橋下徹元知事に「ちょっと待って!」あの女性は今…

都構想に「オルタナティブを」

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真下 周

共同通信社記者

真下 周

共同通信社記者

2001年入社。「複雑なものを複雑なまま書く。そこに大切なものが宿る」。新聞記者失格かもしれませんが、自分のモットーであり、スタイルです。

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 12年前、大阪府知事として彗星のごとく現れた橋下徹氏の最初の職員朝礼で「ちょっと待って!」と食ってかかった女性職員を覚えているだろうか?

 大石あきこ氏(43)。「公務員はぬるま湯」と示唆する橋下氏に、その場で立ち上がって「どれだけサービス残業やってると思ってるんですか!?」と抗議し、周囲を凍りつかせた様子はテレビのワイドショーでも取り上げられた。

 あれから長い月日がたち、大阪維新の会は大阪の地で根付いた。彼女は今、「れいわ新選組」の公認候補として、11月1日に住民投票がある都構想に、「私たちがオルタナティブ(代案)を出す」と反対の声を張り上げている。

 私と同年代で、大阪市内で子育てするという共通点のある彼女がどんなことを考えて行動しているのか知りたくなり、会って話を聞いてみた。語られたのは「維新的でない暮らし」への選択肢だった(聞き手 共同通信=真下周)。

橋下徹氏に抗議した様子はテレビでも話題になった(大石氏のブログから)

―どうして公務員を辞め、政治家になろうと思ったのか。

 「維新府市政で成長している」とか「都構想で大阪がよくなる」とか言うけど、内部の人間からすれば、真実が語られていないんです。はっきり言って大阪は成長してない。職員は政治活動制限条例で黙らされ、トップダウンの体制下で物言わぬ公務員になってしまった。災害が増えて、役所のインフラの重要性は増しているのに削る。間違った為政者のもとで働いていると実感してました。40歳になり、ようやく子供も手を離れるころになり、「チェーン店でうまくないそばを打つより、自分で店を持ってこだわりのそばを打ちたい」と思ったんです。どうせ一回きりの人生なので。

 府庁を2018年秋に辞めました。直前に台風19号が襲い、私が勤めていた湾岸沿いの咲洲庁舎(*旧WTCタワー。維新が二重行政の象徴としてやり玉に挙げてきた)も隣接する駐車場の車があちこちでひっくり返る大変な被害だった。当時の松井一郎知事が府内の甚大な被害状況が明らかになった2日後、平日にもかかわらず維新幹部として沖縄知事選の応援に高飛びしてしまった。「終わったな」と思った。それが辞める直接のきっかけです。

―新型コロナウイルスの流行でPCRの検査機関がクローズアップされた。大阪は2017年に市立と府立の地方衛生研究所が統合し、独立法人化している。

 維新の取り巻きの人たちは、よく勉強せずに「2つあるのが無駄」という間違った発想で民営化を進めました。「単純検査だから外注、非正規でいい」に、私たちは抵抗した。こういった組織は普段は誰にも関心を持たれないけど、10年に1度のパンデミックや食中毒が大幅に拡大するような状況で活躍する。将来こういう事態が必ず起きると思ってました。見えないところでみんなを守っている分野って膨大にある。統合・民営化に反対する市民団体を有志で立ち上げ、議員にも働き掛けて1~2年あらがった。最終的に民営化を押し切られました。前代未聞のことで、今でも全国で唯一の民営施設です。

 橋下氏が4月、ツイッターで「首長時代に徹底的な改革を断行して、現場を疲弊させたところがある。お手数おかけしますが見直しをお願いします」と、〝ごめんちゃい〟投稿しましたね。地味なものは政治パフォーマンスに使いにくいから、リストラ対象になったのです。

こうした公共財に対する考え方はどうやって養われたか。

私は府に環境職として採用されました。環境農林水産部の騒音振動グループが長かったです。騒音の規制ですね。今は自分が演説で騒音立てているけど(笑)。他に大気汚染防止。窒素酸化物(NOx)とかPM2・5とか。工場のダクトの排出量を計ったり、小学校の屋上に置いている検査計で濃度監視したり。すべて見えないところで活躍したい部署。でも、彼ら維新のイデオロギーは、自分たちが無駄と思ったものは精査することなく削る。「見えない、目立たないところの意義は分からない」です。

