売れ行きは低迷、それでも新築マンションの価格が下がらない理由

コロナ禍により新築マンションの売行きが低迷し、2020年の通年の発売戸数についても大幅減の見込みです。売行きが低迷すると、価格が下がるようにも思えますが、新築マンションは、他の資産とは、違う値動きをします。そこで、新築マンションの価格の価格形成を整理してみたいと思います。


コロナ禍の新築マンションの売れ行きは?

コロナ禍で、人々の移動や各種活動が制約され、消費や輸出などの需要が大きく減退しています。新築マンションの売れ行きも低迷しています。

不動産経済研究所によると、新築マンションの発売戸数は、緊急事態宣言のあった今年5月はモデルルームの閉鎖や法的な事務処理の停止により前年同月比▲82%と最低水準にまで落ち込みましたが、2020年9月には同+5%とプラスになりました。需要が先送りされていただけと見ることもできますが、市況は回復してきたようにも思えます。

しかし実際は、図表1のように毎月直近12カ月を合計した発売戸数(12カ月移動累計)をグラフにしてみると、2019年3月以降は前年比でマイナスが続き、2020年3月以降は同▲20~30%と前年を大きく下回っています。近年では最も供給量の多かった2014年1月は12カ月移動累計5.7万戸でしたが、2020年9月には2.5万件と、半分以下にまで落ち込んできています。やはり、新築マンションの発売戸数は大きく減少しているといえるでしょう。

2020年の通年の発売戸数についても大幅減の見込みです。長谷工総合研究所の予測によると秋以降もモデルルームを予約制にして平時よりも入場者を制限するなど、販売活動に今後もブレーキがかかるため、今年の新築マンションの発売戸数は2.1万戸(前年比▲33%)と低調に終わる見込みとなっています。

新築マンションの値動きには注意

売行きが低迷すれば価格が下がるようにも思えます。しかし、新築マンションは、他の不動産や株などの資産とは、違う値動きをします。

経済学では需要と供給が一致する点を見出す主なメカニズムとして、価格調整と数量調整の2つを上げています。価格調整で需給を均衡させる場合、数量は動かず価格が動きます。一方、数量調整で需給を均衡させる場合、価格は動かず数量が動きます。

新築マンションの価格形成には、数量調整の面が非常に強く表れています。発売戸数の12カ月移動累計、初月契約率、新築マンションの価格推移をみながら確認してみましょう

まず、図表2で初月契約率の推移を見てみましょう。初月契約率とは、「マンションが発売したその月に、発売戸数の何パーセントが売却されたか」を表し、だいたい70%以上だと「売れ行きが良い」と言われています。

では、初月契約率が高ければ市況が良いといえるのでしょうか。確かにマンションの売り出し戸数は、初月契約率は60%から70%で推移している月が多くなっています。しかし、発売戸数は売行きに応じて適宜調整されています。すなわち、需要を見定めたうえで「売出した月に半分以上は売れる」と確信できる戸数しか販売されておらず、初月契約率は高くて当然であるはずなのです。

しかし、2018年12月は49%、2019年10月は43%と、コロナ禍以前から、既に売行きが低迷して初月に物件が売れないという月が発生していたのです。

図表1と図表2を組み合わせた図表3で、新築マンション発売戸数12カ月移動累計の前年比と初月契約率の動向を比較してみましょう。発売戸数12カ月移動累計は2019年3月以降マイナスが続き、2019年10月以降は、前年比で1割以上の減少と大きく発売戸数が減少しています。2018年12月の初月契約率の大幅下落を見て、供給量を減らしているとみることができます。

一方で、図表4のとおり、平均価格は上昇傾向です。不動産経済研究所から公表される月次の平均価格は、その月に発売された新築マンションがどのようなエリアやグレードであるかの違いによって価格が上下し、その要素を除く必要があるため、12カ月移動平均で価格を見てみると、2019年後半から6,000万円を超え、6,500万円に近づきつつあります。

つまり、新築マンションの価格は、下がりにくく、現在も数量調整によって価格が維持されているといえます。

上昇傾向だった2020年上半期、原因は?

なお、価格水準が同じでも、面積が同じとは限りません。長谷工総合研究所から公表されている新築マンションの平均総額、平均面積、平均単価の推移を2019年1-12月と2020年上半期で比較してみましょう。

まず、図表5の平均総額は23区については+12%、埼玉県は+9%に価格が上昇しました。今回神奈川県については▲6%の下落であったものの、全体的には上昇傾向です。

次に、図表6の平均面積は徐々に小さくなっています。23区は▲5%、都下は▲11%、神奈川は▲4%の面積が減少しました。

そして、図表7の平均単価は大きく上昇しています。23区は+18%、埼玉は+14%、神奈川は+7%も価格が高くなりました(図表7)。

総額を引き上げ、面積を小さくして、単価を引き上げる傾向があるといえるでしょう。

なぜこんなことが起こるのか、大きな原因として数量調整による価格決定権が新築マンション供給業者にあることが挙げられます。

現在は主な新築マンションの供給業者が10社に満たない大手不動産会社に限られており、ここまで述べたように、数量調整が価格維持に効果を発揮しています。また、売り主の認識としてマンションを「一定期間のうちに多数売り切る」よりも、「何年かけても少ない戸数でも高い値段で売ったほうがよい」、という考え方が主流であり、供給業者の資金も潤沢なため、値下げしてまでの売却は起こりにくくなっています。

従って、現在の新築マンションの購入価格は簡単には下がりそうにありません。あなた以外の購入希望者があらわれるのであれば、供給業者は待てばよく、残念ながらあなたの値段交渉に応じることもないでしょう。今、新築マンションを買いたい人は、新築は高いものと割り切って買う必要があると思います。

ただし、もし数年待てるのであれば、購入価格が変動する可能性はあるかもしれません。マンションを含めた住宅は、購入後に簡単に売却できるものではありません。将来の支出計画と合わせて、いつ購入すべきか慎重に判断していく必要があるでしょう。

© 株式会社マネーフォワード