今月で発売20周年、U2が完全復帰を実証した名曲「Beautiful Day」に迫る

Photo: Anton Corbijn

2001年2月7日の夜、U2のフロントマンであるボノは、「世界最高のバンドという仕事にもう一度挑戦するために僕たちは戻ってきた」とロンドンのアストリア・シアターのステージで宣言した。バンドの10作目のアルバム『All That You Can’t Leave Behind』からのリード・シングル「Beautiful Day」が、その僅か2週間後にグラミー賞で3部門受賞した時、それは彼らにとってU2の完全復帰を実証するかのような出来事だったに違いない。

90年代に“世界最高のバンド”という称号を獲得したニルヴァーナと同様に、U2は90年代の大半を自分たちの名声を敢えて突き崩すことに費やしてきた。1991年に発表されたバンドの代表作『Achtung Baby』で、彼らはアメリカのルーツ・ミュージックに対する使い古された誠意や心酔を捨て、より暗く、より不快な作品をレコーディング。

さらに、1993年の『Zooropa』、1997年の『Pop』という続く2作のアルバムでも、彼らはこの芸術的な方向性を追求し、エレクトロニック・ミュージックを実験的に取り入れながら、より幻滅的な歌詞を書くようになった。しかし、アルバム『Pop』が酷評され、商業的にも満足のいかない結果を出した後、ギタリストのジ・エッジの言葉を借りれば、バンドは、「ロックンロール・バンドのフォーマットの脱構築」を可能な限り実現したのだった。

そしてU2は『All That You Can’t Leave Behind』のレコーディングで、バンド史上初めて、昔の彼らのサウンドを意図的に取り戻す努力をした。そうして『The Unforgettable Fire』『The Joshua Tree』『Achtung Baby』をプロデュースしたブライアン・イーノとダニエル・ラノワと再びタッグを組んだ彼らは、かつての名曲に宿っていたサウンドを確実に再現することに成功する。

一方で自分たちの過去に囚われすぎることに不安を感じていた彼らは、バンドの最初の3作のアルバムで使用していたギター・トーンを使って曲を演奏したいと考えていたエッジに対し、新しいギターを探すように説得したという(彼は最終的には馴染みのあるトーンを維持した)。 

「Beautiful Day」は、バンド初期のレコーディング・セッションのために書いた曲で、完全には満足していなかった「Always」を起源とする曲で(「Always」を聴くとサビの部分が「Beautiful Day」によく似ていることがわかるだろう)、バンドは「Always」に手を加え続け、ある日のジャム・セッションでボノが何気なく「It’s a beautiful day」と歌ったことから、彼らはこの曲への新たなアプローチを見出しただけでなく、全く新しい曲を生み出すことになる。

ボノは、この新曲のために喪失感を示唆しつつも前向きな歌詞を書いた。冒頭で「運が悪かったのさ、大切にしていた理由も失ってしまった/渋滞が動かないし、どこへも行けやしない 」と語るように口ずさむボノは、その後のサビで、「素晴らしい日だ / 逃してはならないんだ」と雨雲を突き破る太陽の光のように私たちに喚起する。

ブライアン・イーノが冒頭に加えたシンセサイザーによるストリングスや、ドシンドシンとトラック全編に鳴り渡るドラムマシンなど、より現代的なサウンドにするための装飾はいくつか施されてはいるが、「Beautiful Day」は、U2に彼らが最も得意とすることをやらせることで、そのパワーをほぼ全開で引き出している。アルバム『Zooropa』や『Pop』ではより荒削りで控えめなヴォーカル・スタイルを採用していたボノは、今作で再び燦然と輝く無類の楽器とも言える自らの声をフルレンジで使うようになった。

今日に至るまで、ボノは「教えて欲しい、まだ望みがあるってことはわかっている」といった歌詞を鉄球のように激しく感情的に歌い上げることができるロック界で最も偉大なシンガーの一人であり続けている。またボノ同様に、数年間は自分らしい音を出さないようにしていたジ・エッジのギターの音色が、今作では旧友とのハグのような温かみを持ち、彼の演奏がいかに重要な役割を果たしているのかを感じさせてくれる。そしてドラムマシンを使用しながらも、U2のリズム・セクションは相変わらずつけ入る隙がなく、ベーシストのアダム・クレイトンとドラマーのラリー・マレン・ジュニアがトラックに彩りと活気を加えている。 

「Beautiful Day」は批評的にも商業的にもU2が必要としていたヒット曲だった。90年代後半のバンドの作品に冷めた見方をしていた批評家たちは、バンドの原点回帰作として同曲を称賛し、 中でもとりわけ高く評価したローリング・ストーン誌は、後に〈2000年代のベスト・ソング〉で9位に選出している他、同誌の<オールタイム・グレイテスト・ソング500>のリストにも加えている。

2000年10月にシングルとしてリリースされた「Beautiful Day」は、10ヶ国近くの音楽チャートで首位を獲得し、世界中で100万枚以上のセールスを記録。また、第43回グラミー賞では、“最優秀楽曲賞”、“最優秀レコード賞”、“最優秀ロック・パフォーマンス賞ヴォーカル入りデュオまたはグループ”の3部門を受賞している。

しかし、この曲の真のレガシーは、過去20年間の様々な歴史的場面のサウンドトラックになったことだろう。「Beautiful Day」は、2001年のアルバム『All That You Can’t Leave Behind』発売後に敢行した“Elevation Tour”以降のU2の全コンサートのセットリストに必ず入っている。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件発生から5ヶ月後にU2が第36回スーパーボウル(Super Bowl XXXVI)のハーフタイムショーに出演した時、彼らは「Beautiful Day」でオープニングを飾り、その後「MLK」と「Where the Streets Have No Name 」でテロの犠牲者に追悼を捧げた。

そして、新型コロナ・ウイルスのパンデミックの渦中に、バラク・オバマとミシェル・オバマ夫妻が2020年度の卒業生のための開催したヴァーチャル卒業式では、「この曲は、私たちが今どこにいるのかではなく、これからどこへ行けるのかを歌った祈りの曲です」とボノ自身が紹介し、カミラ・カベロ、ベン・プラット、カリド、コールドプレイのクリス・マーティンらがリモート共演で「Beautiful Day」のカヴァーを披露していた。 

「Beautiful Day」は、10月30日にリリースされる『All That You Can’t Leave Behind』の20周年記念盤でも聴くことができる。オリジナル・アルバムのリマスター音源に加え、最大39曲のボーナス・トラックや、2001年6月にマサチューセッツ州ボストンのフリート・センターで行われた“Elevation Tour”からの19曲のライヴ音源に加え、アントン・コービン撮影の写真集などを収めた同記念盤は多形態で登場する。

Written By Jacob Nierenberg

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U2『ALL THAT YOU CAN’T LEAVE BEHIND (20th Anniversary Edition)』
2020年10月30日発売

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