“豆苗”から“主菜”に成り上がったDeNA大貫 指揮官を唸らせ10勝の転機となった一戦

DeNA・大貫晋一【写真:荒川祐史】

球団では2016年の山口俊以来となる日本人右腕2桁勝利をマーク

DeNAの大貫晋一がプロ2年目で自身初となる2ケタ勝利に到達した。大貫は27日の巨人戦に先発し、6回2失点で今季10勝目をマーク。球団の日本人右腕で2ケタ勝利を記録したのは、16年の山口俊(現ブルージェイズ)以来となった。

今永や浜口など、大卒のドラフト上位選手が毎年のように活躍し、左腕王国と呼ばれたチームで、右腕のエース格として台頭したのはある意味、意外な男だった。昨季はドラ1ルーキーの上茶谷が7勝をマークし、今季はプロ7年目の平良が開幕ローテ入りして好投を続けたが、現在の成績は故障などもあり、上茶谷が2勝、平良が3勝と結果を残せていない。

エース今永の故障離脱もあり、現在は右腕のみならず、チームの勝ち頭となっている大貫だが、開幕1軍のメンバーにその名前はなかった。ルーキーイヤーの昨季も先発の一角に入り、6勝をマークしていたが、開幕ローテは今永、浜口の左腕の両輪に平良、井納、新外国人のピープルズが入り、新人の坂本にも遅れを取っていた。大貫が10勝目を挙げた試合後、ラミレス監督は「今の成績を見ると、自分の判断が間違っていた。現在、チームで一番安定しているピッチャー」と自らの非を認めたが、転機となったのは7月14日の中日戦だった。

7月2日にようやく1軍登録され、今季初先発となった巨人戦は4回2失点で敗戦投手となり、2度目の登板の甲子園での阪神戦では初回に3失点してわずか1イニングで降板となった。新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れ、毎週6連戦が続く過密日程の中、大貫の今季3度目の先発は中3日での中日となった。この試合で8回1失点と好投して今季初勝利をマークすると、ここから快進撃が始まった。

ラミレス監督は「あの甲子園のところで違う決断をしていれば、また違った結果になっていた」と当時を振り返った。2試合続けて早期降板で連敗した右腕にチャンスを与えたのは「常に一生懸命、ハードワークを続けていたし、必ず結果を出してくれると思っていた」という大貫の姿勢を評価したものだった。

ラミレス監督はバッテリーを組む戸柱とのコンビネーションを評価

指揮官はまた、コンビを組む捕手の存在の大きさも口にした。事実、今季初勝利は伊藤光とのバッテリーだったが、以後の試合では全て戸柱がマスクをかぶっている。「戸柱とのコンビネーションが機能すると思った。そういう意味では、彼の功績でもあると思う」とラミレス監督が言うように、昨季は1試合のみだった“恋女房”の存在が飛躍の要因となった。

今季初勝利から登板5試合で5連勝を記録した大貫は、9月5日の敵地の広島戦ではプロ初完投勝利もマークした。平良や今永など、シーズン前半に先発ローテの中心だった主力投手の故障離脱が相次ぐ中、9月終盤からここまで5試合で4勝1敗と抜群の安定感で2ケタ勝利に到達した。

プロ2年目の進化の要因として、技術面では新球であるカットボールの力が大きい。昨オフに派遣されたオーストラリアのウインターリーグで、左打者対策として取り組み、現在では欠かせない球種となった。大貫は「昨年よりも投球の幅が広がった。苦しい場面でカウントを取れる球にもなっているし、配球の引き出しが増えた」と、その効果を実感している。

181センチの長身だが、73キロという細身の体から、いつしか「豆苗」というあだ名が付いた大貫。スタンドのファンが掲げる応援ボードにも「ハマの豆苗」と書かれるなど、活躍に比例して、その名前も浸透し始めている。10勝目をマークした試合後、お立ち台で前日の勝負メシを聞かれた大貫は「豆苗と言いたいところですが、普通のご飯です。豆苗は今、育てています」と笑いを取り、「ニックネームが付くのは嬉しいこと。どんどん呼んでほしい」と笑顔を見せた。

メインのおかずにはならないが、栄養価の高い食品として知られている豆苗。指揮官の見立てをいい意味で裏切った伏兵が、先発投手陣の主役に躍り出た。(大久保泰伸 / Yasunobu Okubo)

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