自制が利かない「手負いの龍」習近平|湯浅誠 ロバート・オブライエン大統領補佐官、クリス・レイFBI長官、ウイリアム・バー司法長官、そしてポンペオ国務長官の「反共四騎士」が行った立て続けの演説は何を意味するのか――それはアメリカがついに新たな危機に対応するパラダイムシフト(枠組み転換)に踏み切る宣言だった! 11月の大統領選挙でどちらが勝ったとしても、アメリカの対中強硬策は変わらない。ならば日本はどうすべきか?(初出:月刊『Hanada』2020年10月号)

パラダイム転換の「新冷戦」

自由主義世界のジレンマは、自由を否定する全体主義にさえ、その自由を与えざるを得ないことにある。中国共産党はその弱みにつけ込んで、自由で開かれた国に狙いをつけては「目に見えない侵略」を仕掛けてくる。満面の笑みと惜しみない資金提供のウラに、腹黒い支配欲を忍ばせて。ところが、武漢ウイルスのパンデミック(世界的大流行)後は、感染源の弱みを見せまいとして一気に狂暴化する。

北米大陸で甚大な被害を受けた「白頭ワシ」が羽をバタつかせるうちに、中国大陸から「手負いの龍」が暴れ出したのだ。「戦狼外交」などとナショナリズムむき出しの習近平政権には、もはや自制が利かなくなった。

香港の民主派を力で締め上げ、ウイルスの原因調査を提起したオーストラリアに経済制裁を仕掛け、中印国境でインド側を攻撃しただけではない。日本の尖閣諸島の領海にたびたび侵入し、米欧の民主主義に対する批判を平然と繰り返す。相手が弱ければイジメ抜き、強ければ一歩引き下がる。中国共産党の戦略は、いまも歴代皇帝がやってきた領土拡張のやり方と少しも変わらない。

いま止めなければ、19世紀型の中華帝国主義と化した「手負いの龍」は増長するばかりだろう。ポンペオ国務長官による7月23日の演説は、「その自由への敵意は攻撃的である」と、全体主義に特有の行動を見ている。ポンペオ長官を含め4人の政府高官が、リレーのように熱戦の一歩手前に至る「冷戦」を明確に宣言した。中国をこうまでつけあがらせてしまった歴代政権による「関与政策」からの転換である。

先陣を切ったロバート・オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、6月24日にアリゾナ州で個人を封殺する中国共産党の全体主義イデオロギーをえぐり出した。

次いで、クリス・レイFBI(連邦捜査局)長官が7月7日、ハドソン研究所でスパイによる「人類史上最大規模」の富の窃盗を非難し、ウイリアム・バー司法長官が7月16日、フォード博物館で中国の野心とその経済的な手口を暴いた。

最後を締めくくったポンペオ国務長官の演説を読みながら、アメリカがついに新たな危機に対応するパラダイムシフト(枠組み転換)に踏み切ったことを実感した。

7月23日にニクソン記念図書館で行われたポンペオ演説は、「自由の確保は私たちの時代の使命だ」と米中冷戦への尋常でない決意を語っている。その怒りは、「中国の共産主義を変えなければ、中国共産党が私たちを変えるだろう」と、あとに引けない危機感を大胆に述べていた。

外交ゲームの掟である「やられたら、やり返す」ではなく、米中外交の破綻を覚悟で「やられる前に、やる」と啖呵を切ったのだ。この最終演説の直前の7月21日に、在ヒューストンの中国総領事館をスパイ活動の拠点との理由で閉鎖要求をしている。万事をひそかに処理する諜報世界の枠を越え、事実を公表することで政権の決意を明確にした。これに対して中国は、在成都のアメリカ総領事館の閉鎖を要求して、掟の枠内で「やり返す」しかなかった。

さらにアメリカ財務省が、香港の林鄭月娥行政長官を含む中国共産党幹部ら計11人を制裁対象として公表したのも、アザー厚生長官が中国の猛烈な反対を押し切って訪台したのも、その延長上にあろう。

