いい「町中華」がある街=住みやすい街。そんな仮説について検証してみた

リノベーション──一般的には「住まいの改修・改善」のことをこう呼びますが、空間環境だけではなく日常生活全般をもリノベーション(改革・刷新)すると、QOLはよりいっそう向上していくはず。LogRenoveは、日々の何気ない暮らしのなかで、我々が直面するさまざまな悩みの解決策を、斯界の識者とともに探っていきます。さあ、私たちと一緒に「ライフスタイルのリノベ術」を追究していきましょう。

Q.僕は街にたたずむ名も無い中華料理店が大好きで、夕食から休日の昼食まで…週に最低でも5回は通っています。引っ越しをする際も「良さげな町中華があるかどうか」を基準にして物件を決めてしまうのですが、こんな僕のポリシーは間違っているのでしょうか?(30歳・独身男性/地方銀行勤務)

「町中華」を見極めるポイントは『ゴルゴ13』と中華丼!?

いやいや、全然間違ってはいません! むしろ、アナタは目の付け所が素晴らしい、堅実な物件選びをなされていると申せましょう。自信を持って、そのポリシーを貫き通してください。

『町中華とはなんだ』(リットーミュージック)という著書を出版し、町中華の第一人者としても各メディアで活躍する、フリーライターの下関マグロさんはこう断言します。

「『いい町中華がある街=住みやすい街』という定理は間違いなく成立すると思います。いい町中華がある街は、昔ながらの人情味が残っている街だからです」(下関さん)

たしかに、地域ごとにすっかりと馴染みきって、ひっそりとした存在感を醸す町中華は、古くからあって常連さんも多い気さくな商店街や飲み屋、喫茶店……などとセットになっている印象があります。徹底的に再開発された無機質な街に住み、チェーン系の大型スーパーで買い物するほうが性に合っているという人は別にして、こうした「街の歴史と個性をそのまま体現している風景や人間関係を好む人」にとって、町中華は「住みやすい街」を探すときの大きな判断材料となるのかもしれません。

では、「いい町中華」とは、いったい如何なる中華料理店のことを指すのでしょう?

「『いい町中華』とは、歴史のあるお店のこと。長年営業しているというのは、なにかしら魅力があるからです。『ダメな町中華』なんて、私個人としては一軒もないのでは…と(笑)。ただ、ダメではないものの『町中華っぽいけどそうじゃないお店』はあります。我々のあいだでは『大陸系』『来日系』とも呼ばれていますが、平成になってから本場の中国などから来られてお店をやられているケースです。こういうお店は安くて美味しいんですけど、昭和からやっている町中華が醸し出すペーソスのようなものはありません」(下関さん)

つまり、「ずっと続いている町中華=どこも名店」ということ。ですが、生粋の町中華LOVEなマグロさんにも、お店ごとに多少の“好み”みたいなものは生じてくるのだそう。次に、マグロさんが「つい贔屓にしたくなる町中華」を見極めるポイントを教えてもらいましょう。

「まず、私は厨房の見える席があるかどうかをチェックします。厨房が見えるカウンター席をアリーナと私は呼んでいます。さらに、本棚があって、そこに『ゴルゴ13』があったりすると◎! これまで見たことのないオリジナルなメニューがあるかどうかも重要です。お店の名前を冠したメニューや、店主の趣味嗜好を盛り込んだ『〇〇丼』『××麺』などがあると最高ですね」(下関さん)

もちろん、飲食店である以上“味の良し悪し”も無視できるわけがなく、初めて訪れる町中華の場合、マグロさんは“あるメニュー”で、それなりの“目安”をジャッジするとのこと。

「ズバリ、中華丼です。具材の炒め加減や餡かけの“とろみ”などの具合でお店の味つけがよくわかります。また、サイドスープがついてくるので、それをいただくとそのお店のラーメンスープの感じも想像できるのです。同じ意味では『五目あんかけ焼きそば』も狙い目なのですが、ない店もけっこうありますからね…」(下関さん)

う〜ん! どれを取っても斬新な視点ばかり……さすがです!!

