あつあつの鉄板に盛られた麺と野菜に、好きなだけソースをかけて-。焼きそば定食をはじめ、家庭的な味で愛される長崎県五島市大荒町の喫茶レストラン「千家」が今月末、半世紀近い歴史に幕を下ろす。創業者の高洲節子さん(73)は、二人三脚で歩んだ夫亡き後も厨房(ちゅうぼう)に立ち続け、店を守ってきた。店舗跡では来年、長女の濱崎亜紀子さん(51)が新たに放課後デイサービス事業を始め、子どもたちの居場所に生まれ変わる。
千家は1974年4月、節子さんが市内の別の喫茶店から独立し、中央町で開業。数年後には夫の勝雄さん(2017年、74歳で死去)が脱サラして接客や出前を担当し、07年には現在地に移転した。
「小さい頃から料理好き」と語る節子さんが作る不動の人気ナンバーワンは、焼きそば定食。特注の細麺を使い、客が自分でソースをかけるスタイルは創業当時から変わらない。他にも豚カツやミニハンバーグ、目玉焼きが乗った千家定食や、カツカレーなど、ボリュームたっぷりの料理が客の胃袋を満たしてきた。
今は音楽教室を営む亜紀子さんも小学生の頃から店を手伝い、「(夏祭りの)夜市にも行けなかった」と懐かしむ。一方、10年ほど前から構想を温めていた放課後デイサービス事業を実行に移す中で、「長年頑張ってきた母に、ゆっくりしてほしい」と“世代交代”を提案した。
新たに始める放課後デイサービス施設は「みんなの家」と名付け、学校帰りの子どもたちが、自宅に帰ったり習い事や塾に行ったりするまでの時間を過ごせる場所にする。認可外事業として運営し、習い事の教室や自宅への送迎も行う。亜紀子さんは「へき地に住む子が距離を理由に、習い事などを諦めてほしくない。名前の通り、いつでも『ただいま』と帰ってきて、ほっとできる場所になれば」と願う。
また共働き世帯やひとり親世帯の子どもが1人きりで食事をしないですむよう、希望があれば食事も提供する。料理を作るのは節子さん。「千家のメニューを少しでも残したい」との思いがある。
31日の閉店を前に、千家には名残を惜しむ客が連日詰め掛ける。だが「千家の味」は消えることなく、今後は子どもたちの楽しい食卓を彩り続ける。節子さんは「お客さんに支えられた47年。これからは気楽に生きていこうかな」と穏やかにほほ笑んだ。
半世紀の歴史に幕 五島・喫茶レストラン「千家」 放課後デイサービスへ 店の味は子どもたちに
- Published
- 2020/10/28 23:48 (JST)
- Updated
- 2020/12/31 15:26 (JST)
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