戦争と平和 日本の防衛費を見てみよう(NO YOUTH NO JAPAN)

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インスタグラムはこちら8月のテーマは「戦争と平和」でした。

今回の記事では日本の防衛について理解を深めてもらうことを目的に2回に分けてお送りします。1回目では日本の防衛費について、2回目では日本の防衛を取り巻く国際情勢について解説していきます。

防衛政策というと「何だか難しい」、「専門的でとっつきにくい」といったイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、国防は日本の平和を守る要でもあり、政治を考える上で避けては通れない分野でもあります。特に、昨今の緊迫した東アジア情勢を考えると、国民的な議論の必要性はより高まっていると言えるでしょう。

そこで第一回目となる今回は、Instagramで紹介した自衛隊の活動に関連して、日本は防衛政策にどのようにお金を使っているのか、日本の防衛費をトピックとして解説していきます。

 

令和2年度防衛費のポイント

令和2年度の防衛費は、5兆3133億円となっています。そのうち、人件費が約2兆1千億円、物件費は約2兆9千億円です。また、防衛費は8年連続の増加を見せており、今年は過去最大になりました。また、次年度以降の分割払いとなる「新規後年度負担」については、約2兆6千億円が計上されました。この新規後年度負担は、後の数年間で「歳出化経費」という名目で、分割払いとして計上されます。今年度も前年度以前の購入分として約2兆5千億円が計上されています。 

(防衛省「我が国の防衛と予算 令和2年度予算の概要」より引用) 

続いて、防衛予算における重点項目を見てみると、日本主導の戦闘機開発や米国製F-35戦闘機の追加購入、護衛艦「いずも」の空母化に代表される従来の分野の防衛力強化に加え、近年増加しているサイバー攻撃からの防衛や人工衛星を用いた情報収集能力などの強化の必要性から宇宙や電子空間といった新たな領域にも重点を置いています。

こうした活動領域を拡げる一環として、今年5月には航空自衛隊に日本の人工衛星を、宇宙空間のごみや不審な人工衛星から守ることを任務とする「宇宙作戦隊」が新設されました。また、自衛隊員の待遇改善にも多くの予算が使われており、女性隊員や子育て中の隊員などへの配慮も見られます。


日本の防衛費を海外と比較する

各国の国防費や国防費の対GDP比を見てみると、2019年では日本が484億ドル(対GDP比は0.9%)、米国が6,540億ドル(3.05%)、中国が3,363億ドル(1.25%)、ロシアが1,177億ドル(2.75%)、韓国が549億ドル(2.44%)となっており、日本の防衛費は米国や近隣諸国と比較して実数、割合ともに低いことが分かります。

また、日本の防衛費は増加傾向にありますが、上昇率も他国と比較すると必ずしも高いとは言えません。例えば、中国は過去4年間を見ても前年度比7%超の防衛費増額が続いています。その他にも昨年度は米国が8.6%、韓国が8.2%と大幅に防衛費を拡大させており、アジア・太平洋地域の防衛費の増加傾向は顕著です。日本の防衛費も年々増加していますが、他国と比較するとかなり緩やかであると言えます。

(日本経済新聞「防衛予算、最高の5兆3133億円 伸び率は主要国より低く」電子版 2019.12.21より引用)

日本の防衛費の対GDP比が海外と比較して低い背景には「GDP(GNP)1%枠」という枠組みがあります。1976年に三木内閣が防衛費の膨張や周辺国の反発を避けるために、防衛費を対GNP比で1%以内に抑える方針を閣議決定しました。1986年には中曽根内閣が総額明示方式(複数年度の防衛費の総額をあらかじめ提示する)という新たな防衛費予算の枠組みを打ち出したことで制度上は撤廃されました。

しかし、実際に防衛費が対GDP(GNP)比1%を超えたのは撤廃後の1987年から1989年の3年間のみで、実態として「GDP(GNP)1%枠」は温存されてきたことが分かります。なお、導入当時はGNPを基準に算定されていましたが、後に経済指標がGDPに置き換えられた事を受けて現在では対GDP比で1%以内に抑えることになっています。

