「救援のマイナス指標も」 元MLB右腕・藪恵壹氏が求めるリリーバー成績の“可視化”

阪神やアスレチックスなどで活躍した藪恵壹氏【写真:荒川祐史】

セットアッパーとクローザー固定で「役割が明確化してブルペンはやりくりしやすい」

20年前、先発投手の評価基準の1つに、年間何試合完投・完封できたか、という項目があった。だが、時代は進み、今ではすっかり先発と中継ぎに分業化。先発投手はクオリティスタート(6回以上自責3以下)を果たせば「試合を作った」とみなされるようになった。

一方、中継ぎはどのチームも勝ち試合を締めくくるクローザーを固定。だが、クローザーへ繋ぐ7回、8回を投げるセットアッパーの起用方法は、チームによって事情が変わっている。セットアッパー的位置づけで左腕と右腕を1人ずつ用意し、迎える打線によって起用する順番を入れ替える様子はよく見られる。

メジャーに目を向けてみると、大半のチームはセットアッパーと守護神を固定し、相手のラインナップにかかわらず、8回、9回は決まった投手に任せるパターンが多い。これまで「投手の分業化」「オープナーの導入」などメジャーから派生した流れを取り入れてきた日本球界でも「セットアッパーと守護神を1人ずつ固定する形にした方がいいと思いますよ」と話すのは、阪神OBでメジャーではアスレチックス、ジャイアンツで活躍した藪恵壹氏だ。

藪氏は、8回を投げるセットアッパー、9回を投げるクローザーを固定することで「ブルペンのマネージメントがしやすくなる」と指摘する。

「まず、大切な役目を背負うクローザーを決めて、2番手候補をセットアッパーとする。この2人はセットとして考えて起用するといいと思います。例えば、開幕して守護神の状態が上がらなければ、セットアッパーと役割を入れ替える。状態が上がってきたら、元の役割に戻してもいいし、うまく機能しているようだったら、そのまま継続でもいい。状態が上がらないままだったら、今度は別の投手をセットアッパー役に任命し、守護神だった投手は調整に励めばいいわけです。セットアッパーを1人固定することで『何かあったら次のクローザーは自分だ』という自覚が生まれるので起用に失敗しないことが多いし、役割が明確化してブルペンはやりくりがしやすくなります」

いわゆる「勝利の方程式」の確立。セ・リーグを独走する巨人は今季、セットアッパーに中川皓太(10月9日に登録抹消)、守護神にデラロサを固定する方針を徹底。7回を大竹寛、高梨雄平が投げるパターンを取ってきた。ここまで役割が明確化されると、ブルペンで待機する他の投手たちにとっても自分が起用されるタイミングが計りやすく、効率のいい準備が進められるという。

セーブ数やホールド数には表れないマイナス要素「ブローン・セーブ」や「IRA」も導入すべき

藪氏によれば、セットアッパーが固定しきれず、守護神まで繋ぐ流れで迷走しがちなのが、阪神だという。阪神は開幕当初、クローザーとして期待された藤川球児が離脱。その後、ソフトバンクから移籍してきたスアレスが守護神となったが、8回はガンケル、エドワーズ、岩崎優、馬場皐輔など定まらず。「こうなると誰が呼ばれるか分からないから、投手は準備をするタイミングを計れず、無駄にエネルギーを使ってしまうことにもなりかねません」という。

役割を固定することで、投手の士気を高められた典型は、9月末にロッテにトレード移籍した澤村拓一だ。巨人では155キロを超える剛球を持ちながら制球が定まらず。今季は3軍での調整も経験した。だが、新天地では気分も新たに8回を任されると、制球難は影を潜め、9回の益田直也に繋ぐセットアッパー役を果たしている。

藪氏は、セットアッパーとクローザーの固定を提言すると同時に、メジャーでは公式記録として明記される「ブローン・セーブ(blown save)」の導入も訴える。ブローン・セーブとは、いわゆるセーブ失敗の意味。セーブがつく条件下で同点に追いつかれたり、逆転された時につく記録で「BS」と表記される。メジャーでは、救援投手を評価する基準の1つとして、ホールドやセーブ数と並び、ブローン・セーブが用いられる。

「日本でも、以前はなかったホールドやクオリティスタートという概念が定着してきました。ここで取り入れたいのがブローン・セーブですね。2試合連続でブローン・セーブした守護神は立場が危うくなるし、3度連続で失敗したらセットアッパーと立場が入れ替わる。プラス要素を示す指標だけではなく、マイナス要素も明記されることで、選手起用がより客観化され、説得力を持つと思います。ファンが手軽に閲覧できるデータとしてブローン・セーブであったり、前の投手が残した走者を何人生還させたかを示すインヘリティド・ランズ・アラウド(IRA)が明記されると、その投手の価値がより分かりやすくなるはずです」

時代の移り変わりとともに、少しずつ変化してきた野球。新たな起用法や価値基準が導入されることで、また面白みが深まるのかもしれない。(Full-Count編集部)

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