「ここ数年はあまりない」鷹一筋17年目・明石が語る3年ぶりリーグVへの“手応え”

練習中に工藤監督から声をかけられる明石健志【写真:藤浦一都】

チームメートはベンチ前に総出で祝福

■ソフトバンク 11-4 楽天(18日・PayPayドーム)

プロ17年目のベテラン、ソフトバンクの明石健志内野手の一振りがチームを8連勝に導いた。楽天戦の8回裏、1死二塁の場面で代打として登場した明石は、フルカウントから右中間への勝ち越しタイムリー二塁打。一挙7得点というビッグイニングの火付け役となり、若手が躍動するチームの中でベテランらしい存在感を示した。

4-4の同点で迎えた8回裏。先頭の松田宣浩が四球を選んで出塁し、代走は牧原大成。続く甲斐拓也が1球で犠打を決めて勝ち越しのチャンスメークをすると、工藤公康監督が代打・明石を告げた。

マウンド上には同じくベテランの牧田和久。明石はフルカウントからの6球目、やや高めにきたスライダーを叩くと、打球は右中間のフェンス前で跳ねる二塁打となった。牧原が悠々とホームインすると、ソフトバンクのベンチ前で選手たちが喜びを爆発させて二塁ベース上のヒーローに祝福を送った。

印象的だったのは代打を送られた川瀬晃だ。ヘルメットを片手に、まるで「代わりに打ってくださってありがとうございます」と言わんばかりに明石に向かって深々と頭を下げていた。

右手首の関節炎のために9月7日に登録抹消となり、1軍に戻ってきたのは9月29日。安打は9月5日のロッテ戦以来だ。

「久々のヒットなんでね。うまく高めに来たので、いい所に飛んでくれました。ラッキーでした」。試合後、明石はやや控えめに殊勲の一打を振り返った。

1軍復帰後は11打数無安打だったが「打てないから何かを変えなきゃいけないということもない。結果でないと何でも打ちたがるので、それを我慢することですね。いつか甘いボールは来るし、いつかヒットは出る。いいきっかけになるかどうかはわからないけど、それをじっくりと待ちました」と“我慢が生んだ一打”であること明かした。

調整を続けてきたファームでも「(右手首は)痛いけど、どうやって打とうか」と工夫をしながら打撃練習に励んだ。その間、焦りよりも「はよ治れよ」としか考えていなかったと明石。これまでも故障に苦しんできた経験から「自分にやれることをやるだけ。(1軍昇格は)自分で選べない。(1軍に)呼ばれたらやる。呼ばれなくてもやる。それは同じですよ」と語った。

優勝経験豊富なベテランから見た“チームのいま”

これまでに優勝争いを数多く経験してきた明石は、2位に5.5ゲーム差をつけて首位を走るチームの雰囲気をどう見るのか。

「いいんじゃないですか。ここ数年はあまりないんじゃないですか。(シーズンの)最後の方は負け越す方が多かったので、これまでとは違った終盤戦かなと思います。前までは負けて『やばい、やばい』って言いながらゲーム差がなくなってきて、という感じでしたからね。9月に負け越すことも多かったですし。今は大型連勝もできているので、それはでかいと思います」

優勝争いを展開するチームからは「相手のことは気にせずに」という言葉が聞かれることが多いが、明石は「気にするなと言われても絶対に気にするんで」と笑いながら本音を明かす。「でも、チームが勝っていればゲーム差は縮まらない。まずはやれることをやって、それで負けたら仕方ない」と、目の前の一戦に全力を尽くすことだけを考える。

明石の殊勲打をベンチ前で総出になって祝福する光景からもチームのいい雰囲気は伝わってくる。工藤監督は「明石君の一打がイケイケのムードを作ってくれた」と称えたが、その工藤監督は試合前の練習時に多くの選手に声をかけている。若手はもちろんのこと、ベテランにも自分から近づいて行って、その日の調子を確かめる。この日もケージ横でフリー打撃に備える明石の背中を叩きながら話しかける姿が見られた。このような何気ないコミュニケーションも、チームのいい雰囲気を作り出す要因になっているようだ。(藤浦一都 / Kazuto Fujiura)

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