「横浜で唯一」のラグビーバー閉店 W杯で盛況も、コロナ禍が追い打ち 

寄せ書きで埋め尽くされたラグビーボールは「宝物」と語る加藤丈司さん=横浜市中区

 ラグビーバーとして「横浜唯一」をうたった「セブンオウス」(横浜市中区)が、9月末で閉店した。昨年のワールドカップ(W杯)で盛況を極めたが、もともと集客が不利な立地で、コロナ禍が追い打ちをかけた。ただ、逆境でも前進しなければ反撃の芽はない。夫婦で経営する加藤丈司さん(51)がラグビーに学んだ不屈の精神とともに新天地で狙うのは、逆転のトライだ。

 楕円(だえん)球を埋め尽くす客の寄せ書きを眺めながら、加藤さんは思い出にふけっていた。英語にスペイン語、そして読めない言語でも、筆致から当時の熱狂がよみがえる。

 日本でラグビーW杯が初開催された1年前。横浜・関内の雑居ビル3階に構えた店内は連日、試合中継を観戦するファンらでごった返した。「まるで異国のようでした」と加藤さん。決勝も組まれた横浜でラグビー専門店は珍しく、口づてに客が客を呼んだ。W杯を見越し、2017年12月に開店した加藤さんの狙い通りだった。

 路頭に迷った外国人客の「駆け込み寺」としても頼られた。「決勝のチケットを3枚探しています」。決勝2日前、日本語のパネルを携えた英国人3人組も来店。入手困難だったが、加藤さんはつてを頼って調達してあげた。

 寄せ書きとともに、外国人客が贈った母国代表のユニホームや国旗に込められているのは、そんな加藤さんへの感謝だ。彼らは帰り際、決まって言い残した。「東京オリンピックの頃、また来るよ」

 一転のコロナ禍。「言葉通り、天から地です」。W杯の活況を弾みに店内行事を仕込んでいた矢先、3月から客足が途絶えた。国内最高峰トップリーグは、今季は4月以降の全試合が中止され、5月まで休業を余儀なくされた。試みたランチ営業は不慣れで苦戦。国際リーグのスーパーラグビー開催日に辛うじて営業を続けていたが、限界を迎えた。

 ただ、これで「ノーサイドではない」という。「セブンオウス」は、加藤さんの出身、横浜ラグビースクール伝統の「七つの誓い」に由来する。たたき込まれたのは、「苦しみに耐え抜く」「勇猛果敢」「ベストを尽くす」といった闘志だった。

 「敵失を当てにしては逆境は打開できない。前進あるのみ」と加藤さん。横浜駅から徒歩圏内の立地に新店を立ち上げ、勝負するつもりだ。12月の開店を目指す。より広い客層を対象にコンセプトやメニューを一新するが、「セブンオウス」の屋号は変えない。「また来るよ、と約束してくれたお客さんが迷わないように」

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