オブライエン大統領補佐官の先の演説では、この「やられる前に、やる」との強硬策の正当性を明示していた。補佐官は「中国共産党はマルクス・レーニン主義の組織であり、習近平総書記は自らをスターリンの後継者とみている」と述べて、独裁政権は決して許さないとの姿勢を鮮明にしていたのである。

ちなみに、トランプ政権は狡猾にもライトハイザー通商代表と劉鶴副首相の8月半ばの会談は認め、貿易戦争の「第一次合意」の実行を求めるための小さな窓は開けていた。中国との細いパイプだけは維持して譲歩を求めるなどと、万事に抜かりはない。

「浸透戦術モデル」の豪

筆者がこのポンペオ国務長官やレイFBI長官らの演説にいちいち頷くことができたのは、すでにクライブ・ハミルトン教授の『目に見えぬ侵略─中国のオーストラリア支配計画』(小社刊)が、それらの具体的な事例を実証していたからだ。

これまでオーストラリアで起きていたことは、中国共産党が自由世界に仕掛ける際の「浸透戦術モデル」だった。だからこそ、ポンペオ演説がいう中国の強奪、強制、無法に対して、「いま立ち向かわなければ、歴史的な過ちを繰り返すことになる」との一節が、過酷な現実を呼び覚ます。

オーストラリアのペイン外相がこの四月、武漢ウイルスの発生と経緯について「独立した調査を行うべきだ」と語ったとき、中国共産党はただちに豪州産大麦に高関税をかけ、食肉を一部禁輸にする報復に踏み切った。

その背景には、中国共産党がオーストラリアをターゲットに進めてきた「属国化戦略」が暴露され、米豪同盟の解体に失敗したことがあることも、『目に見えぬ侵略』で示唆されていた。

現在のスコット・モリソン首相は、財務長官時代の2016年8月、中国の国営企業がニューサウスウェールズ州の配電会社オースグリッドを買収しようとしたことを、土壇場で阻止した張本人である。電力は企業活動の血液であり、これを中国に握られれば、オーストラリア経済どころか政府の政策決定をも左右されるところだった。

実際、中国国有企業に電力を牛耳られるフィリピンは、北京からの影響にからきし弱い。フィリピン政府は2007年に、すべてのエネルギー網の管理権を中国の国家電網公司に与えてしまっているからだ。わずか一社の中国国有企業が、フィリピン全土の配電盤を握っているとは異常ではないか。

ハミルトン氏によると、中国系フィリピン人はフィリピン資本の半分を握り、全人口のたった1.5%の中国系が、とびぬけた政治力を持っているのだ。

中国を拒否したオーストラリアと拒否できなかったフィリピンの差は、すぐに表れていた。中国に配慮するフィリピンのドゥテルテ大統領は最近、海軍が南シナ海で他国、すなわちアメリカとの合同演習に参加することを禁じたのだ。

ロレンザーナ国防相は8月3日の記者会見で、米中両国が南シナ海をめぐり対立を先鋭化させており、これと距離を置く姿勢を示した。

出版自粛が自由を葬る

ポンペオ演説をファクトで実証する『目に見えぬ侵略』がいかに衝撃的であったかは、出版に至るまでの経緯を知れば察しがつくかもしれない。著者のハミルトン氏は、懇意の出版社と契約を取り付けていたのに、草稿を送る段階になって出版を断ってきたからだ。出版社が北京からの報復や、オーストラリア国内で中国の手先となって行動する人々を恐れたのだ。

対中配慮は自由の自殺である。この一件をもってしても、オーストラリア社会がいかに中国から無言の圧力にさらされてきたかが分かる。これが戦前の軍国日本で起きた出版拒否ではなく、現代のしかもイギリス連邦の一国で起きた事実に愕然とするのだ。

1936年(昭和11年)に陸軍青年将校が決起した「2.26事件」で、東京帝国大学教授の河合栄治郎が「二・二六事件の批判」を書き上げた際の事情がそうだった。声をかけた新聞社や出版社が、この時ばかりは掲載に尻込みをした。しかたなく、河合は「帝国大学新聞」に掲載するしかなかった。

