僕たちのロック入門書「すすめ!!パイレーツ」と「マカロニほうれん荘」 1977年 10月10日 江口寿史の漫画「すすめ!!パイレーツ」の連載が週刊少年ジャンプで始まった日

鴨川つばめ「マカロニほうれん荘」で描かれたミュージシャンたち

小中学生の頃、床屋で散髪の待ち時間に読む漫画が楽しみだった。

『ドカベン』や『侍ジャイアンツ』といった野球漫画に飽きた頃、新しい単行本が追加されて手を伸ばした。それが、鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』と江口寿史の『すすめ!!パイレーツ』だ。

思い返せば、漫画の中で描かれたミュージシャンとの出会いが、その後の自分の音楽的嗜好に多大な影響を与えているのではないかと思うことがある。

シェリー・カーリー、ブライアン・メイ、スティーヴン・タイラー、ブライアン・フェリー…

例えば『マカロニほうれん荘』には、ランナウェイズのシェリー・カーリーにコスプレ女装した胸毛パンパン、エロ下着をまとった高校教師(クマ先生)が登場する。オー! NO! 漫画で読んだ時は何だかわからず、ただ気持ち悪くてムズムズしていたが、後日レコード店でシェリーを実際に知り、「なるほど、コレか!」と気付かされる訳だ。実際の彼女は超絶セクシーなお姉さんだったが…

他にも喫茶店でクイーンのアルバム『華麗なるレース(A Day at the Races)』をかけて欲しいとねだる客がブライアン・メイそっくりだったり、スティーヴン・タイラー似の刑事も登場。さらに主人公のトシちゃんが場末のキャバレーで「ステキなかたね! ブライアン・フェリーみたい。ウフン」とホステスに言い寄られるなんてシーンもあった。

これはまさにロックの入門書、僕とロックとの出会いは床屋の本棚から始まったのだ。小さな待合室にはクールスのポスター、土日などは客層がガラリと変わる。店主はレザーカットを駆使し、独自のテクニックでアニキたちの鶏冠を立てていく。そしてマカロニのトシちゃんやドラネコロックみたいにクールなリーゼントが完成する。店の名前は昭和軒と言った。中華料理屋ではない!

少年ジャンプ「すすめ!!パイレーツ」ではディーヴォやクラフトワーク…

さて、話を戻そう。

当時、子供たちは週刊少年チャンピオン派とジャンプ派に分かれていた。チャンピオンでは、水島新司の『ドカベン』がシリアスな野球漫画で人気を博し、それに対抗するかのようにジャンプは野球ギャグ漫画なる新しい試みを打ち出す。その先兵となったのが『すすめ!!パイレーツ』だ。

それは千葉農協が親会社という弱小プロ野球チーム・パイレーツを描いた群集劇。巨人の星、ウルトラマンといった空想の世界だけでは飽き足らず、王、長嶋、江川、小林繁まで巻き込んで「空白の一日事件」をイジリ倒し、今では絶対にあり得ない著作権侵害レベルの強烈な魔球(パロディ)を散髪を待つ僕たちに投げ込んできた。

『すすめ!!パイレーツ』は、『マカロニほうれん荘』とほぼ同時期に始まり、これはまさにジャンプとチャンピオンの頂上決戦だった。作者は言わずと知れた江口寿史。しかも作中、ディーヴォやクラフトワークが度々ネタになっていた。

そう、僕たちにとってのもうひとつのロックの入門書がパイレーツであった。聞きなれない名前のアーティスト、聴いたことのない音楽の正体を求めて、あの時僕たちはニューウェイヴの海へと漕ぎ出していた。それは江口寿史が僕たちを洋楽の沼に踏み込ませるために放った “一発ギャグ” という撒き餌だった。

「あ けんけんのぉ さてすふぁくしおん」

江口寿史が本気で考えていた “ニューウェイヴの浸透“

1980年以降、『ひのまる劇場』など他の連載でも、トーキング・ヘッズ、YMO、クラウス・ノミなどをネタにし続けていたから、僕たちにとってその影響力は絶大だった。当時、江口先生は『少年ジャンプ』を読む子供たちに本気でニューウェイヴを浸透させたいと考えていたそうで、僕はその思惑にまんまとハマり釣りあげられたということだ。

ちなみに、坂本龍一さんのアルバム『B2-UNIT』(1980年)。自分の記憶が正しければ、江口漫画の人気もあって少年誌であるジャンプに広告が載ったことがあります! これは今とは違って、当時としてはすごく画期的な出来事なんですよ。

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※2016年1月8日、2019年3月29日に掲載された記事をアップデート

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