コクヨのキャンパスノート、誕生45年のロングセラーとなった秘密

1960年代生まれ以上の日本人なら、誰でも馴染みがあるコクヨのCampusノート。なぜ「1960年代生まれ以上なら誰でも」かと言うと、Campusノートの誕生が1975年(昭和50年)で、この年以降に学生時代を過ごした方なら、自分か周りの誰かが必ず使っていたはずだからです。

Campusノート以前の大学ノートはグレー、糸綴じで地味なものが多かったところに、無線綴じで使いやすく頑丈にし、デザインもポップな配色にしたことで瞬く間に大ヒット。前述のように1960年代生まれ以上の世代にとっては定番中の定番ノートになりました。

今年はCampusノートの誕生から45周年を迎えた年です。ここで改めて秘密、こだわり、変遷に迫ります。案内と解説は、コクヨのステーショナリー事業本部・プロモーション推進部の吉村茉莉さん。さっそく話を聞いていきましょう!


実は正式リリース以前にも「Campus」が冠のノートがあった!?

―今から45年前の1975年(昭和50年)にCampusノートの初代が発売されました。この経緯を教えてください。

吉村:Campusが出る以前のノートは糸綴じのものが主流でした。糸で背を編んであるものですが、仮で途中のページを破くと、ノート全体がバラけてしまうといったデメリットが多くありました。

そんな中、1959年に、コクヨとして初めて無線綴じという糸を使わないノートが販売されました。ノートの背表紙にクロスが貼られたもので、ページを途中で破いてもバラけず、丈夫で機能的な構造でした。この無線綴じの構造を、学生向けのノートに反映させ、1975年に初めて販売したのが、Campusノートでした。

他方、「Campus」というワードを使ったノートは、実はこれ以前にもあります。これはスパイラル閉じのノートで、表紙には機関車とか世界の有名大学の写真があしらわれているものでした。このノートも好評だったようで、この名を使って改めてCampusノートブランドを立ち上げたという経緯があります。

Campusノートのブランドが確立された1975年(昭和50年)以前に存在した幻のスパイラル式ノート(写真提供:コクヨ)

ヒットしたのは意外な理由だった

吉村:当時、地味な色付きの原紙に1色刷りが一般的でしたが、業界に先駆けて白表紙にカラフルな2色刷りを採用したことでヒットしました。ノートとしては思いきった変更をしたと思いますが、このことで販売量も増加しました。

―Campusノートは初代からA罫、B罫の2種類があるのはなぜですか

吉村:A罫は「普通横罫」と呼ばれる7ミリごとに罫線が入るタイプ。B罫は「中横罫」と呼ばれる6ミリごとに罫線が入るタイプで、使われる方にどちらが良いか選んでいただけるのは斬新だったと思います。

―たった1ミリの差ですけど、使い勝手はだいぶ異なりますよね。

吉村:はい。特にノートにいっぱい書き込みたい学生さんはB罫のほうを好まれることが多いようです。また、万年筆などを使われる方にとっては、幅の太いA罫のほうが好まれる傾向があります。

Campusノートの部品は、たった3つだけで構成されている?

―初代から無線綴じだったわけですが、背クロスもこの時代からついていますね。

吉村:はい。後に何度かの改良を重ねることになるCampusノートですが、基本構造は初代から変わっていません。Campusノートの部品は実は3つしかなくて、本文用紙、表紙、背クロス……これだけです。もちろん、各部品とも後に改善していくのですが、基本はこれだけです。

―作家さんなどの昔のノートを目にする機会がありますが、Campusノート以前の大学ノートは、だいたいボロボロ。でも、何十年も前のCampusノートの場合は比較的保存状態が良いことが多い気がします。

吉村:そうですね。こういったお話もCampusノートの強度、劣化しにくいことを表していると思いますが、やはり当初からの無線綴じ、背クロスの効果だと思います。

現在までのCampusノートに使われている背クロス(写真提供:コクヨ)

45年の間、4度のマイナーチェンジを繰り返してきた

―Campusノートですが、現在までに5世代のモデルがあります。リニューアルはどんな周期で行われるのですか?

吉村:特に決まりがあるわけではないのですが、振り返ってみると、例えば「より良い技術が見つかった」「著しく流行の変化があった」といった際、リニューアルに至ることが多かったように思います。過去はだいたい10年に1度くらいのサイクルでリニューアルの時期が来ています。

例えば、1983年に登場した2代目は、中を見なくてもA罫・B罫の差をわかりやすくするため、英文字と罫線イメージを大胆に表紙にあしらいました。ここで新ロゴも作成し、よりブランドイメージを強調しています。

1983年(昭和58年)に登場した2代目CampusノートのA罫タイプ。初代のシンプルなデザインに対し、さらにポップな印象だ(写真提供:コクヨ)

吉村:そして、1991年に3代目が登場したのですが、市場の拡大に伴って使う方の選択肢が広がり、よりインパクトを出すデザインになっています。縦ロゴになったことが大きな特徴ですが、これは文具店などの什器などで縦に陳列されたときのことを意識してのことでした。

