“五感”フル活用 働く想像力 俳句会に記者弟子入り 中秋の名月で一句

美しい「中秋の名月」が海を照らし、「光の道」が輝いていた=長崎市内

 秋風を受け、夜道を歩きながらふと頭上を見上げると、きれいな月。こんな情景をうまく俳句に表現できたら格好いいな…。そう思い立つも、詳しいルールを知らず、何となく難しそうなイメージが拭えない。思い切って“プロ”の門をたたき、一日弟子入りした。

 師匠は、俳句愛好家でつくる結社「咲の会」代表の藤野律子さん(77)=長崎市田中町=。32歳の時に知人の誘いで俳句を本格的に始め、子育ての合間などに詠み続けてきた。現在は県俳人会副会長。2015年には自らの句集で県文学賞を受賞した腕前だ。
 俳句は、松尾芭蕉らによって江戸期に栄えた俳諧の流れをくむ。原則「5.7・5」の定型句。明治になって正岡子規らが現代的な俳句を形作った。季節を連想させる「季語」を必ず取り入れなければならないが、藤野さんによると、「基本的なルールはこれだけ」。難しそうなイメージが少しなくなった。
 では、季語とは? 「人の生活で目につくものほとんどが季語なんですよ」と藤野さんは言う。庭のヒガンバナは、秋に咲くから秋の季語。扇風機や冷蔵庫は夏の季語だ。一方、紅茶のように季節を連想させないものは季語にはならない。
 「これで一句詠んでみましょうか」。テーブルの上の青みがかったミカンを指し、藤野さんが早速“お題”を出してくれた。「青みかん」は秋の季語。だが腕を組み、頭をかきむしっても、「5.7・5」が浮かばない。焦っていると「“五感”を活用すれば、おのずと出てきますよ」。
 言われた通り、ミカンを観察し、味わってみると自然とひらめいた。〈青みかん 色が変はりて 半月に〉。少しずつオレンジ色に熟し始めた様子を半月に例えた。これに対し、藤野さんが「上五と下五を入れ替えてみては」とアドバイス。〈半月に 色が変はりて 青みかん〉。なるほど、言葉を入れ替えるだけでリズム感が良くなった。奥が深い。
 「俳句は、世界一短い文学。だからいつでもどこでも考えることができ、想像力が働いて頭のストレッチにもなる。奥が深く、俳句を考えていると、とにかく年を取らないんです」。藤野さんは俳句の魅力をそう語る。そして、美しい海や島々、山など自然豊かで、その歴史から食べ物の種類が多い本県は、俳人にとって魅力的とも語る。「他の地方と比べても、俳句を詠む材料に恵まれているのではないでしょうか」
 この日は10月1日で十五夜。夕方ごろ、見事な「中秋の名月」が輝き始めた。海上には、光の反射で浮かび上がる「光の道」。その美しさと俳句の楽しさに魅了され、海沿いで一句。〈明月へ 向ひ歩くは 誰そ彼か〉
 意外といける-。得意げになっているうちに「負けちゃいられない」と、藤野さんが筆を素早く走らせ一句。〈一人居に 男二人の 月の客〉。記者とカメラマンの2人を月の使者に例えた作品。なるほど、そう来たか…。いたずらっぽく笑う藤野さんは、さすがの腕前だった。

俳句について教えてくれた藤野さん=長崎市内

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