また、昨年度からはNATO(北大西洋条約機構)の基準に基づく防衛費の算出も行われています。この基準では従来の防衛費に他省庁の関係予算を加えるため、数値上若干の増加が見込まれます。昨年度の防衛費は対GDP比0.9%でしたが、NATO基準では1.3%になりました。これはトランプ大統領の同盟国に対する防衛費増額を呼び掛けに応じる形を取ったと言えます。

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今後の米軍駐留経費負担はどうなるのか

トランプ大統領は同盟国に対して防衛費増額だけでなく、一貫して在外米軍の駐留経費負担の増加も求めてきました。直近では米韓が駐留経費負担を巡って交渉が難航し、期限切れとなったり、7月末にはドイツの駐留米軍から1万2千人を撤収させることを決定したりするなど、米国と各同盟国との間で駐留米軍の費用負担を巡る問題が顕在化しています。

日本でも年末に思いやり予算の負担を決める特別協定の改定が控えていますが、交渉の難航が予想されます。以下では日本における米軍駐留経費について見ていきましょう。

私たちがよく耳にする思いやり予算とは、米軍駐留経費負担のうち、基地内の光熱費や人件費など日本の負担が義務とされていないものについて負担するものです。「思いやり予算=米軍駐留経費負担」と報道されることもありますが、実際は駐留経費の一部を指すものです。本年度の在日米軍駐留関連経費3,993億円の内1,993億円を思いやり予算として負担しています。

駐留経費負担の割合に注目すると、2004年に発表された米国防総省のデータでは、日本は米軍駐留経費の74.5%を負担しており、韓国の30%やドイツの32.6%などと比較して著しく高い割合です。また、2017年に防衛省が行った試算では、2015年度の在日米軍駐留経費の日本側の負担割合は86.4%に上るとされています。

このように日本の駐留経費負担は他国と比較して高くなっており、駐留経費の約半分を占める思いやり予算についての改定交渉は日本にとって非常に重要な意味を持っています。

11月に控える米大統領選挙の結果は、年末の協定改定、ひいては日米関係を大きく左右すると考えられます。これまでは安倍首相とトランプ大統領の親密な関係が良好な日米関係を担保してきましたが、両国の首脳が決定するこのタイミングで日米関係も何らかの変化を迎えると考えられます。アメリカの同盟国に対する強硬姿勢は大統領選に向けたトランプ大統領のアピールの一環であるという見方もあり、改定に向けた本格的な交渉は日米両政府の新政権発足を待つことになりそうです。

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まとめ

今回は日本の防衛費について見てきました。新たな分野での活動や自衛隊装備の近代化など、日本の防衛政策は一つの転換点にあるのかもしれません。アジア太平洋地域の国々が防衛費を年々増額している中で、日本がどのようなスタンスを取っていくか、私たち自身が積極的に議論し、意思表示していくことが何よりも大切です。

次回は日本の防衛を取り巻く国際情勢についてお送りします。

NO YOUTH NO JAPANでは、これからも様々な入り口から政治と若者をつなげていく活動をしていきます。

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出典時事ドットコム「【図解・行政】在日米軍駐留経費負担の推移(2019年3月)」
(https://www.jiji.com/jc/graphics?p=vepolseisaku-anpoboei20190312j-06-w400)
時事ドットコム「米軍駐留経費協議、秋以降に 政府、大統領選動向を注視」2020.8.13
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020081200825&g=pol
日本経済新聞「在日米軍駐留経費、日本負担は86% 防衛省試算」電子版 2017.1.26
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS26H64_W7A120C1PP8000/)日本経済新聞「トランプ氏、同盟国で初の米軍削減へ 独に報復拭えず」電子版 2020.7.30
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62071620Q0A730C2FF8000/
日本経済新聞「防衛予算、最高の5兆3133億円 伸び率は主要国より低く」電子版 2019.12.21
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53618680Q9A221C1EA3000/
防衛省「在日米軍関係経費(令和2年度予算)」
https://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/us_keihi/keihi.html
防衛省「令和2年度防衛白書」
https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/
防衛省「我が国の防衛と予算 令和2年度予算の概要」
https://www.mod.go.jp/j/yosan/yosangaiyo/2020/yosan20200330.pdf

 (文=足立 諒)

 

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