これは、マスク?視点を変えると生活はもっと面白くなる!ミニチュア写真家・田中達也さんインタビュー

9年間、毎日作品を生み出し続ける田中達也さん

「ミニチュア写真家」という新たな職業を作り出し、世界各地から注目されているアーティスト・田中達也さん。「MINIATURE CALENDAR」という形で毎日1作品ずつ発表を続け、2020年で9年目になります。

作品はどれも、誰にも真似できないような世界観をもつものばかり。どうやってアイデアを作っているのでしょうか。

自身の趣味を組み合わせて「ミニチュア写真家」に

1981年に熊本で生まれた田中達也さんは、大学時代、教育学部で美術コースを専攻し、その後アートディレクターとしてデザイン会社に就職しました。

もともと、プラモデルやミニチュアフィギュア収集が趣味であり、Instagramをきっかけに、ミニチュアを撮影して投稿するようになったそう。これらの写真が思わぬ反響を呼んだことから、「ミニチュア写真家」として、株式会社MINIATURE LIFEを立ち上げました。

クライアントからの信頼が、さらなるチャレンジを生み出す

「自分の専門性を信頼し、尊重してくれるクライアントばかりなので、安心して作品作りに集中できています」と田中さんは言います。

この仕事に全力を尽くすようになってからようやく、チャレンジしたいものを自由に選べるようになったそうです。

尽きないアイデアと自由な視点

筆者は以前、日本のテレビ番組「情熱大陸」で、田中さんの特集を拝見したことがあります。田中さんが大型雑貨店で撮影用の道具を選んでいた時、交通指揮棒に似たものを見つけるとすぐ、「これって火がついた薪のように見えませんか」と、まるで宝物を探し当てたようにスタッフへ話していた場面がありました。それが今でも強く印象に残っています。

ほかの人が見ても考えつかないような視点で、田中さんは身の回りの物を見ているようです。どのように観察すると、新しいものの見方ができるのか尋ねると、「習慣と訓練です」と返ってきました。

「たとえば、日ごろ料理を作っている人は、冷蔵庫にどんな食材が残っているかを確かめると、何品くらい料理ができるかだいたい想像できますよね。それと同じ感覚です」

テーマ設定の際、田中さんは「季節感」、「世界の共通性」、「特定のイベント」などを特に注意するのだそう。国籍や年齢層にかかわらず、作品を見た人にすぐ理解してもらえるよう工夫しています。

一目見るだけですぐに、誰もが「いいね」を押したくなったり、シェアしたくなったりしてしまう面白さが田中さんの作品の魅力。ときどき、子どもと一緒にアイデアを考えたり、子どもに意見を求めたりもするそうです。

「これ、何に見える?」と聞いてみて、子どものピュアな視点から、多くの人が作品に共感できるかチェックしています。

作品に合う素材の集め方は?

「正確に数えたことはありませんが、ミニチュアフィギュアのコレクションは現在、およそ5万個はあるでしょう」

もともと趣味だったフィギュア集めが仕事になってからは、購入するとき、奥さんに止められることが無くなったそうです。「この仕事を始めて一番嬉しいことかもしれません」と田中さんは笑いながら話してくれました。

テーマに合う道具を探す時は、絶対に買おうと決めつけることはせず、いろいろなショップを回るそう。そして、撮影したいシーンから素材になりそうなものを連想していきます。

「最近ではネットオークションで買うことも増えました」と田中さんは言います。自動でオススメしてくれる「この商品にも注目」といったリストから、思いがけず理想の素材が見つかることもあるそうです。

毎日作品を投稿するパワーの源

2011年4月からおよそ9年間、田中さんは「MINIATURE CALENDAR」に毎日作品を投稿し続けています。平面写真の撮影、制作過程の動画を編集し、アップロードするまでは、約5時間もかけているのだそう。創作を続けるパワーは一体どこから来るのでしょうか。

「多くのファンが支持してくれたり、励ましてくれたりするおかげです」

自分の作品に期待してくれる人の存在が、常に自分の限界を超えて作品を生み出し続けたいと思う源になっているそうです。

特別な意味をもつ作品は?

田中さんの原点は、なんとブロッコリーにあるのだと語ります。

「初めてブロッコリーを使った時、集まったブロッコリーが林のように見えたのです。それ以降の作品は、何かに『見立てる』ことへの意識が強くなり、豊かな架空の情景を創りだすようになりました」

実は、ブロッコリーはあまり好きではなかったという田中さん。作品の原点になったからか、今ではしっかり食べるようにもなったそう。お子さんも近くで見ていたせいか、唯一食べられる野菜がブロッコリーだと話してくれました。

発表するだけで終わらない作品作り

SNSで作品をアップロードすると、「いいね」の数やコメントで、その作品に対する人々の反応がわかるようになりました。しかし、自信のある作品でも反応が予想と違うことも。田中さんは、その理由を繰り返し考え、改善していると言います。

一度の失敗を気にせず、同じ素材でも異なる見立てをして情景を創り出し、時間をおいてファンの反応を確かめているのです。

台湾の展覧会で感じたカルチャーギャップ

2017年、田中さんは台湾に招かれ、中世紀念堂で台湾初の展覧会を開催。「これまでの受賞歴や経験に左右されず、こんなにも大規模な会場で展覧会を開いてくれたことをとても嬉しく、光栄に思っています」と、驚きを交えた様子で話してくれました。

田中さんが展覧会で印象に残っていることは、台湾の人のシェア文化だと言います。「台湾の人は、作品と自分自身をセットで写真に収め、インターネットでシェアすることが好きですね。日本人は作品だけを撮影する人が多いです。シェアも台湾の人に比べると少ないんだなと感じました」

文化の違いも、海外で展覧会を開いた際に経験する面白さだったそうです。

今後は欧米でも、規模の大きな展覧会を開きたいと田中さん。さらに、公園など生活に密着した場所でも自分の作品が見られるようにしたいと語ります。

「美術館などに行かなくても、外出さえすればどこでも芸術が楽しめる環境になったらいいなと考えています」

日常を少し面白くする、田中さんからのメッセージ

最後に、読者へメッセージをいただきました。

「家にいる時間がこれまでよりも長くなっていると思います。この機会に、自分が持っているものを改めて見つめ直してみてください。角度と視点を変えるだけで、日常には面白いものがたくさん溢れていることに気が付きますよ」

In cooperation with 田中達也

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