ただ、見えないところの重要性に気付ける市民もほとんどいない。

 その通りです。市民はそういうものかも。私だって、自分に子供ができて初めて保育所というサービスの重要性を知った。妊娠した時、だれでも保育園に入れると楽観してました。でも10月までに産まないと翌年4月の一斉入所に応募できず、「待機」をすり抜けられないと知った。「保育所で子供を預かるのは国の義務だ」とかいくら正論で言っても、ないものはない。結局、なんとか入れたけど、市役所の職員に「空きが出てラッキーですね」と言われて腹が立ったし、保育園が足りないのがこれだけ悲惨なのか、と。

 原発だって東日本大震災が起きるまで、地震が起きたらそこに逃げ込めば安全、なんて言っている人もいた。人はインフラで助けられたと気付いた時に謙虚になるもの。でもそういう人の心理を役所が真に受け、また利用して(サボタージュを)やっちゃうのが維新政治の特徴。まじめに現場で10年に1度の危機に備え、人命を救う研究や取り組みをしている人にすれば侮辱ですよ。彼らの労働を無にしており、それは社会の危機に結びつく。

街頭演説に向かう大石あきこ氏=10月下旬、大阪市淀川区

でも選挙をベースに政治は決められていく。人気が重要では。

 選挙は民主主義の一部にしかすぎないですよ。社会を変える時に、社会の過半数が問題を知っていて合意する必要はないわけで。例えば、地下鉄ホーム柵とか、障害者が自分たちの必要なことを役所に申し入れて実現する。これは皆の安全につながり、エゴじゃない。少数運動でも社会をよくすることは可能。本来の民主主義はそういうものです。その申し入れに合理性があれば行政は対応する。「多数決で決めよ」だけで全てが成り立ってはいません。

あなたは、少人数学級の実現を目指すなど、教育分野での活動も積極的だ。

 一人一人の子供のための公教育を充実させたい。市立小に通う私の娘は人前で話すのが極度に苦手で、特定の場面で言葉が出なくなってしまう。不安とか自信のなさとかが影響するようです。保護者としての心配は多い。でも苦手なことが多い子も大事にされる学校、社会であってほしいと思います。大阪ではかつて同和教育から発展したマイノリティーに目配りする人権教育が手厚かったのに、維新下の教育でそれが奪われ、競争があおられている。影響はじわじわ出ていますよ。

ただ、若い世代で維新を評価する声が特に大きいのが教育分野だ。中学校の給食導入、私立高校の授業料無償化、民営化した地下鉄の無料パスカード配布。恩恵は目に見え、実感できる。最近では、協賛企業名が入ったエコバッグを市立小の小学生に配った。

 「教育に手厚い」という評価はあやしいですね。その陰で公立学校の統廃合が進められ、教師の人件費削減が同時並行で進んだ側面を忘れないでください。たしかに中学校の給食導入のように、いいと思える施策もあるけど、パスカードをもらったところで「大阪市に住んでよかった」と言うほどのものでもない。私も含め庶民って1万、2万円を簡単に浪費していて、目の前の100円、200円の割引にこだわりやすいんです。それを巧みに利用しているのが維新。労働組合が強ければ、まともな行政があれば、あなたの月収10万円ぐらい上がるのに、目の前にぶら下げられる月200円で得したと思わされてしまう。だまし絵ですよ。苦しい生活の中でエコバッグを与えて喜ばせる。そういう為政者を英雄として祭り上げたまま、一票を入れ続ける地獄です。

―子供の数が減っている。公民館の利用は高齢者がほぼ独占。図書館に行けば、幼児の声が私語として注意される。市民プールで「こどもは向こうへ」と排除されることもある。子育て世代は肩身が狭い。現役世代への投資を掲げる維新は魅力的に映る。

 子育て世代とお年寄り世代の対立が現象として生み出されています。でも、それは「(資源や利益は有限とする)限られたパイ論」に捕らわれているから。たしかに昔だったら子供の声で一々言われませんでしたよね。でも今は、閑静な住宅外に保育所を建てるのは迷惑、といった運動が起きてしまう。私の仕事でも、「子供の騒音」という苦情が増えてました。これは高齢者のエゴとも言える。でも子供の割合が増えると、状況は変わってくるはず。じゃあ、どうやって増やすかですが、ファミリー層にお金と時間がもっとあればいい。ゆとりができ、プールにも図書館にも頻繁に足を運べるようになります。若い世代が非正規雇用で低賃金と長時間労働にあえぐ一方で、お年寄りは正社員で退職金をもらい、年金もまだあるから、相対的に力関係が上になっちゃってる。

