テスラに続け!中国で急成長する新興EVメーカー、蔚来汽車、理想汽車、小鵬汽車を徹底解説

新型コロナの感染拡大によって全世界の自動車販売が落ち込む中、中国では9月の新エネルギー車(主にEV、一部プラグインハイブリッド車と燃料電池車を含む)の販売台数が前年同期比67.7%増の13.8万台と、3ヵ月連続で2ケタ以上の高成長を維持しました。

昨年末に上海で現地生産を開始した米国のテスラが最大の市場シェアを誇っているほか、国産のEVメーカーも急速に販売台数を伸ばしており、中国では有力メーカーがひしめく「EV戦国時代」に突入しようとしています。今回は、注目度が高い中国の新興EV三社である蔚来汽車、理想汽車、小鵬汽車についてご紹介したいと思います。


ブランド戦略に巧みな蔚来汽車(ニオ)

中国の新興EV三社の中で最も勢いがあり、かつ販売台数が多いのは蔚来汽車(ニオ)です。同社は自動車情報サイト「ビットオート」の創業者である李斌氏が2014年に設立したEVメーカーで、2018年9月にニューヨーク市場で株式上場を果たしました。蔚来汽車の主な特徴としては、1,高級車路線を目指している、2,バッテリー交換方式を採用している、3,EVを他社に製造委託していることが挙げられます。

このうち1について、同社は2014年にEVによるフォーミュラーカーレース「フォーミュラーE」に参戦したり、2017年にスーパーEV「NIO EP9」でドイツのニュルブルクリンク北コースで世界最速タイムを記録したりと、積極的にブランド戦略を展開することで高級車のイメージを消費者に植え付けています。

そのため、同社が販売しているSUVタイプの「ES6」、「ES8」、「EC6」の価格は35.8万元~55.8万元(約560万円~870万円)と中国の競合他社よりも高い価格設定となっています。

無料のバッテリー交換サービス

2について、同社はEVが長距離走行に向かないことや充電時間が長いことに着目して、EV購入者に無料のバッテリー交換サービスを提供しています。現在、同社は中国全土に155箇所のバッテリー交換ステーションを展開しており、約3分程度で自社製EVのバッテリーを充電済みのものに取り換え、充電時間を節約してすぐに走行できるようにしています。このバッテリー交換サービスは非常にコストがかかる反面、顧客の満足度とブランドイメージの向上に寄与しているため、同社は先行投資と考えて今も継続しています。

委託製造が弱み?

3について、現在中国政府は新エネルギー車の新規参入メーカーに対して、自動車の生産資格を取得するように義務付けています。同社は創業してから経過年数が短く、政府が定める要件を満たしていないため、自社でEVの設計と開発のみを手掛けて、提携先の江淮汽車に製造委託する方式を取っています。

この方式は、EVが急速に普及する局面において機会損失を防ぐことができる一方、テスラなど自社生産のEVに比べて製品の信頼性や完成度などの点で見劣りしています。現在、同社は市場シェアの拡大を優先して製造の外部委託を続けていますが、今後新設や買収などを通じて自社工場を持つ可能性があります。

独特な動力システムを採用する理想汽車

理想汽車は、自動車情報サイト「オートホーム」の創業者である李想氏が2015年に設立したEVメーカーで、2020年7月にナスダック市場で株式上場を果たしました。同社が現在販売しているモデルはSUVタイプの「理想ONE」のみですが、主な特徴としては「レンジエクステンダー」という走行距離を伸ばす装置を採用していることが挙げられます。

「レンジエクステンダー」はモーターに取り付けるガソリン式の発電装置を指しており、この装置はバッテリーによる走行時は稼働しませんが、バッテリーの残量が少なくなるとガソリンで発電してEVの走行距離を伸ばすことができます。そのため、「理想ONE」の走行可能距離は800kmと一般的なEVの約500kmに比べて優位性があります。

また、同社は2018年に力帆汽車の買収を通じて自動車の生産に必要な資格を手に入れ、2019年後半から江蘇省の自社工場で「理想ONE」の量産を開始しました。理想汽車は蔚来汽車に比べて、ブランド戦略にあまり時間をかけなかった分、新興3社の中で最も早く自社工場で量産に入ることができ、今年に入ってから急速に納車台数を伸ばしています。

大衆車市場に照準を合わせる小鵬汽車

小鵬汽車は、ウェブブラウザ「UCブラウザ」の創業者である何小鵬氏が2015年に設立したEVメーカーで、2020年8月にニューヨーク市場で株式上場を果たしました。同社は現在SUVタイプの「G3」とセダンタイプ「P7」の2モデルを販売しており、EVの価格を低めの抑えることで大衆車市場に照準を合わせています。

7月23日以降、中国では新エネルギー車の購入補助金の支給対象が30万元(約470万円)以下のモデルに限定され、これに伴ってテスラは補助金を受けられるようにモデル3の値下げを実施しました。小鵬汽車の「G3」と「P7」は補助金適用後の価格はそれぞれ14.7万元と23万元とお手頃感があり、このうち「P7」の価格は競合のモデル3よりも安く設定されていることから、大衆車の分野で消費者から一定の支持を得る可能性があります。

また、EVの製造において、同社は「G3」と「P7」の製造を提携先の海馬汽車に委託する一方、2020年に福迪汽車を買収して自動車の生産に必要な資格を手に入れました。その後、広東省の自社工場で「P7」の量産を開始し、自社製造に舵を切り替え始めています。

中国版「テスラ」が生まれる可能性も

現在、中国ではEV大手のテスラとBYDに加え、従来のガソリン車大手も次々と新エネルギー車を投入しており、競争が非常に激しくなっています。その中で、中国の新興EV3社はいずれも先行投資の段階にあり、売上高を上回る大幅な赤字を出すなど今後事業の持続性に不安感が残っています。

しかしながら、3社は独自の戦略で市場から高く評価され、成長期待も強いことから、今後の事業展開によっては「中国版テスラ」のような成長ストーリーが期待できるかもしれません。

<文:市場情報部 アジア情報課長 王曦>

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