半沢直樹の敵役?「現実は勧善懲悪でない」 日航タスクフォースの実態を証言

成田空港に駐機する日本航空の旅客機=2010年1月

 大人気ドラマ「半沢直樹」が9月27日に最終回を迎えた。経営危機に陥った航空会社「帝国航空」の再建を巡って主人公が悪徳政治家と対立し、銀行員人生の危機に直面しながらも最後に「千倍返し」する逆転劇の興奮は冷めやらない。リーマン・ショック後に経営破綻した日本航空をモデルにしたとみられ、再建時に登場した国土交通相直轄の専門家チーム「タスクフォース」は、ドラマでは悪徳政治家とともに敵役に回った。タスクフォースの実態はどうだったのか。元中心メンバーで、多くの企業再生を手掛けてきた経営共創基盤(東京)の冨山和彦グループ会長(60)が取材に応じ「現実の企業再生は勧善懲悪ではない」と振り返った。(共同通信=李洋一)

「半沢直樹」で主人公の銀行員を演じた堺雅人さん
経営共創基盤の冨山和彦グループ会長

―最終回まで見終わっての感想は。

 モデルにはしたのだろうが完全にフィクションだ。勧善懲悪の時代劇になっているが、現実の企業再生は単純ではない。会社の従業員や経営陣、株主や銀行、そして公共交通機関であれば地域など、多くのステークホルダーがいる。短期的にはそれぞれの利害がぶつかり合う。例えば会社更生法の適用を申請して上場廃止になれば、株券は紙くずになるし、リストラで仕事を失う人も出てくる。仮に主人公のような人が出てきたとしても、別の立場から見れば敵役になる。ドラマのような分かりやすい政治的不正が出てこないと、勧善懲悪にはならない。

 ―ドラマで主人公が勤める東京中央銀行は債権放棄を拒否した。実際には債権が放棄されたが、なぜ必要だったのか。

 企業の債務が過剰だと弁済が優先され、設備投資や開発投資が過小になるので、調整しようという議論になる。またドラマでは、主人公が人員の大幅削減や路線縮小に言及していた。日航の再建案とほぼ同じ内容だが、リストラのための資金は話題にならなかった。日航の場合は3千億円の出資者を見つける必要があったが、債務超過の疑いがある会社への出資は政府系でも無理だ。

 ―ドラマではタスクフォースと銀行団が激しくやり合った。

 日航再建の場合、銀行団にしてみるとリストラ案が遂行されないと日航が破産し、貸したお金が全額毀損(きそん)する危険性がある。100%毀損と一部放棄に応じるのと、どちらが得かという話だ。極めて合理的な交渉をしていたので、「半沢直樹」のようなドラマ性はなかった。実際には金を誰が出すのかという舞台裏のドラマがあり、必死になって走り回った。(タスクフォースの後を継ぐ形で支援に当たった)企業再生支援機構を引っ張り出したところで、僕らの仕事は終わった。

記者会見する「JAL再生タスクフォース」の冨山和彦氏(中央)=2009年9月、国交省

 タスクフォースとしては人員、機材、路線の三つの過剰をカットする結論に至ったが、実はこの案は日航の若手が作っていた。社内では封印していた案だった。タスクフォースができて間もなく、彼らが意を決して持ってきた。僕らが抱いていた漠然としたイメージとほぼ同じだった。若手は問題を先送りしても仕方ないので本気になる。60歳過ぎの経営陣はなんだかんだ先送りしたくなるので、10~20年会社に残る40代の人たちが作った案を信用することにしている。

 ―日航再建では京セラの稲盛和夫名誉会長がトップに就いたが、ドラマで帝国航空のトップ人事は争点にならなかった。

 日航には高学歴のインテリがたくさんいた。路線を減らす話をしても、これだけ残すべきだと説明する資料が一晩で出てきた。試験優等生は理屈を立てるのが上手。資料をたくさん付けてそれっぽいストーリーを描くが、そんなことに付き合っていたら本質は変わらないと思った。そういう人たちは全く違う次元で生きている創業オーナー系に弱い。現場のたたき上げで圧倒的な実績のある人がよくて、稲盛さんは最有力候補だった。

格納庫を視察する日航の稲盛和夫会長(当時)=2011年1月、東京都大田区

 タスクフォースができて間もなく、トップ就任のお願いに行った。高齢を理由にすぐに「うん」とは言ってくれなかったが、議論の中身が極めて実質的だったのでやる気なのだなと思った。(トップ就任が決まる前に、企業再生支援機構が後を継いだが)スポンサーをどうするかという問題が解決したところで頼みに行けば、かなりの確率で引き受けてくれるはずだという申し送りはした。

 ―ドラマの最終回で東京中央銀行の頭取が主人公に「君はいずれ頭取になる男だ」と述べ、その後に辞めた。本当に評価しているのであれば、すぐにでも後を継がせるべきだとツイッターでつぶやいていたが。

 こんなご時世に年功で頭取を選んでいる場合じゃない。20代後半ならまだしも、主演の堺雅人さんは40代だ。世界を見ればそれぐらいの年齢の人が最高経営責任者(CEO)をやっている。

 ―金融機関でも、海外では40代でCEOをする例があるのか。

 CEOになる時期は若い。現在60代の人も40代か50歳前後でなっている。ハードワークで、夜に料亭に行く余裕なんてない。24時間、365日休みなしで、新しい技術やビジネスモデルを吸収しないといけないので、若くないとできない。今どきのメガバンクのトップは、60歳を過ぎて始める仕事じゃない。ドラマで頭取が「俺は辞めるからおまえがすぐ代わりにやれ」と主人公に言っていれば、令和的だなとなったはずだ。そうならない展開に昭和を感じた。

日航の株に売り注文が殺到していることを示す電光掲示板=2010年1月、東京・八重洲

 ―ドラマでは、マスコミに公開された悪徳政治家との対決シーンがクライマックスだった。銀行にとって重大局面だったが頭取は姿を見せず、主人公が代理として全てを任された。

 頭取は仕事をしているようでしていない。欧米のトッププレーヤーのCEOは、自分で資料をつくる。自分の言葉でしゃべれないと話にならないから。部下からボトムアップで案を上げさせるなんてことはやらない。そういうことをしているから日本の会社は意思決定が遅いし、思い切った戦略の転換ができない。法律や規制がどんどん変わり、新しいビジネスモデルが出てくる中、自分で手触り感を持って理解できる人じゃないと経営はできない。過去のオールドモデルの経験があると逆に判断を誤る。世代交代をしないといけない。

 ―自身の著書の中で、同質的で固定的な日本の会社経営は、事業環境の劇的な変化に弱いのが特徴だと指摘した。

 変えなきゃ駄目だ。多様性は競争力の源泉。性別も、世代的多様性もその一つだ。経営幹部には30代、40代がいた方がいい。若い人がいないとデジタル化への対応もできない。年功制の同質的な組織なんて百害あって一利なしだ。

 ―コロナ禍の前後で、トップに求められる資質は変わるのか。

 あまり変わらない。この30年間はビジネスモデルの破壊や産業構造の大きな変化が断続的に続いてきた。トップは急速な変化に対して強烈にかじを切る責任がある。いつまでも結論が出ない小田原評定で熟議している会社は沈没する。変えるべきなのに変えられずデジタル化も遅れた。コロナ禍は、今度こそ本気で変えないと会社や産業界、日本経済が生き残れないと奮起するきっかけになると期待している。

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 とやま・かずひこ 1960年生まれ、和歌山市出身。政府の産業再生機構に加わりダイエーやカネボウなどの再建に携わった。2007年に経営共創基盤を設立した。

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