「町中華は永遠ではない」ことに気づき、2014年から食べ歩きの日々を…

ところで、マグロさんはなんでそこまで街中華に詳しいの? その理由をマグロさんは以下のように明かします。

「2013年の暮れに高円寺の『大陸』という知る人ぞ知る老舗店が店を閉じたことで、町中華は永遠ではないということに気がつき、2014年から食べ歩くようになったんです。ちなみに、『大陸』の閉店を友人のライターである北尾トロに伝えたら『ああゆう町中華は軒並みなくなるね』と言われ、そのとき初めて『町中華』という言葉を知りました」(下関さん)

以降、著書を出版するくらいまで町中華にハマったマグロさんは、散歩や取材のたびに、目に入ったお店へと足を運び、地道なデータ収集……。今回の相談者と同様、引っ越しまでも「いい街中華の有無」に左右されるほどの、自他とも認める“町中華フェチ”に。

「新宿区から台東区へ引っ越したことがあります。山手線との近さは同じなのに、少々家賃が安かったのも大きかったのですが、物件を探すときにちょうど1階に町中華がある部屋があったので、すぐに契約しました(笑)。まさに24時間、町中華を観察できる場所でした。住所は北上野でしたが、周辺に町中華も多数あって…。それに、これは“後付け”ですけど、台東区は坂がほとんどなく、平たくて歩きやすいんです」(下関さん)

そんな下関マグロさんから、過去の錚々たる遍歴をもとに「いい町中華がある住みやすい街」をいくつかピックアップしてもらいました。

町中華フェチの下関マグロさんがお気に入りの「住みやすい街」6選

■稲荷町(東京メトロ銀座線)

台東区の区役所が近くにあります。前述した「1階に町中華がある部屋」に住んだときのの最寄り駅でした。JR上野駅にも近く、交通の便がすごくよかったですね。

■祖師ヶ谷大蔵(小田急線)

町中華にかぎらず、古くからの個人商店が多く、『ウルトラマン商店街』などもあります。とくに小さいお子様がいるファミリー層にオススメの街です。

■新御徒町(大江戸線)

日本で2番目に古い商店街『佐竹商店街』があります。昔ながらの下町がそのまま残っているような街です。町中華もたくさんあって、なかでも昭和43年創業の『幸楽』という趣深い町中華が一押し。中華料理店なのに「ナシゴレン」と「豆腐丼」があるのも魅力!

■学芸大学(東急東横線)

オシャレなヒトたちが住んでいるスポットというイメージがありますが、駅前に昔ながらの『双葉』という町中華があります。長い商店街が栄えていて、その路地裏にも昔ながらの町中華があり、庶民的な一面も兼ね備えています。

■中野坂上(東京メトロ丸ノ内線)

歴史のある町中華が点在しています。JR東中野駅も近く、ぶらぶら歩くと新宿まで歩けます。大きなスーパーもあり、やはりファミリー向けですかね? 自分は単独で住んでいたのですが、都会的な利便性と下町風情のバランスが良い街でした。

■荻窪(JR/東京メトロ)

荻窪ラーメンというジャンルがあるほど、ラーメン店がひしめいていると思われがちですが、町中華も充実! しかも、新しくできた町中華もあったりします。昔、6年ほど住んでいましたが、とても好きな街でした。

しかし、いっぽうで、こうした“味”な町中華は、時代の流れに逆らうことができず、絶滅の危機に瀕している……と、マグロさんは悲しげな表情を浮かべます。

「私が定義している『町中華』は、昭和のころに創業した個人店で、中華なんだけれどメニューにはカレーライス・カツ丼・オムライス…とかがあるお店です。けれど、この手のお店は、街の再開発や後継者不足でどんどんと閉店しています。だからこそ、今食べに行かなくちゃいけないんです」(下関さん)

とは言え、まだ現在は、どんなに洗練され尽くした街にも必ず一軒や二軒はある町中華──そして、町中華が潰れないということは、そういう土壌が、人情が残っている、飽きない味を日々提供してくれているということ。町中華に名店なし! アナタの街の行きつけが、すなわち名店なのです。

取材・文:山田g事務所

下関 マグロ(しものせき・まぐろ)

1958年山口県出身。出版社、広告代理店を経てフリーライターに。フェチ、散歩といった分野の原稿を書いている。おもな著書に『東京アンダーグラウンドパーティ』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『町中華とはなんだ』(共著/リットーミュージック)、『ぶらナポ -究極のナポリタンを求めて-』(駒草出版)などがある。また、WEBではメシ通にて、『料理人のまかないメシ』などを連載中。本名の増田剛己では、All Aboutの「散歩ガイド」も務めている。

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