「知らしむべからず」の末に

 のっけから文法の話で恐縮だが、「べし、べからず」には「~すべきだ、すべきではない」だけでなく「~できる、できない」の意味もある。有名な論語の一節、「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」は後者らしい▲政治を動かす者が、民を「従わせることはできる。道理を分からせることはなかなかできない」。これが「政策に従わせればよいのであり、道理を分からせなくてもいい」の意味に転じたとされる▲新型コロナへの政府の対応を検証した民間の臨時調査会が、関係者に話を聞いて報告書をまとめた。その内容に「知らしむべからず(分からせなくてもいい)」の一節が浮かぶ▲報告書は痛烈にも、政府の対応を「場当たり的な判断の積み重ね」としている。2月末、当時の安倍晋三首相は全国一斉の休校要請をまさに場当たり的に決めたが、担当閣僚も寝耳に水だったという▲休校要請もアベノマスクの配布も、安倍首相やその周辺だけで決められた。閣僚や関係省庁にも「知らしむべからず」だったらしい▲臨時休校で学校現場も親も子も混乱したが、報告書で専門家は「疫学的にほとんど意味がなかった」としている。場当たりの策に国民はどれほどの負担を強いられたか。いずれ政府も自ら検証すべきだろう。「知らしむべからず」のままではいけない。(徹)

© 株式会社長崎新聞社