【中原中也 詩の栞】 No.19 「野卑時代」(生前未発表詩)

星は綺麗と、誰でも云ふが、
それは大概、ウソでせう
星を見る時、人はガツカリ
自分の卑少を、思ひ出すのだ

星を見る時、愉快な人は
今時減多に、ゐるものでなく
星を見る時、愉快な人は
今時、孤独であるかもしれぬ

それよ、混迷、卑怯に野卑に
人々多忙のせゐにてあれば
文明開化と人云ふけれど
野蛮開発と僕は呼びます

勿論、これも一つの過程
何が出てくるかはしれないが
星を見る時、しかめつらして
僕も此の頃、生きてるのです

      (一九三四・一一・二九)

【ひとことコラム】中也は明治維新以降の日本の急速な近代化が人々の心を貧しくしたと考えていましたが、自分自身もまた無関係ではないことを自覚していました。四月に亡くなられた大林宣彦監督はこの詩に注目し、遺作となった映画『海辺の映画館 キネマの玉手箱』に引用しています。

中原中也記念館館長 中原 豊

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