「市」には戻れない、よく考えて 都構想インタビュー③前鳥取県知事の片山善博・早稲田大大学院教授  

 2025年に大阪市を廃止して4特別区に再編する「大阪都構想」の住民投票が11月1日に行われる。前回2015年は僅差で否決。大阪維新の会による2度目の挑戦を、地方自治の専門家はどう見るのか。旧自治省を経て鳥取県知事、総務相などを歴任した片山善博・早稲田大大学院教授に聞いた。(聞き手 共同通信=八島研悟)

ビデオ会議システムで取材に答える片山善博・早大大学院教授

 ―大都市制度の観点から見ると、大阪都構想はどう位置付けられますか。

 2016年のリオデジャネイロ五輪閉会式を思い出してみると、リオ市長から五輪旗を受け取ったのは東京都の小池百合子知事でした。国が開催地になるサッカーW杯と異なり、五輪は都市で開かれる「都市の祭典」です。ところが、主な会場となる東京23区はそれぞれ別の自治体。区全体を統括するトップがいない東京のような例は、実は世界的には珍しいです。大阪市を廃止して特別区を設置する大阪都構想の住民投票は、この珍しいケースに加わるかを問うものといえます。

 ―大阪市のような政令指定都市の問題点は。

 都構想が必要な理由として、道府県と大都市の間の葛藤が指摘されています。確かにそうした問題は存在します。例えば市外にニュータウンができて市内に通う人が増えると、鉄道や道路の建設が必要になります。道府県は市域にとらわれず一体的に整備したいと考えますが、大都市側にとっては、市外の都市計画は管轄外です。

 各地の政令市ではこれまで、周辺の自治体を合併することでこの問題を解決してきた例が多いですね。大都市行政の今後の在り方としては、大阪のように政令市を廃止するのではなく、周辺自治体を取り込んだ上で、警察とか道府県の権限をこれまで以上に移譲してもらう道もあるのではないでしょうか。都構想とは異なる方向です。

 ―吉村洋文知事と松井一郎市長は「自分たちの人間関係で成り立っている『府市一体』を都構想で制度化する必要がある」と訴えています。

 新しい4人の区長が同じ党派になるとは限らないし、区長が常に知事に従う関係は地方自治とは言えません。知事が4人の区長をグリップしてしまえば「身近な特別区」は名ばかりで、知事による中央集権になる可能性が高いと思います。

片山善博・早大大学院教授

 ―市が四つの特別区に分かれたら、どんな影響があるでしょうか。

 1人の市長に代わる4人の区長が選挙で選ばれ、議会も四つになるわけです。行政はかえって非効率になり、東京のように特別区間の財政格差も可視化されると思います。これらは当然の帰結で、そうなったとしても、市民が受け入れた結果ということになります。

 区の貧富の差は財政調整制度で埋められます。ただし、地方自治法や、住民投票の根拠である大都市地域特別区設置法に大阪市を復活させる規定はありません。都構想の推進側は住民投票で敗れても何度でも挑戦できますが、反対派は一度負けたらゲームオーバーです。大阪市民は、自分たちが背負うことになる結果についてよく考える必要があると思います。

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 かたやま・よしひろ 1951年、岡山県生まれ。旧自治省、鳥取県知事を経て、旧民主党政権で総務相に就任。2017年から現職。専門は地方自治論。

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