読書という旅

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 夢にまで見た「源氏物語」の50巻余りを少女はやっと手に入れた。〈妃(きさき)の位も何にかはせむ〉(皇后の位だって何になろうか)。何物にも代えられない喜びを、菅原孝(たか)標女(すえのむすめ)は「更級(さらしな)日記」でこう言い表した▲〈昼は日ぐらし(一日中)、夜は目の覚めたるかぎり、火を近くともして、これを見るよりほかの事なければ〉…。「読みふける」とは、このことだろう。いつか私も夕顔や浮舟の女君のように-と13歳ほどの少女はうっとりと夢想する▲知識を豊かにする。自分を高める。読書の効果はいろいろ語られるが、その妙味といえば何よりも、平安時代の日記に記された胸の高鳴りに違いない。灯火親しむの候(こう)、ぞくぞくする妙味を知るには、ちょうどいい季節になった▲文化庁の近年の調査では、読書量が「減っている」と答えた人は7割に上る。とりわけ30代以下でネットやゲームに使う時間が増えたためらしいが、今年は外出を控えた時間を読書に充てた人も多いとみられる▲列島ではいま、国内旅行が勧められている。1冊を手に取れば未知の世界へ行ける読書も手軽で気軽な旅かもしれない▲活字離れといわれる一方、電子書籍を読む人も増え、20代では半数を超える。タブレット端末やスマートフォンで行く「ぞくぞく一人旅」もまた、秋の夜長の一興だろう。(徹)