1991年(平成3年)に登場した3代目CampusノートのA罫タイプ。それまでのA罫タイプはオレンジ色を基調としていたが、このモデルからエンジに変わった(写真提供:コクヨ)

3代目CampusノートのB罫タイプ。表紙に入る情報は2代目と同様だが、見比べると、3代目にはデザイン的な遊び心が加わっている(写真提供:コクヨ)

2000年代はすでに2回リニューアル

―2000年に登場の4代目では、「Campus」のロゴが縦組でデカデカと表示されていますね。

吉村:おそらく100均などでも安価な文房具が販売され始めたこともあり、大きく表示して、「きちんとしたノートブランドである」ことを訴える意図があったのだと思います。品質には当初からこだわっていましたが、この4代目では、それまでよりもさらに強度のある背クロスに改善しました。使っていただく方への満足度をさらに上げるためでした。

2000年(平成12年)に登場した4代目CampusノートのA罫タイプ。縦組ロゴはかなり大きく表示されている(写真提供:コクヨ)

―そして、現在まで続く5代目が登場したのが2011(平成23年)。デザインの印象は変わらないと思いきや、この5代目で、ロゴが横置きに戻っていますね。

吉村:はい。ロゴも新しくなっています。デザイン以外で改良された構造では、背クロスの表面加工を見直し、ペンで書き込みがしやすくなったこと。そして、罫線も定規で線を引きやすいように変更しました。また、新開発の紙を採用し、より気持ちの良い書き心地と合わせて環境への配慮も実現しました。

2011年(平成23年)に登場した5代目CampusノートのA罫タイプ。改善点は表紙デザインだけでなく罫線の内容にも至った(写真提供:コクヨ)

ノートに「黒」の配色はタブー。その理由とは?

―一連のリニューアルを見ていると、そろそろ6代目が登場してもおかしくない時期にも思います。リニューアルの計画はないのでしょうか?

吉村:次のリニューアル内容、時期などは決まっていませんが、先ほども申し上げた通り、弊社では常に改善と研究を重ねていますので、そういった蓄積を反映した第6世代のCampusノートが、将来的に出てくるのではないでしょうか。

―Campusノートのヒットによって、様々な派生商品も生まれました。特に顕著だったものは何ですか?

吉村:最近だと大人Campusですね。Campusノートは、この名の通り学生さんが使うイメージが強いですが、実際は学校を卒業した方でも使われることが多く、こういった社会人の方に向けたノートがあっても良いのではないか……と開発したものです。

それまでのノートは「表紙に教科名を書けない」という理由から「黒」を使うことはタブーでした。でも、大人が使うのであれば、そこも問題ないだろうということであえてモノトーンで構成した商品です。

大人Campusシリーズ。ノート、ルーズリーフ、ルーズリーフバインダー、書類収容カバーノートなど、様々な商品をラインナップしている(写真提供:コクヨ)

コクヨの「紙製品」の強みと、ペーパーレス化が進む未来のCampusノート

―例えば海外旅行に行った際、外国製のノートを使うと、紙が粗悪で書きにくかったり、妙にかさばったりして辟易とすることがあります。ただ、これは我々が日本製の優れたノートに慣れているからかもしれません。

吉村:確かにCampusノートだけでなく、日本製の文房具は優れたものが多いので、粗悪な文房具を使ってガッカリすることはあります。ただ、じゃあ日本製の文房具、特にノートがことさら高額な商品かといえばそうではなく、100~200円の商品です。これは私個人のイチ消費者の立場にたって考えても、本当に素晴らしいことだと思います。

―なぜ、これだけ「良い紙」を使った商品を、低価格で販売できるのですか?

吉村:もともとコクヨは、創業時「大福帳」「大黒帳」と呼ばれた和式帳簿の表紙を作る事業を行っていて、紙製品に関しては特に強い。さらに帳簿製作の経験があるので接着用品などの知見もあり、製本にも強い。今では家具など、幅広い商品展開をしていますが、特にこういった「ノート」の分野は他社さんよりも抜きん出ていると自負しています。

―一方、近年ではペーパーレス化が進んで、例えば学生さんがタブレットで勉強をするようにもなっています。こういった影響はありますか?

吉村:多少の影響はありますが、ペーパーレス化が叫ばれるようになっても、やはり「ノート」という商品が絶対になくならないことを実感しています。

例えば、「勉強をする」場合、「何かわからないことを調べる」点ではタブレットやパソコンは主流になっていくと思います。でも、自分の考えをまとめたり、覚えたりする場合は、やはりタブレットやパソコンよりも、「自分で書く」ノートのほうが効果的です。こういったニーズはずっと変わりませんし、これから先もそうだろうと思っています。

―45年を迎えた今年ですが、さらなる未来に向けての思いをお聞かせください。

吉村:これまでのCampusノートがそうだったように、現状の商品がヒットしているからと言っても、研究や改善を怠らないのが弊社です。もちろん、今も常に改良、品質の工場を考えています。ですので、これから先もまだまだ進化していくと思います。ぜひこれからのCampusノートにもご期待いただければと思います。

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