香港、15年連続で最大の日本食品輸出先 4千円ブドウも人気、安い韓国産追い上げ

10月、香港のスーパーで販売していた山梨県産のシャインマスカット

 実りの秋に収穫された日本の果物が香港のスーパーマーケットの店頭を彩っている。人口約750万人の香港は、日本の農林水産物・食品の輸出先として国・地域別で15年連続首位という日本の農産物の一大市場なのだ。1房約4千円の高級ブドウをはじめ、日本での販売価格の倍以上になることも珍しくないにもかかわらず、おいしい日本の食品はグルメの香港人に欠かせない地位を築いた。ただ、世界の食品が届く香港市場にはライバルも多い。安さを武器に韓国産が急速に存在感を強めており、日本の食品関係者は危機感を強めている。香港の食品市場の最新事情を伝える。(NNA香港・華南版編集長=安田祐二)

 ▽関税なく通関に利便性、富裕層も多く

 「ブドウは日本産が甘くて一番好き」「丹精込めて栽培された日本産の味は高品質で格別」。日本から届いた秋の味覚に香港市民から絶賛の声が上がる。

 10月中旬、住宅街にあるスーパーで家族客らが日本産果物を並べた特設売り場で次々と足を止め、ブドウやモモなどを手に取って熱心に品定めしていた。

 岡山のシャインマスカット「晴王」は1房が約300香港ドル(約4千円)、鳥取の「二十世紀梨」は2玉が約100香港ドル(約1300円)で売られていた。青森のリンゴ「きおう」や宮崎産の早生(わせ)ミカンも並ぶ。果物は航空便での輸送費用などが上乗せされるため、少なくとも日本の倍以上に跳ね上がることが多い。

10月、香港のスーパーで販売していた日本産の高級ブドウ

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により香港と日本を結ぶ直行便は大幅な減便・運休を迫られ、輸送に遅れが出るなど影響が及んだ。現在は正常化が進み、農産物もちゃんと届いている。コロナ禍により大好きな日本旅行ができないでいる香港市民にとって、遠くなった日本を身近に感じさせてくれる。ある日本の貿易関係者は「海外旅行に行けないため、富裕層の間では食べ物にお金を使う傾向が強まっている。高額な商品も堅調に売れている」と明かす。

 日本の農林水産省によると、2019年は日本の農林水産物・食品の輸出額全体の2割を香港が占めた。19年の香港向け輸出額は前年比3.7%減の2037億円と7年ぶりに前年実績を下回ったものの、05年から続くトップの座を維持した。

 関税がなく通関の利便性が高いフリーポートである香港では日本の食品が広く流通する。日系のイオンを含む現地のスーパーには果物だけでなく、野菜や加工食品、乳製品、菓子類、飲料までさまざまな日本の商品が並び、香港の消費者を引き付けている。19年の香港向け輸出の内訳をみると、加工食品を含む農産物が全体の58%、水産物が42%だった。

 ▽コロナ禍で売り込み困難、オンライン商談模索

10月、香港のスーパーで販売していた韓国産のシャインマスカット

 「高額な日本産と比べ、コストパフォーマンスが受けている」。韓国産食品の販売業者はほくそ笑む。今の時期は多くのスーパーで韓国産のブドウやナシなどが売り出されている。価格帯は日本産の半額程度。筆者も食べてみたことがあるが、味も悪くない。

 香港は貿易の利便性が高いだけにライバルも多い。虎視眈々と香港市場を狙う韓国はじめ世界の商品との競争を勝ち抜くためには、香港人消費者の需要に一段と寄り添った商品を輸出していくことが欠かせない。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)香港事務所の高島大浩所長は「おいしい日本産果物を少しでも長い期間供給し続けることができれば、市場で優位に立てる」と指摘する。北から南まで日本で収穫時期にずれがある特徴を生かせば、高品質な果実を継続的に輸出できるという発想だ。

 コロナ禍も影を落としている。「支持してくれるファンをより一層増やさなければ」。香港で食品輸出拡大に取り組む日本の自治体関係者は焦りの表情で打ち明ける。香港政府が感染対策として実施している入境制限により、日本から担当者が香港へ出張し現地の小売企業なとど商談することができなくなっているのだ。

 香港は昨年後半から、米国と中国の貿易摩擦が打撃となり景気低迷が続いていた。そこに新型コロナ感染拡大が追い打ちをかけた。域内初の感染者が確認された今年1月下旬以降、香港政府は感染防止対策を相次いで実施。4月中旬以降は新規感染者の増加に歯止めがかかっていたが、7月から8月にかけて再拡大に見舞われた。累計の感染者数は10月27日時点で5300人を超えた。

香港の食品見本市には例年、多数の日本企業が出展していたが、今年は新型コロナの影響で開催延期となった=2018年8月

 ジェトロ香港事務所はオンラインでの商談を仲介する取り組みに乗り出した。9月に日本の食品を現地のバイヤーに紹介する展示スペースを香港のオフィス内に開設。菓子や調味料、飲料、乾麺などを中心に計約100品目のサンプルと鶏卵、水産品のカタログを展示した。現地のスーパーや飲食店などのバイヤーに来訪を呼び掛け、日本側と香港側のオンラインでの商談を取り次いでいる。

 現地のバイヤーの間でも新たな商品を扱いたいというニーズは強く、開設後の2カ月弱で約30人の買い手が訪れた。オンラインでの商談を経て、店頭販売が始まるなど結果が出始めているという。

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