 ファミリー層の所得が向上したら、こんな不均衡はすぐ是正される。エコバッグやパスカードで満足していたらいけません。小さなばらまきの一方で、彼らのお金と時間の余裕を失わせてきたのが維新。ここを打破して世代間格差をなくす。

 政府には通貨発行権があります。実際に今回コロナで10万円を給付したでしょ。国債もめちゃくちゃ発行してる。財政が破綻しないかという心配は無用です。金を刷り続けて、だぶついたら超大金持ちから徴収すればいい。それまでは財政出動して、ファミリー世帯の懐をうるおすべきです。ハイパーインフレ?なりません。とにかくお金を配りましょう。

ビラを配る大石あきこ氏=10月下旬、大阪市淀川区

あなたは介護職の月8万円の賃上げなどで、所得を倍増させる計画をぶちあげている。

 これが維新のシナリオに対抗するオルタナティブ。維新は「限られたパイ論」と「生産性の向上」の2本柱です。私たちは、お金に関してパイは限られていないという考えで、パイが限られていると思わされている世論を揺さぶるのがミッション。これはMMT理論(現代貨幣理論)でも言っていることです。限られたパイ論では、パイの争奪戦になる。最も分かりやすいのは、年寄りが取るか、若者が取るかの構図で、分断やいがみ合いが起きる。維新はポピュリズム手法を駆使したマーケティングによって、政治的に最大限アピールできるような形でパイを配分し、人気として回収します。 そういう技術にたけている。でも、そんな人たちが行政の担い手でいいんですか?どちらかをてんびんにかける発想から足を洗う必要がある。両方救えるに決まってます。

 本当にパイが有限なのは「労働」だけです。つまり生産能力、供給力。これを最大限に活用する。庶民が必要とする労働にお金をつぎ込む。そうすれば介護の人手が確保され、子育て支援が充実し、教員が大幅増となり、少人数学級が実現できます。

 私たちは反緊縮と積極財政を言ってきた。消費税廃止、所得倍増、そして安定した社会保障。みんなが節約していがみあうのではなくて、弱者を切り捨てる必要もなく、全員が底上げできる。維新に対抗するためには「反対」だけではだめ。こっちの方がいいと選択したくなるオルタナティブが必要です。

推進派がことあるごとに持ち出すのが、都構想後の財政シミュレーションのグラフ。

 これ、「特別区設置協定書」の説明パンフレットにも載ってます。「右肩上がりで未来アゲアゲ」に見えるようにつくられている。都構想で成長の好循環を生むから、移行に初期費用がかかってもプラス収支になるというもの。プラス収支の成分を分解したら、3つあります。①経済成長による税収増、②地下鉄民営化による配当増、③ごみ収集と市民プールのコストカット。これで71億円のプラス収支って主張。

 でも、①は国の経済成長率1%の数字をそのまま使用してます。①を抜いたら、たちまち右肩下がり。その額、マイナス700億円。コロナ後で果たして1%の成長が維持できます?②の地下鉄民営化の配当増もコロナ後を反映してません。③のゴミ収集も災害や疫病の時に大事になるインフラ。カットできます?それに市民プールの削減は市民の反対が根強く、賛成票を減らしそうだから、松井市長は「プールがなくなるのは誤解だ」と言い始めました。

 要するに、このグラフはいくらでも操作できる。700億のマイナスを無理やり71億のプラスに見せる。詐欺ちゃいます?

都構想財政シミュレーションに反論している(大石氏のブログから)

都構想で児童相談所は現状の2カ所から特別区ごとに4カ所に。保健所も同数できる。

 都構想に関係なく、児相は4カ所に増やす方向で進められています。保健所も増えること自体はいい。ただ箱を作っても詰める中身が大事。専門職員を増やし、養成しないといけない。2000年に24あった保健所が1カ所に集約され、あとは保健福祉センターになりました。これもある意味、リストラ。維新台頭後も職員数のリストラは続いた。もっと早く手をつけておくべきでした。ただ、今からでも大阪市を廃止せずにできます。わざわざ(特別区になり財政状況が弱まる)悪い条件に持っていく必要はないですよ。

維新は今、インバウンドやカジノを含むIR誘致といった外需呼び込みに躍起。これでうるおえば街はきらびやかになり、先端産業も入ってくる。ホームレスは排除されても、市民生活は豊かになる。そうすれば福祉などに金を回せる、と。