著書が発禁処分を受け、帝大を追われた河合と違い、幸いにもハミルトン氏の翻訳本はこうして手にできる。これら日豪二つのケースを考えると、「自由の確保は私たちの時代の使命だ」と述べたポンペオ国務長官の発言が、ズンと現実味を帯びてくるのである。

この『目に見えぬ侵略』は、米ソ冷戦を描いたドキュメンタリー映画のように、北京の秘密会議から始まる。それは2004年8月半ば、世界に散らばる中国の外交官が北京に集められた場面だ。当時、この国の最高権力を握る中国共産党総書記、胡錦濤は、何事かといぶかる外交官たちの前で、党中央委員会がオーストラリアを「中国の周辺地域」に組み込むべきであると決定したと述べた。

属国化戦略は日本にも

「周辺地域」とは従来、陸の国境を接する国々を指しており、中国共産党にとっては力ずくによって併合するか、あるいは中立化すべきターゲットになる。南シナ海の大半を独り占めすることになると、南半球にある遠方のオーストラリアでさえグンと近くなる。

しかも、中国の経済成長に必要な資源の供給国であり、かつ米豪同盟にクサビを打ち込む意味からも欠かせないとの勝手な理屈だ。

ハミルトン氏が聞いた情報提供者は、その場にいた人々に「経済、政治、文化など、あらゆる面でのオーストラリアに対する包括的な影響力」を獲得せよという密命が与えられたという。本書の副題にある中国のオーストラリア支配計画の始まりである。

北京はオーストラリアの政治と経済を牛耳ることにより、アメリカに「ノーと言える第二のフランス」を西太平洋に構築する野望を描いた。

あのポンペオ国務長官の演説では、アメリカ国内でも中国共産党がこれまでの善意に満ちた対中「関与政策」を利用して、研究所、高校、大学、さらにPTAにまで「宣伝活動家を送り込んできた」と表現している。

レイFBI長官の演説もまた、中国の情報機関の要員だけでなく、アメリカに派遣される民間企業の社員、メディア、研究者、大学院生など幅広い人材を活用しているという。

実際にオーストラリアでは、中国大使館によって創設された親中団体に先導されたビジネスマン、大学の関係者、それにオーストラリア内に100万人以上いる中国系住民に影響を拡大していた。

これがオーストラリアを赤く染める「属国化戦略」である。中国共産党の狙いの一つが、米豪同盟の解体にある以上、海を隔てて向かい合う日本に対しても、日米同盟の分断を狙って「浸透戦術」が発動されているはずだ。昨日のオーストラリアは今日の日本なのだ。

「僑務工作」怪しいワナ

中国は、オーストラリアをコントロールしやすい社会に変える「僑務工作」の実験場とした。僑務工作とは、中国系の人々の組織を動員することや、中国系の議員を当選させ、あるいは息のかかった中国系の人材を政府高官に送り込む仕掛けをいう。中国共産党が2000年代に入って中国系の移民を奨励するようになったのは、これらが主たる理由である。

実は、オーストラリアのボブ・ホーク首相(当時)は1989年の天安門事件で、人民解放軍が学生たちを殺戮する残忍な映像に衝撃を受け、国内に滞在する中国人の希望者に永住権を与える決断をした。これにより、4万2000人が永住権を獲得し、のちに彼らの近親者1万人が新たな中国系移民になった。

しかし、留学生とはいえ、実際には語学研修との建前で働きに来た就労者が多く、民主化とは無縁の人々だった。そこに目をつけた北京は、彼らを母国に貢献する僑務工作のターゲットになると判断した。

「僑務」のほとんどの活動は、共産党中央委員会の下にある統一戦線工作部(中央統戦部)により実行され、共産党が得意とする大衆動員の戦術を駆使する。

いまもまた、中国共産党が香港に強制した国家安全維持法の施行をきっかけに、アメリカやイギリスなどでも香港からの移民希望者の受け入れを表明している。しかし、厳格なふるいにかけないと、香港の民主派になりすます「僑務」の手先が紛れ込まないとも限らない。

