「命のビザ」後世に リトアニアの杉原記念館 邦人観光客減で危機 存続へクラウドファンディング

杉原の功績を貴重な展示から伝えるリトアニアの杉原記念館(西山さん提供)

 第2次世界大戦中、ユダヤ人に「命のビザ」を発給してナチスの迫害から救い、晩年を鎌倉で過ごした外交官・杉原千畝(1900~86年)。その功績を伝えるリトアニアの「杉原記念館」がコロナ禍で日本人観光客が激減し、苦境に立たされている。危機を知った日本の旅行会社の若手有志が、存続のためのクラウドファンディング(CF)を始め、「少しでも多く資金を集め、後世に記念館を残したい」と月末まで寄付を募っている。

 同国第2の都市カウナスにある記念館は2000年に設立され、現地のNGO「杉原“命の外交官”財団」が運営。杉原がビザを発給した旧日本領事館を活用し、執務室などが公開されている。昨年は約1万9千人が訪れ、うち85%が日本人観光客だった。

 今年は杉原の生誕120年、ビザ発給80年の節目だが、コロナ禍で記念館は3カ月閉館した。再開後も観光客は途絶えて収入が激減、存続の危機にさらされている。

 そんな状況を伝える新聞記事を読み、現地を案内してきた日本の旅行会社に勤める20代の社員ら約10人が「カウナス・杉原記念館を守る会」を結成。西山佳耶さん(25)らは「人間の平等を願ってきた杉原の思いや功績を国籍問わず伝える記念館を残したい」と、同NGOと共同でCFを始めた。記念館のラムーナス・ジャヌライティス館長からも「閉館の危機に追い込まれている中、声掛けがうれしい」などと感謝のコメントが届いている。

 昨年の日本人の入場料分で800万円とした目標額はすでに達成したものの、ウイルスの収束は見えないまま。安心して海外旅行に行けない状況は長期化することが見込まれ、西山さんは「コロナ禍で大事な場所をなくしたくない。これから若い世代に杉原の功績を伝えていくためにも記念館が必要」と話している。

 寄付は千円からでき、サイト「キャンプファイヤー」で受け付ける。全額が記念館の運営費となる。

◆命のビザ
 1939年にナチス・ドイツのポーランド侵攻後、迫害から逃れようとリトアニアに避難したユダヤ人が日本通過ビザを求めた。リトアニアのカウナス駐在領事代理だった杉原千畝は40年夏、日本政府の命令に反して人道的立場からビザを発給、日本経由でユダヤ難民の避難を助けた。救われたのは約6千人とされてきたが、2500~4千人だった可能性を指摘する研究者もいる。杉原以外の日本人外交官が発給したビザもある。

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