 思い出してください。バブル熱でつくったものが、彼らが今、二重行政として批判する二つのタワーでした。今また同じあやまちを繰り返そうとしてません?当時は2個つくった。今度は1個つくろうとしてない?二重行政を解消した先に、また無駄な箱物をつくり、10年後に今度は「一重行政でつくった」とでも言うんでしょうか。今回、コロナで少し冷静になった人も多いと思う。維新が「1個だけつくらせて」と言っているカジノや万博のタワー、「もうやめたら?そんなに一発当てたいの?」と疑問に思う仲間を増やしたいですね。やっぱり手堅い産業がいいよ、と目を覚ましてほしいです。

大阪が他市に比べて成長が遅れている、と。その理由は何だと考えるか。

 インバウンド景気が20年ずっと続くなら、状況は変わったかも。でも続くわけがないです。インバウンド需要はいわば「手堅くない産業」。所得を上げる要素に入れすぎない方がいい。製造業などの安定した産業はどうなりました?大阪だけの話でなくって、日本でも世界でも抱える、2番目の都市の地盤沈下ってやつ。かつて栄えた第2,第3の都市はラストベルト(さびれた地帯)になってしまいました。今は、金融資本がもうかる産業にシフトし、手堅い製造業が枯れてしまっている。大阪の企業はずいぶん海外に出て行きました。外需を輸血としたら、輸血に頼りすぎるのはどうなのか。血をつくりだす努力をした方がいいです。

人口減など構造的な頭打ちの状況に、統治方法を変えて外から富を呼び込み、現状を突破しようという「維新の夢」のオルタナティブが介護や保育というのは、物足りないのでは。

 私には介護を放置しておく選択肢はないですよ。すでに老人の孤独死が言われて久しい。身内がそうなっていいか、と想像力を働かせてほしい。「生まれてこなきゃよかった」と言って死んでいく人が増えるような世の中で生きていたくはないですね。

 人はきらびやかなものが好き。私もUSJやTDLは好きですよ。すぐれたCMには見入るし、iPhoneのような機能的商品、成功した商品を選ぶ。コスとトパフォーマンスがいいモノへの支持は根強い。だけど、それだけの社会で私たちは生きていけない。

 きらびやかなもの、単純なものが好きなマンガのような社会が20年、30年続いています。でもアメリカでは、若い人の半分は資本主義のイメージが悪い。安定を求める人が増えている。世界のトレンドを見た時に、「安定した雇用、社会保障」は必ず来ます。それを叫ぶ民主社会主義者のサンダースが若い人の間で絶大な人気を誇っているでしょ?社会不安が強まる中で、介護や保育は安定の象徴。安定雇用、社会保障、そして消費税廃止で本物の好景気を導いて、「好きなものを買えるよ」「まっとうな給料でいい物づくりしよう」と呼びかけたいですね。維新のマンガ的な成長戦略のやり口には、別のマンガ的手法で対抗できます。

インタビューに答える大石あきこ氏=10月中旬、大阪市中央区

維新とれいわもある意味で似ている部分がある。

 アウトサイダー的な部分はそう。でも目指す方向はまるで違います。維新は「反緊縮」を、声を大にしては言えない。きらびやかな世界を見せて、実はけちけちとした生活を強いている。そこでの住人は、半ば諦めの中で最もコスパのいい生活をしようと行動することを余儀なくされます。都構想になればもっと加速するでしょうね。だから今回の大阪市廃止をなんとしても止めたい。そういうムーブメントをつくっていきたい。

 旧態依然としたものをぶちこわすとき、左からぶちこわそうとする人と、右からぶちこわそうとする人がいる。右からぶちこわす人たち、例えば維新は、資産家には優しい一方、現場の既成組織を敵視する。労組を悪者にし、人権を軽視し…。でも私は労組が破壊されては困るし、人権は大切、という考え。維新の対抗軸になるためには、本当に勝つための戦いをしないといけない。都構想はひとつの試金石。両方が改革者として登場した時、市民に「真の改革者はどっち?」「どっち側からぶち壊してほしい?」と問うほかない。強くて優しい社会を実現させましょう。

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大石あきこ 1977年生まれ、43歳。府立北野高卒業。大阪大大学院環境工学専攻。2002年、大阪府庁に入職し、18年に退職。20年2月、れいわ新選組の大阪5区公認候補に。同年3月、著書「『都構想』を止めて大阪を豊かにする5つの方法」を出版。