え、これも盆栽!?職人親娘に学ぶ“生きたアート”5つの楽しみ方

楽しみ方は自由自在!盆栽とは何か

鉢植えの植物に、人の手が加わり生み出される芸術、盆栽。

原型が作られたのは、2000年以上前の中国。その後、日本で禅宗の影響を受けながら発展し、現在のような形になりました。今では世界中に愛好家がいます。

もっとも、歴史の長い伝統芸術と聞くと、少し難しそうなイメージを持つ人もいるかもしれません。

「盆栽って生き物なんですよね。水をやらないと元気がなくなるし、剪定をしないと伸び放題になる。世話をしていると、かわいくなってくる」。

「盆栽を、私は”あれ””それ”と言えないんです。つい”あの子””この子”と呼んでしまう」。

このように語るのは、香川県高松市にある「花澤明春園」の5代目、花澤登人(はなざわ・たかひと)さん。娘の美智子さんとともに、時に常識を覆すような、盆栽の自由な楽しみ方を伝えています。

盆栽の名産地・高松にある「花澤明春園」

香川県高松市は、松盆栽の日本一の生産地。

温暖で、日照時間が長く、雨が少ない。松の生育にぴったりの気候から、高松市で盆栽用松の栽培が始まったのは200年以上前だとか。

現在は、約60軒の盆栽園が軒を並べており、2020年4月には、手ごろな価格の盆栽が買える「高松盆栽の郷」もオープン。いまや盆栽の聖地のひとつとなっています。

この地で多くの初心者が訪れるのが、「花澤明春園(はなざわみょうしゅんえん)」。多彩な盆栽を販売しているほか、初心者向け盆栽教室を毎月開講しています。

盆栽というと「使う木は松」「形はまっすぐ」といったイメージがあるかもしれません。

しかし、「盆栽界のエンターティナー」との呼声もある花澤さん親娘が伝えるのは、そういった常識にとらわれない、自由な楽しみ方。

職人親娘が教える、盆栽の5つの楽しみ方

筆者が「花澤明春園」を訪ねたのは、2020年9月。この日は、大雨が予想される曇り空でしたが、花澤登人さんと、その娘の美智子さんが笑顔で出迎えてくれました。

ここで花澤さん親娘にお伺いした、盆栽の楽しみ方をお伝えします。

1.描く形は自由

盆栽は、針金をかけて木を矯正し、数年間かけて味わいのある樹形をつくっていきます。

この時、木に負荷をかけ過ぎると折れてしまうため、針金をかける時期、矯正する度合いなどにはコツがあります。しかし、そこさえ分かれば、つくれる形状は自由自在。

記事冒頭の写真にある「BONSAI」という文字や、上の写真にあるハート型の盆栽は、美智子さんの作品。このほか、星、丸など、「花澤明春園」には、遊び心あふれるさまざまな形の盆栽があります。

2.オシャレな器も選べる

鉢や器が変わると、盆栽の持つ空気感も一変します。あえて歪みがあったり、特殊な形状(写真右下など)だったりする鉢を使うことで、味わいに深みが増します。

鉢の形状だけではありません。日本には、信楽(しがらき)焼、備前焼といった、さまざまな種類の焼き物があります。その組み合わせも含めると、表現の幅はまさに無限大。

3.木・草はなんでもOK

盆栽は、黒松や五葉松といった松、あるいは桧の一種である真柏(しんぱく)を使う場合が多くあります。それは、形を矯正しやすいから。

しかし、盆栽に使う植物には本来、制限はありません。たとえば、リンゴ(写真右上)、オリーブ(右下)なども使えます。「花澤明春園」には、このほか、山野草(野山の草木)を使った盆栽が棚にところ狭しと並べられています。

「どんな植物でもいいなら、鉢植えと変わらないじゃないか」。そう思うかもしれません。しかし、盆栽の真髄は、人の手を加え、アートにするということ。木の形や、鉢へのこだわりなどで、あなたなりの世界観を表現すれば、それが盆栽となるのです。

