パラパラ漫画、驚きや感動の仕掛け 53万部突破、北海道の元・任天堂デザイナー

風景が飛び出す「ひがしかわパラパラブック」を見せる杉野公亮さん=16日、北海道東川町

 ページをぱらぱらとめくると緑色の虫が動き回り、虫食いのように本物の穴が。作品はその名も「むしくいさま」。残像でキャラクターの目から白い光線が出ているように見える「めからかいこうせん」や、紙に引っ掛かって本の中の鈴が鳴る「クリスマスの足音」など。どのパラパラ漫画にも、これまでに見たことがない驚きや感動の仕掛けが満載だ。(共同通信=小島拓也)

虫食いのように本物の穴が空く「むしくいさま」=16日、北海道東川町

 ▽現在と未来を一緒くたに

 そんな奇想天外な作品を次々と世に放つのは、任天堂(京都市)のデザイナーだった北海道東川町の杉野公亮(すぎの・まさあき)さん(38)。全国の書店で販売されている人気シリーズ「もうひとつの研究所 パラパラブックス」(青幻舎)は、累計で53万部を突破した。「パラパラ漫画だからこそできる表現がある。こんなに面白いことができるという感覚を広めたい」と話す。

 杉野さんは妻の理奈(りな)さん(38)と「もうひとつの研究所」というユニットで活動している。鉛筆画をパソコンに取り込み、色や動きを付けて動画を制作。これを画像として出力し、紙に印刷して製本する。ストーリーは杉野さんと理奈さんが考えるが、長男の晄慈朗(こじろう)くん(9)からアドバイスをもらい、ブラッシュアップすることもあるという。上や下などページをめくる位置で物語が変わるものや、バニラやフルーツの香りが漂うものまで。これまでに約50作品を制作し、うち14作品は出版社を通して書店などで販売されている。

 そんなパラパラ漫画について、杉野さんは「時間と空間が合わさった媒体であることが魅力」と説明する。厚さ分の奥行き(空間)があるので「例えばページにズドンと穴を空ければ、最初のページ(現在)を開いていても最後のページ(未来)まで見える。現在と未来を一緒くたに見せられるので、特殊な映像表現ができる」と力説する。

 ▽「理科の実験みたい」と興味

 杉野さんがパラパラ漫画と出会ったのは約20年前。札幌市立高専(現札幌市立大)でデザインアートを学んでいた時に、NHKの教育番組「ピタゴラスイッチ」を手掛けた佐藤雅彦(さとう・まさひこ)さんの慶応大の研究室が、パラパラ漫画を制作したことを雑誌で知った。興味を持ち試作すると「動画とは動きが異なり、理科の実験みたいで面白かった」。魅力にのめり込み、卒業後も大学院での学業や任天堂での仕事の傍ら制作を続けた。

杉野さんがこれまでに制作したパラパラ漫画などの作品=16日、北海道東川町

 作家活動に専念しようと2018年2月に退職。当時住んでいた滋賀県から、杉野さん夫妻の故郷の北海道へ移住し、2人の実家のほぼ中間点にある自然豊かな東川町を新天地に選んだ。近所に写真家や木工作家も住んでいるといい、互いに刺激を受けるという。

パラパラ漫画の作り方を説明する杉野公亮さん=16日、北海道東川町

 昨年は町とのコラボ企画で、風景が飛び出す「ひがしかわパラパラブック」を手掛けたり、ワークショップを開いたりと活躍の幅は広がる。11月には、ページをめくると立体的なモミの木が現れる新作「クリスマスのひみつ」も公開予定だ。杉野さんは「これからも自分ならではの新しい表現や作品をどんどん世に出したい。パラパラ漫画が手に取った人の宝物になれば」と力を込めた。

© 一般社団法人共同通信社