中国語の迷惑電話、月180万回着信? 日本人の苦情多数も有効対策なし

実在しない国番号「+83」「+422」からの着信履歴(画像の一部を加工しています)(提供写真)

 実在しない国番号などから日本の携帯電話にかかってくる迷惑電話が9月に急増し、10月はさらに増えている。最初に中国語の自動音声が流れるのが特徴で、在日中国人を狙った「振り込め詐欺」とみられる。犯人側は携帯電話に片っ端から電話しており、月に約180万回着信している可能性がある。表示された電話番号をインターネットで調べても分からない。日本人からも「怖い」と苦情が相次ぐが、有効な対策は見つかっていない。 (共同通信AIサイバー報道チーム=長谷川観自)

 ▽手当たり次第に大量発信

 全国の警察などから迷惑電話番号の提供を受けて対策を取る情報セキュリティー企業「トビラシステムズ」によると、8月ごろから存在しない国番号「+83」や「+210」「+422」などから始まる番号の着信が確認されるようになった。10月中旬以降は、存在しない国番号は減り、北米のフリーダイヤル「+1-833」「+1-877」やブラジル、アルゼンチンの国番号を偽装した着信が増えている。

 同社製品は、携帯電話会社の「迷惑電話ブロック」や「あんしんセキュリティー」といった有料サービスの一部で、利用者は約1000万人いる。同社が9月中に検知したこの不審電話は9万9千回にも上った。日本の携帯電話は全部で約1億8000万台あるため、全体では約180万回と推計される。

迷惑電話の現状

 法務省の統計では在日中国人の数は約80万人。日本国籍取得者を含めても100万人ほどとされる。日本の人口は1億2000万人だから0・8%にすぎない。在日中国人を見つけ出すために、犯人は何らかのリストを使うわけでなく、手当たり次第に大量発信している。当然、日本人への着信が多くなる。

 岡山県倉敷市の男性会社員のスマートフォンには9月14日に「+422」から着信があった。「詐欺電話かもしれない」と思って出なかったが、携帯電話番号の下1桁だけが違う妻は数分後、別の番号からの着信があり出てしまった。番号は「使い捨て」とみられ、ネット検索しても見つからない。ツイッターには「1日3回違う番号から着信があった」と書き込む人もいた。

 ▽日本人と分かるとガチャ切り

 9月下旬に「+1877」からの着信を受けた兵庫県の男性(ツイッターアカウント@tal0032)によると、自動音声の中国語は中国大使館を装っている。日本語に訳すと「あなたにはまだ受け取っていない緊急の公式文書があり、居住権に影響がある。詳細を知りたい場合は『9』を押してください」などという意味だった。

兵庫県の男性にかかってきた不審電話の自動音声

 他に国際航空貨物便を装った自動音声もある。翻訳すると「あなた宛ての速達便があり、2度お届けしましたが、誰も受け取っていません。調べる必要がある方は、『1』を押してください」と話していた。

 放置すると切れるが、指示通りの数字を押すと中国語を話す犯人が出る。日本語を話すなどして中国人ではないと判断されると、一方的に電話を切られるという。

 金銭被害も出ている。秋田市の40代女性は9月10日、実在しない国番号「+885」の電話を受けた。大使館職員と公安局員を名乗る男女に「武漢に大量のキャッシュカードやマスクを送っただろう。犯罪だ」「金を払えば解決する」と脅された。電話を切った後にメッセージアプリで偽身分証の画像が送られてきたため、本物だと信じて計411万円を振り込んでしまった。札幌市では250万円、大津市では50万円をだまし取られたが、被害が公表されたのは氷山の一角だ。

在日中国大使館は2年前から注意喚起している

 実は、在日中国人を狙った自動音声詐欺は以前からあり、在日中国大使館は2年前から注意喚起をしている。それが急増している理由には「コロナ禍で帰省できなくなった人の旅費が狙われた」などといった見方があるが、はっきりしたことは分かっていない。秋田県警は、秋田市の女性の被害を受け「中国の公安局や警察、中国大使館等をかたる不審電話に注意!」というチラシを作成した。

秋田県警が作成した「不審電話」への注意を呼び掛けるチラシ

 同じ手口の被害は米国やフランス、オーストラリア、ブラジル、台湾など世界各地で報告されている。犯人グループは国により手口を変える必要はなく、24時間態勢で膨大な数の電話を機械で発信している可能性がある。

 ▽第三国の電話会社が犯人と結託?

 番号偽装がなぜできるのか。国際電話の仕組みに詳しい専門家は、中国にいる犯人が、第三国の電話会社と結託しているとみている。アフリカや東欧、中南米などの電話会社は以前から、国際電話を悪用した詐欺に加担しているのではないかと問題視されてきた。着信履歴を残してすぐ切り、かけ直してきた人から高額な電話代を請求する「国際ワン切り詐欺」が典型例だ。

 この専門家は電話会社がきちんとチェックをするつもりがあれば番号偽装をした電話を大量にかけることは不可能という。通話料を稼ぎたい電話会社が格安料金で大量発信させている可能性もある。 

 今回の不審電話の場合、トビラ社がかけ直して通じた番号はなかったが、明田篤(あきた・あつし)社長は「もし国際ワン切り詐欺だった場合は高額な請求があるだろう。電話に出たり、かけ直したりすることで犯罪者のリストに載る恐れもある」と危険性を指摘する。

 ▽偽番号の着信を防げないのか

 番号偽装した国際電話の着信だけを遮断する仕組みは、残念ながら存在しない。

 インターネット回線を使うIP電話が実用化された2000年代前半に「110番」や「自宅の電話番号」を偽装して携帯電話にかかってくる振り込め詐欺の着信が相次ぎ、社会問題化したことがあった。国内電話会社の業界団体が05年に技術ガイドラインを策定し、総務省も後の法令改正に内容を盛り込むことで対策が進み、このタイプの悪事は難しくなった。

 だが専門家によると、このときの対策は海外の電話会社から来た電話が国内電話番号を偽装していないかをチェックするもの。国際電話番号の偽装は想定しておらず、今回の事態を防ぐことはできないという。

 

国際電話の着信を拒否できる迷惑電話対策アプリ「Whoscall」の設定画面

 台湾の例はもっと深刻だ。日本でも使われている迷惑電話対策アプリ「Whoscall(フーズコール)」を開発する台湾のIT企業によると、数年前から実在しない国番号からの詐欺電話が問題になったが、アプリでブロックしていくうちに、今度は台湾の国番号「+886」を使った偽番号からの着信が増えた。

 専門家は「今回の詐欺に加担した海外電話会社が、別のグループと組む可能性もある」と指摘、日本人を狙う詐欺に悪用されるのは時間の問題とみられる。

 ▽米国は新技術開発へ

 偽番号による詐欺被害がより深刻な米国では、電話番号が詐称されていないかを確認する技術を作ろうとしている。目標とする来年までに、技術が完成するか注目される。

 日本では本格的に対策をしようという動きは今のところなく、自分で迷惑電話対策アプリを入れるなりして防ぐしかない。何よりも不審な電話に応対しないことが大切だ。国際電話の専門家は「詐欺かどうかは通話内容で判断するしかない。私用スマホに国際電話がかかってきても私は出ません」と言い切った。

    ×           ×            ×

 実際にあった不審電話の音声を以下のリンクから聞くことができます。(音声の一部を加工しています)https://img.cf.47news.jp/etc/contents/sample.mp3

© 一般社団法人共同通信社