ハミルトン氏は、1997年の返還前後に香港の政務司司長を務めた陳方安生から北京による第三国への浸透方法を聞いている。NGOをカネで買収して動かすやり方から、反対派の声を抑圧する方法、大学の理事会に親中派を送り込むやり方、メディアへのコントロール、そしてビジネスに圧力をかける方法など多岐にわたった。

カネで人を操る法

中国共産党のオーストラリア乗っ取り計画には、政党に対する最大の献金者である中国系の大富豪の行動を外すことはできない。そのうちの一人、黄向墨氏はオーストラリアの政界、財界、メディアにまで広がる権力のネットワークの中心にいる人物だ。黄氏は広東省出身の不動産業者で、やがてその資金力で北京の支配下にある「澳洲中国和平統一促進会」の代表になる。

黄は2012年に労働党ニューサウスウェールズ州支部に15万ドルの献金をしたのを足掛かりに、やがてオーストラリア政界に顔を広げていく。貿易相のアンドリュー・ロブ氏と密接な関係を築きあげると、豪中自由貿易協定に関与し、黄氏が資金提供してつくったシドニー工科大学の豪中関係研究所には、地元の自由党支部に献金した関係でジュリー・ビショップ外相(当時)に開所式の祝辞をもらうほどになった。

ポンペオ国務長官のいう「外国人の心を征服しようとしている」というえげつない遠隔操作は、このオーストラリアで実証されていた。

やがて、2017年12月12日に、野党労働党のニューサウスウェールズ州支部代表だったサム・ダスティアリ議員が辞任に追い込まれるまで、一年にわたってオーストラリア政界を揺さぶった。ダスティアリ議員は中国の南シナ海での活動を擁護し、見返りに黄から資金を受け取っていたことが暴露された。

マルコム・ターンブル首相(当時)は、情報当局からの警告を受けて、政界や大学、シンクタンクなどに中国による干渉が「前例のない規模」で行われていることを公表した。オーストラリアの二大政党が、黄の運営する中国企業2社から10年間で6700ドルの寄付を受け取った。

同じような警告はイギリス、カナダ、ニュージーランドでも発せられた。とくにカナダの情報機関は、いくつかの州の閣僚や職員までが「影響力の代理人」であると警告した。ドイツ情報当局も2017年に中国がドイツの政治家、官僚も取り込もうとしていると非難した。

中国共産党の触手は労働党ばかりでなく、自由党にも及んでいる。安倍晋三首相が國参拝をしたことに対し、オーストラリアで抗議デモが起きたときに中国の五星紅旗を振っていたのは、自由党のクレイグ・ローンディ議員であった。

彼は、選挙区の大規模な中国系オーストラリア人団体との仲介人である楊東東氏の支援を受けていた。楊氏は中国大使館につながる人脈であり、2008年にキャンベラで行われた北京五輪の聖火リレーをチベット独立の活動家から守る「治安維持部隊」のリーダーであった。

楊氏は議員に働きかけて、安倍首相の「國参拝に反対する議会演説をつくらせた」と公言しており、これと連携するかのように、共産党機関紙の人民日報が複数の自由党議員までが安倍首相批判をしていたことを報じていた。要するに、オーストラリアにおける安倍首相の國参拝反対の運動は、作、演出とも中国によるものであった。

経済人を契約案件で釣る

ポンペオ演説は中国が巨大市場をバックに、アメリカ企業の市場参入を対価として、中国の人権侵害、領土問題などには沈黙させられたと指摘した。

マリオットホテルからアメリカン、デルタ、ユナイテッド各航空会社に至るまで、北京を怒らせないよう企業サイトから台湾への言及を削除させられているという。

ハミルトン氏によると、オーストラリアではそのアメリカとの固い絆を断ち切らせるため、中国共産党が用いたのが、まさに「オーストラリアを操作するために経済的な手段を使う」ことだった。

きっかけは、オーストラリアが2002年8月の広東省への天然ガスの供給契約で、インドネシアとの競争に打ち勝った時からだ。当時のジョン・ハワード首相は、契約の獲得を「金メダル級のパフォーマンス」と祝杯を挙げたほどだ。