4.人形を配置してもOK

盆栽は、人形を添えたりデコレーションしたりしてもOK。雪だるま人形を置いてクリスマスらしさを演出したり、動物の置物を使って楽しい無人島を創造したり。

そう、盆栽は、あなたが描きたいストーリーを表現できるツールなのです。

5.四季の樹で「ファミリー盆栽」

盆栽愛好家には、花が咲く木を盆栽にし、楽しむ方も多くいます。こちらは、桜を使った盆栽。

こちらは、梅の盆栽。

登人さんは現在、「四季を楽しむファミリー盆栽」を提唱しています。早春に咲く梅、春に咲く桜、秋に色づく紅葉、冬に咲く椿、そして1年を通して青く茂る松。これらを家族で育てることで、家庭で季節の変化を遊ぶことです。

「現代は、親子が離れて暮らすことも多いと思います。でも、たとえば、親が梅の盆栽を育て、子が桜を育てる。そして『今、こっちは梅が咲いたよ』と写真を送り合ったりする。こうすることで、家族の絆も強まるかもしれません」(登人さん)。

「花澤明春園」には「ぼんさい110番」も!

鉢選びやデコレーションなど、話を聴きながら筆者もワクワクしました。

その一方で、「針金をかけて形を矯正したり、木を大きくなりすぎないよう剪定したりするのって、難しそう……」と感じたのも事実。

そうした人たちに対して、花澤さんは盆栽教室を開いているほか、「ぼんさい110番(※1)」を実施しています。これは、盆栽に関する悩みに、気軽に電話相談に乗ってもらえるというもの(※2)。

「花澤明春園」では、盆栽に使う鉢、肥料、デコレーション用の人形など、盆栽に必要な用具一式も取りそろえています。

販売されている盆栽の価格帯はさまざまですが、初心者でも購入しやすい3,000~4,000円程度の盆栽も多数あります。

「花澤明春園」は、盆栽のある彩り豊かな生活のスタートに、ぴったりの場所(※3)。

50歳で見つけた夢

伝統芸術・盆栽の、型にはまらない楽しみ方を伝える花澤登人さんと美智子さん。とはいえ、こうした取り組みは、盆栽業界では必ずしも主流ではないとのこと。

盆栽は、高額なものでは1億円にもなります。登人さんも、数十万円から100万円を超えるような高額の盆栽をこれまで数多く手掛けてきました。

転機が訪れたのは、50歳の時。当時、登人さんはたまたま盆栽教室で教える機会がありました。

初心者向け講座など、あまり興味がなかった登人さん。しかし、剪定や針金かけを指導する中で、「花澤先生のおかげで、盆栽が生き生きするようになった」「盆栽って楽しい!」と、多くの笑顔が生まれるのを目の当たりにします。「それは、高額の盆栽を扱うのとは、まったく異なる喜びでした」(登人さん)。

その後、登人さんは盆栽教室を本格的に始めます。丁寧な指導は評判となり、中には関西から夜行バスで通う教え子もいたのだとか。

「私は今、63歳です。盆栽職人として働けるのは後15年ほど。残された時間は『盆栽で人生が豊かになった』という人を1人でも増やすために使いたい。そう思ってます」。

娘の美智子さんは、関西の大学で学んだ後、2006年に香川に戻ってきました。

その後、若手の盆栽職人がどんどん減っている現状を見て、「この場所をなくしたくない」との思いから、2015年ごろに、本格的に盆栽の道に進むことを決心したとのこと。

前述したハート型盆栽のように、柔らかな感性で盆栽と向き合う美智子さん。その手からどんな作品が生まれていくのか。今後が楽しみです。

数百年にわたり受け継がれる思い

盆栽は、古いものだと樹齢200~300年にもなるのだとか。つまり盆栽は、人ひとりの人生を超えて、受け継がれていくということです。

現代は、効率や変化、スピードが重視される時代。こうした中、数年、数十年とかけて育まれる盆栽は、奇跡の芸術と言っても過言ではありません。

盆栽を見ながら筆者が思うのは、人生の豊かさってなんだろう、ということ。

香川県高松市にある小さな盆栽園は、そんな疑問に向き合う「人生の旅」の入り口へ誘ってくれているのかもしれません。

In cooperation with 花澤明春園

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