「恐怖の日々」と死刑囚 第16回表現展、垣間見える心境

By 竹田昌弘

 死刑囚が拘置施設内で描いた絵画や漫画、創作した詩、俳句などを集めた「第16回死刑囚表現展」が10月23~25日、東京都内で開かれる。死刑囚がどのように処遇されているかがほとんど明らかにされない中で、作品からはその心境が垣間見える。死刑が確定すると、死ぬことを想像し、漫画に「恐怖の日々」と書き込む人や内省を感じさせる短歌を寄せる人がいる一方、相模原障害者施設殺傷事件の植松聖死刑囚(30)は文字作品で、意思疎通のできない人の安楽死などを提案し、変化をうかがわせなかった。(共同通信編集委員兼論説委員=竹田昌弘) 

■内省を感じさせる秋葉原事件・加藤死刑囚の短歌

  表現展の事務局によると、死刑囚23人の作品計百数十点を展示する。「恐怖の日々」を書き込んだのは、堺市で元象印マホービン副社長ら2人が殺害された強盗殺人事件の西口宗宏死刑囚(59)。2019年2月に最高裁で死刑が確定する前は、多数の作品を事務局に送って来たが、確定後の今年は「恐怖」というタイトルの漫画1点だけ。黒い影から「おう!! 行くか!!!」と声を掛けられて「ドキ!!」とおびえる男性が描かれ「死ぬんなんか恐(こわ)ない!! 死ぬんを想像するんが恐いんや!!! せやから今は〝恐怖の日々〟」と記されている。 

西口宗宏死刑囚の「恐怖」

 大阪府寝屋川市で中学1年の男子生徒と女子生徒が殺害された事件の山田浩二死刑囚(50)=控訴を取り下げて一審判決の死刑確定後、取り下げの効力を係争中=の作品も、死刑の執行を意識した漫画だが、なぜか制服制帽の女性が寄り添っている。

山田浩二死刑囚の「すぐに終わるから」

  内省を感じさせたのは、7人が殺害された東京・秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚(38)。表現展の常連だが「僕の心に親が残した/しつけと称する暴力の傷/それを語れば人のせいにするなと責められ/そこを避ければ己から逃げるなと責められ/どちらにしても責められるとは/生きていることが悪いのか/お望み通り死にますよ/じゃあね」(19年)といった詩を応募したり、自分の作品の講評に対し「言論で僕を殺した貴方(あなた)には死刑廃止を説く資格なし」と大書した紙を送り付けたり、これまでは挑戦的だった。 

加藤智大死刑囚(高校の卒業アルバムから)

 しかし、今回は「父親に感謝すること三つあり 渋茶にミルク三滴注ぐ」「職員の口には出せぬ親切を 目から読み取り頭を下げる」「差し入れの厚いタオルは柔らかく 荒れた背中を優しくさする」「全国に点在したる支援者を 巻き込まぬようもうテロはせぬ」などの短歌を寄せた。

 同じ東京拘置所に収容されていた オウム真理教の松本智津夫元死刑囚(教祖名麻原彰晃)らの刑が執行されたときを思い起こさせる「処刑日の頭上のヘリの数の差は その死を望む人の数の差」という作品もある。

■植松死刑囚「幸せに生きるための安楽死、大麻、カジノ…」

  植松死刑囚が「より多くの人が幸せに生きるための7項目」として、3枚にわたって書いてきた文字作品は次の通り。

植松死刑囚の文字作品(1)
植松死刑囚の文字作品(2)
植松死刑囚の文字作品(3)

■「死を抱き生を抱きしめ獄に生く」と愛犬家殺人の風間死刑囚 

 表現展への応募作品は、ドイツ文学者で京都大名誉教授の池田浩士さん、評論家の太田昌国さん、作家の加賀乙彦さん、精神科医で立教大教授の香山リカさん、文芸評論家で法政大教授の川村湊さん、アートディレクターの北川フラムさん、映画監督の坂上香さんの7人が審査し、優れた作品は「〇〇賞」とする。 

 今回の最も優れた作品「総合表現賞」に選ばれたのは、埼玉愛犬家ら4人殺害事件の風間博子死刑囚(63)の絵画や俳句。風間死刑囚は19年、重い病気で手術を受けたことが「蛇穴を出でて混沌つきぬけし」「死を抱(いだ)き生を抱(だ)きしめ獄に生く」などの俳句につながったのかもしれない。 

風間死刑囚の絵画「命ー弐〇弐〇之壱 獄窓パラダイス」

 加藤死刑囚の文字作品は「新境地賞」とされた。応募ネーム「露雲宇流布(ローンウルフ)」こと長谷川静央死刑囚(78)が名画を参考にして描いたとみられる絵画「可愛い少女と迷想」などが「敢闘賞」。長谷川死刑囚は殺人罪で無期懲役を宣告されて服役し、仮釈放中に宇都宮市で実弟を殺害、死刑が確定した。 

長谷川死刑囚の連作絵画「可愛い少女と迷想」

 このほか、熊本主婦殺害事件の金川一死刑囚(70)の絵画「ふじさん」などが「芽吹いたで賞」、愛知県碧南市で夫妻を殺害し、現金を奪った事件で死刑が確定した堀慶末死刑囚(45)の絵画「女優・岸井ゆきの」などは「加賀奨励賞」と決まった。

金川死刑囚の絵画「ふじさん」
堀死刑囚の絵画「女優・岸井ゆきの」

■大道寺元死刑囚の母が残したお金でスタート

  死刑囚表現展は05年から始まった。連続企業爆破事件で死刑が確定した大道寺将司元死刑囚(17年病死)の母幸子さんが04年に亡くなり「死刑制度をなくしたい」という遺志を生かすため、残された預金で基金を創設。表現展の開催も使途の一つとなった。島田事件(1954年)で死刑が確定し、再審で無罪となった赤堀政夫さん(91)からも、2014年に資金の提供があり、表現展の主催は「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」となっている。

  第16回死刑囚表現展は10月23日(金)午後1~7時、24日(土)午前11時~午後7時、25日(日)午前11時~午後5時。会場は東京都中央区入船1-7-1、松本治一郎記念会館5階会議室(東京メトロ日比谷線、JR京葉線「八丁堀駅」から徒歩3分)。入場無料。

© 一般社団法人共同通信社