だが、そのウラには、北京がキャンベラをワシントンから引き離すための作為的な決定があった。その効果はすぐに表れた。ハワード首相が250億ドルという契約獲得の人参につられて、チベットの精神的指導者、ダライ・ラマとの会談を拒否したことで、北京に見返りを進呈していた。

ハミルトン氏に言わせると、財界エリートたちは無意識のうちに外国の主人に忠誠を尽くす行動をとることになり、「オーストラリアの主権を内側から侵食している」ようだ。それは日本の経済人にもみられる傾向で、彼らは「誰よりも中国を知っている」と思い込み、政治や価値観の違いを差しはさむことを許さない。

日本でも、民主党の菅直人政権は、中国にパイプを持つという理由で、伊藤忠商事相談役の丹羽宇一郎氏を駐北京日本大使に任命している。政府内で対中政府開発援助(ODA)に厳しい声が上がっているなか、丹羽大使は逆にODA増額の具申を本省にして批判を受けるなど、在任中の発言にも疑問の声が相次いだ。

リニアチームを引き抜き

レイFBI長官も、中国は技術革新への努力の積み重ねを省略して、「アメリカ企業から知的財産を盗み出し、その被害者となった企業と対抗する」と指摘する。

優秀な人材を海外から好待遇で集める「千人計画」を使って科学者を誘惑し、アメリカの知識や技術を本国に持ち帰らせようとする。

中国はたとえ機密情報の窃盗や輸出規制の対象であったとしても、手段を選ばない。盗み出した技術を駆使して製品を世界に売り込み、その技術を生み出したアメリカ企業を廃業に追い込んで市場を奪取するというえげつなさだ。

そうした例は、残念ながら日本でも散見される。日本の新幹線技術という知的財産を中国が入手し、これをそっくりマネして「中国固有の技術だ」と偽って世界に売り込んだことはよく知られている。

いま再び、JR東海のリニア新幹線に携わる1チーム約30人の日本人技術者を高額で引き抜き、「中国製」と称するリニア新幹線を開発中だ。これらリニアの超電導、電磁技術は、そのまま軍事技術に転用が可能だという。

国家基本問題研究所の企画委員、太田文雄元海将によると、これらの技術が安価で連続発射可能なレールガン(電磁加速砲)や空母の電磁式カタパルト(航空機射出装置)に利用できる。やがて、そうした高度技術の兵器が日本列島に向けられる日がやってくる。

また、トヨタ自動車が中国企業と共同開発することになった燃料電池車の技術も、やはり静かに潜航する潜水艦エンジンに転用できる。

たしかに中国の巨大市場は無視できないとしても、目先の経済利益のために、どんなに国益を喪失していることか。

また、中国では進出外国企業内であっても、一定数の党員がいれば共産党の支部として“細胞”を抱えることが義務付けられている。企業活動のすべてが監視され、技術開発のすべてが筒抜けなのである。

なるほど習近平政権は、軍事的強制、強奪的な外交、不公正な貿易、国際法の無視、サイバー攻撃、そして様々なスパイ活動とやりたい放題だった。習主席の目標はただ一つ、建国百年にあたる2049年までに「諸民族のなかに聳え立つ」という夢の実現のためである。それがパンデミック禍をきっかけに、中国共産党の反文明的な無作法が炙り出された。

トランプ政権はその中国共産党に対して、これまでの「戦略的競争」という定義からギアを一段上げて、「戦略的脅威」として動きを加速させている。中国がトランプ大統領その人の統治能力を軽く見たとしても、その国力と米軍の意思と能力を見くびらないほうがよい。米中対立がここまでくると、衝突は偶発的に起こるかもしれず、時には中国の脆弱性を積極的に突くこともある。

アメリカの歴代政権の中国に対する善意の「関与政策」を対中抑止戦略にシフトさせることは、いまやワシントンの外交エリートの暗黙のコンセンサスである。したがって、11月の大統領選挙で民主党のバイデン政権が誕生したとしても、アメリカの対中強硬策は変わらない。

湯浅博 | Hanadaプラス

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