元鷹から京大助監督に 近田怜王氏が語る指導者の現実「もう根性だけの時代じゃない」

京大野球部助監督の近田怜王氏【写真:橋本健吾】

助監督してベンチ入りした秋リーグは1勝9敗で最下位「選手たちが一番悔しい」

京大は19日、秋季リーグ最終戦となった関学戦を0-2で敗れ全日程を終了した。通算成績は1勝9敗で最下位が決定。2017年からコーチを務め、今リーグからは助監督としてベンチにも入った元ソフトバンクの近田怜王氏は「練習ができない状況の中だったが言い訳はできない。選手が一番悔しいと思っている」と今リーグを振り返った。

昨年は秋5勝を挙げ1982年のリーグ発足以来、最高のリーグ4位となった。年間でも春2勝を含め計7勝を挙げ京大史上最多の勝利をマーク。だが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響もありチームは7月下旬から約1か月間、活動できない状況になるなど満足いく練習ができないまま秋のリーグ戦を迎えた。

「やっぱり一つ勝つのは簡単なことじゃない、難しいですね。京大はどちらかというと春を経験して秋に勝負するというチーム。今年は春がなかった分“未完成”のまま秋を迎えた感じでした。でも、それは他も同じで言い訳はできない。選手たちが一番悔しいと思っているはずです」

近田氏がこの4年間で選手たちに求めてきたのは技術は勿論だが、一番は「1人の人間としてどう成長していけるか」だった。報徳学園時代はエースとして甲子園を沸かせ、2009年のドラフトでは3位指名を受けソフトバンクに入団。トップレベルで野球を続けてきただけに、秀才たちが集まるチームに就任当初は戸惑いもあったという。

京大からのプロ入りは?「野球をやり続けられるのは若いうちだけ」

「今の野球界の流れもそうですが、もう根性だけでどうにかなる時代じゃない。練習をやるにもしっかりとした“意味”“理由”を伝えてあげないと選手たちも納得できない。そういう部分でも指導者として勉強させてもらっている。技術的な部分も上手くなってほしいですが、野球は人生の中の一つ。この先の人生の中で少しでも生かしてもらいたいと思っています」

ソフトバンクでは1軍登板がなく投手から野手への転向を経て戦力外を受けるなど決して順風満帆な野球人生ではなかった。高校、プロ、社会人を経験し、今年9月1日付けで勤務先のJR西日本から出向して京大で助監督に。「変な言い方ですが、いっぱい苦労したからこそ『そんなに人生は簡単じゃない』と。全てが正解じゃないですが自分の経験も伝えられる」と生徒たちと向き合っている。

この時期はドラフト会議が直前ということでプロを目指す選手たちに注目が集まる。京大から直接プロ入りしたのは2014年でロッテから2位指名を受けた田中英祐氏だけだ。

年々、選手たちのレベルが上がっている現状に近田氏は「将来的にプロを目指す子がでてきてほしい。野球をやり続けられるのは若いうちだけ。正直、この子たちは就職はどうにでもなる。プロに入るのが目標でなく1軍でしっかり成績を残す選手が出れば、また京大の見方も変わってくる」と口にする。

「プロに入ってダメでも、挫折を知っている人間ならまた一つ成長して社会人として活躍できる。そういった選手たちが育てられるように指導者として力をつけていきたい」。秀才軍団を束ねる近田助監督が目指す“指導者”への道はまだ始まったばかりだ。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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