466まで伸ばしている。

 打ち立ててきた数々の偉業が評価され、18年には将棋界で初めてとなる国民栄誉賞を受賞した。

永世七冠を達成し、記者会見でほっとした表情を見せる将棋の羽生善治竜王=2017年12月5日午後、鹿児島県指宿市

 ▽50代のタイトル奪取はこれまで1人

 しかし、18年の名人戦で敗れると、続く棋聖戦、同年末の竜王戦にも負けて無冠になった。タイトル挑戦もその竜王戦以来約2年ぶりとなる。

 50歳以上でタイトルに挑戦した棋士は羽生九段も含めこれまでに4人いる。故土居市太郎名誉名人と故升田幸三・実力制第4代名人、そして故大山15世名人だ。

 ところが、タイトルを奪ったのは80年の王将戦を56歳で勝利した故大山15世名人だけ。かなり難しいことが分かる。

 対戦相手の豊島竜王は現在30歳。これまでにタイトルを5期獲得おり、現在は叡王(2017年にタイトル戦へ昇格)との二冠を保持しているが、タイトルを守れたことはこれまでない。自身初のタイトル維持に向けて強い気持ちで臨むことが予想される。

 通算100期と初防衛。ともに記録が掛かるだけに激しい戦いが繰り広げられそうだ。

 竜王戦第1局は10月9、10日に東京都渋谷区の「セルリアンタワー能楽堂」 で打たれる。

国民栄誉賞授与式後の記者会見で、盾を手に記念撮影する将棋の羽生善治氏(左)と囲碁の井山裕太氏=2018年2月13日夜、東京都千代田区

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