三密回避に知恵絞る 京王電鉄の「京王れーるランド発 車両基地ツアー」を同行取材しました

京王れーるランドは往年の名車が並び、一部は車内も見学できます。

鉄道会社のファン感謝イベントの定番といえば車両基地の公開ですが、新型コロナの2020年は三密回避に各社が苦心しているようです。そんな中、京王電鉄が10月25日に実施したのが「京王れーるランド発 車両基地ツアー」。多摩動物公園駅に集合した後、専用列車で隣の高幡不動駅に移動して車両基地を車内から見学。行程すべてを電車内で完結するなど、感染症対策の工夫が凝らされていました。

車両基地には新鋭車両や珍しい車両を集め、丁寧なMC(車内アナウンスによる説明)も合わせ、参加した京王ファンの満足度は高かったようです。同行取材の機会に恵まれたので、他社の参考になりそうなツアーを詳述してみましょう。

告知はれーるランドHPだけで

京王は従来から高幡不動車両基地を公開してきましたが、コロナ禍にあってファンが殺到しては大変。そこで車両基地見学に、京王の名車を展示するれーるランド見学、特別専用列車への乗車という付加価値を付けて、ツアー商品に仕立てました。

専用列車には特別塗装車が充てられ、ヘッドマークも取り付けられました。

高幡不動駅隣の多摩動物公園駅のれーるランドでは、京王線5000系(初代)や井の頭線3000系といった往時の車両を展示します。専用列車は11時過ぎの発車でしたが、ツアー客には10時ごろに集まってもらい、出発までれーるランドを自由見学してもらいました。

募集方法も一工夫。通常はプレスリリースを報道各社に投げ込むか、駅や車内のポスターで知らせるのですが、今回はれーるランドホームページ(HP)限定の告知にとどめました。HPだけの案内で果たして参加者が集まるのか、京王の営業陣営には若干の不安もあったようですが、ふたを開ければ案ずるより生むが易し。10月に2回催行したツアーには、いずれも定員を大幅に上回る参加希望が寄せられ、HPが口コミで広がる〝SNS万能時代〟を証明するような結果となりました。

ツアー定員は各日100人で、4両編成の電車に1両当たり25人ずつ乗車。定員のほぼ4分の1なので、三密の心配はありません。専用列車は普段から高幡不動―多摩動物公園間を走る7000系電車ですが、ヘッドマーク取り付けやカラフルな内外装で撮り鉄の皆さんには絶好の被写体となったようです。

車両基地内を行ったり来たり

いよいよツアースタートです。多摩動物公園駅を発車して高幡不動駅に到着した列車は、そのままスイッチバックで折り返し車両基地内へ。東西に分かれた車両基地は全部で50本以上の留置線があり、列車は基地内を行き来しながら車両洗浄機、床下を点検するためのピットなどを体験していきます。

私が感心したのは車内MC。「洗浄機は時速6km以下で走行しなければならないため、運転士は緊張してハンドルを握っています」なんて言われると、参加者は「低速運転にも、それなりの苦労があるんだな」と思わず感心してしまいます。

お父さんも座席に膝を着いて、思わず童心に返ります。

京王はファンのためとばかり、珍しい車両を集めて専用列車の車窓からお披露目しました。一番人気だったのは、2017年に運転開始したクロスシートとロングシートがリバーシブルで変えられる5000系電車(2代目)。丸みを帯びた前頭部は京王レッドで、画一化が進む首都圏の通勤電車群にあってひときわ存在感を発揮します。

京王と相互直通運転する都営地下鉄からは10―300形がゲスト参加しましたが、行き先表示は特別版の「特急・高尾山口」。車両の床下を点検するためのピットでは、隣接線に停車した電車の点検が模擬実演されました。

ピットでの点検が模擬実演されました。
車両基地で「入」の電光表示は架線への通電中を意味します。「人」ではありません。

珍しい車両では、「総合高速検測車」が目を引きました。形式はクヤ900形で、愛称名はDAX(Dynamic Analytical eXpress)。MCも新幹線の事業用車両になぞらえて、「京王の〝ドクターイエロー〟」とアピールしていました。

隣線に停車中の「DAX」を車窓から見学。窓ガラスで反射するので撮影には苦労します。

別々の会社だった京王線と井の頭線

ここで中休みをいただいて、京王の略史をご紹介。京王は1998年までの旧社名だった京王帝都電鉄で分かるように、元は京王電軌と帝都電鉄という別々の鉄道会社でした。京王は今の京王線(相模原線、高尾線、競馬場線、動物園線)、帝都は井の頭線を運行していました。京王線は軌間1372mm、井の頭線は1067mmと線路幅が違うのは違う会社だったからです。

東京圏西側の私鉄は戦時統合で東京急行電鉄(大東急)に。戦後の分離独立で京王と帝都が一つの会社になったため、京王線と井の頭線を京王が運行することになりました。京王の車両は今、銚子電気鉄道や上毛電気鉄道など関東のローカル私鉄で第2、第3の人生を送っています。珍しいところでは、群馬、栃木県の第三セクター・わたらせ渓谷鐵道のトロッコ列車「トロッコわたらせ渓谷号」の客車は中央2両が元京王電車です。

車内からの車両基地見学ツアーはテーマパークのアトラクション!?

最後に社員がヘッドマークを持って車内を回り、希望者には記念撮影のシャッターを押します。

高幡不動車両基地を約1時間にわたり車内から見学して、この日のツアーはおしまい。高幡不動駅で同駅下車組と出発の多摩動物公園に戻って、れーるランドや動物公園を見学する組に分かれ解散となりました。

最後にツアー客何人かに話を聞きました。東京都調布市の小学2年生は筋金入りの京王ファン。「好きな車両は」と聞くと、「5000系(2代目)」の答えが瞬時に返ってきました。井の頭線の3000系電車が今も活躍するのが先述の上毛電気鉄道で、上電が毎年1月3日に前橋市の大胡電車庫で開く新春イベントにも出掛けるそうです。

もう一人、同じく調布市の親子は「子どもが電車が好きで、れーるランドのHPで見付けて申し込みました」。車内を見渡した印象ですが、家族連れではお父さんと男の子のペアが目立っていたような印象を受けました。今は空前の鉄道ブームとか言われますが、それが京王のツアーにも表れていたような印象を持ちました。

ツアー取材後に私が持ったのは、「まるでテーマパークのアトラクションのよう」という突飛な感想です。テーマパークには、列車とかクルマとか船とかに乗ってコースを回りながら楽しむアトラクションが多くあります。広大な基地内を電車で効率よく見られる京王の車両基地ツアーは、鉄道イベントの新しい方向性を示したように思いました。

車両基地の社員も手を振ってホスピタリティ(もてなし)を実践します。

文/写真:上里夏生

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