「ニュースルームの共有しか道はない」メディア同士のコラボレーションがローカルメディア再建のキーとなる ONA20(The 2020 Online News Association Conference)レポート

By Haruna Kaneko

今年の10月1日から14日にかけて開催された「ONA20」(The 2020 Online News Association Conference)に弊社瓜生が参加・登壇いたしました。今回はオンラインで開催された本イベントの様子、ノアドット登壇セッションへの各社の反応や出会った有識者のコメント等をお届けします。パブリッシャーの皆様には今後のメディア運営における参考にしていただけますと幸いです。

ONAとは、アメリカで1999年に設立された非営利団体が開催するイベントです。デジタル時代におけるジャーナリズムに関する知見を共有し、仲間を求めるため毎年、世界各国からメディアやジャーナリストが集まっていますが、今年は新型コロナウイルスの影響により初のオンライン開催となりました。

実際に聴講・登壇した瓜生より、イベント全体の雰囲気やセッション登壇後の聴講者の反応などについて話を聞きました。

セッション事前収録の様子(写真左上が瓜生)

―――前回はニューオーリンズでのリアルイベント、今回はオンライン開催となりました。参加者の熱量やイベント全体の雰囲気はオンラインでも感じられましたか。

メディア関係者やジャーナリストにとって「ONA」は、質の高いセッションを聴講できる場ではありますが、期待しているのはそれだけではありません。世界中から集まるメディア関係者やジャーナリストのなかで、共感しあえる仲間との出会いが生まれることがイベントとして非常に大きな価値となっています。今年はオンライン開催となり、そうしたネットワーキングの魅力がなくなってしまうのではないかという懸念もありましたが、結果としては大満足です。

対面で話ができない代わりに、Event Matchmaking Powered by Artificial Intelligence | Grip という「ビジネス版マッチングアプリ」を利用して参加者同士が出会えるようになっていました。コンタクトしたい人を簡単に検索でき、またAIによるリコメンドもされ、互いにマッチとなれば連絡できるシステムです。これが非常に良く機能していました。私自身も「コンテンツ共有」「メディア同士のコラボレーション」というテーマを共有する多くのメディア関係者と出会うことができました。他の参加者の話を聞いていても、評判が良かったように思います。

―――セッションでは「メディア同士のコラボレーション」の必要性や有用性について、米ニュージャージー州を代表するローカルメディア「NJ.com」(NJ.comはニュージャージー州を代表するローカル・総合ニュースメディア。規模は2018年時点で月間1200万UU、7000万PV)のTony Dearing氏と同ローカルメディア群を束ねるプロジェクト「NJ News Commons」のJoe Amditis氏のお二人に語っていただきました。セッションへの反応はどうでしたか。

ノアドットの登壇セッション「Content-Sharing is the Media Industry's Response to the Sharing Economy」の内容については別途、レポートとしてお届けいたします。

大変ポジティブな反応をいただきました。「異なるスキルを持っているメディアやジャーナリスト同士が互いに協力し合い、メディア業界をサステイナブルなものにしていく必要がある」「コラボレーションはヘルシーなエコシステムを築くために不可欠」という内容は視聴者にとても響いていたようです。セッション中のチャットでも「媒体が集まることで記事の信頼性や正確性が上がるよね」、「自分たちの組織においても地方紙のエディターやライターとコラボしストーリー作りをしているよ」などのコメントが積極的に寄せられていました。

既にNJ News Commonsがコラボレーションの実例となっていたのも説得力があったようです。セッション後も「自分の地域でNJ News Commonsのような取り組みを実現させるには、どこからスタートすれば良いか」と具体的に興味を持ってくれる方が多くいらっしゃいました。

―――セッションの外側でも新たな繋がりが生まれたと聞いています。例えばどのような出会いがありましたか。

95年からデジタルニュースに携わってきたベテランジャーナリストであり、数年前までONAの役員も務め、今年3月にCenter for Journalism and Libertyというジャーナリズム研究所を立ち上げたJody Bannon氏とセッションの後でお話しすることができました。

彼女はメディア業界全般においてノアドットと同じ課題感を持っています。「ローカルメディアが資金調達や寄付で延命するモデルは限界に来ている」「ペイウォール・サブスクリプションも、ユーザーが払える予算の限界に達している」「ニュースルームの共有しか道は無い、同じニュース記事が別媒体で300本出る時代は終わり」「Quartzの身売りがそれら全てを物語っている」など、ノアドットが推し進めるコラボレーションにとって追い風となるような言葉を聞くことができました。

さらに効率化やコスト削減の文脈でもコラボレーションは不可避だと彼女は話していました。「メディア飽和状況は一旦整理されるべき。リソースの共有による各組織のスリム化・効率化が求められている」という意見です。

世界的にメディアが抱える課題に対して、ノアドットが目指す「組織のスリム化とコラボレーション」が解決になりうることを改めて感じました。我々が目指しているものが決してひとりよがりなものではない、と参加者との交流を通して自信を持てたという点でも参加の意義は大きかったと感じています。

―――ありがとうございました。日本国内だけでは見えてこないメディアのトレンド、「メディア同士のコラボレーション」という考えへのリアルなフィードバックが得られる有意義な場であったことが分かりました。

今後もノアドットは「コンテンツ共有プラットフォーム」としてメディア同士の関係性を円滑にするプラットフォームづくりを目指してまいります。また、国内に留まらず、世界のメディア現況をウォッチしつつ、パブリッシャーの皆様と新しいメディアのかたちを追求していければと考えております。

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