巨人・原監督が「ワンチーム」に込めた思い 会見で明かしたコロナ禍での戦い

30日の優勝会見に臨んだ巨人・原監督と選手達【写真:編集部】

9度目Vも「格別」 過密日程、丸の骨折…明かした今季の秘話

巨人が2年連続のリーグ優勝を飾った。原辰徳監督、坂本勇人内野手、菅野智之投手、丸佳浩外野手、岡本和真内野手の5人が臨んだ東京ドームでの内野グラウンドでの優勝記者会見。原監督が語ったのはコロナ禍の戦いの苦悩、選手へ愛情とファンへの感謝だった。選手を称え、時には衝撃の秘話、手荒いジョークも飛び出した。

優勝の熱を帯びたグラウンドは、数分後には特設の会見場となっていた。座席が設けられ、距離をとって行われた。原監督は「(今年の優勝は)格別ですね。毎年、優勝というのはどう表現していいか分からない感激ではあるんですけど、今年は特に道のりが非常に険しかった。そういう中で選手は弱音をはかずに、揚々と楽しむように戦ってくれたのは頼もしかった」と選手たちに敬意を表した。

開幕が3か月遅れるという未曾有の事態に「一つになってワンチームで戦う。ひとり、ひとりの技術を把握、2軍、3軍、問わず戦い、ワンチームの中で戦い抜けたのは、数カ月の時間をジャイアンツは正しく使えたからだと思います」。コロナ禍で活動が制限される中、1~3軍で試合、練習を行い、人材と状態を見極めた。的確な起用、補強もできた。原監督一人だけでなく、選手、スタッフ個々が役割を果たして掴んだ優勝。ファンをはじめ、関わったすべてに感謝した。

百戦錬磨の指揮官にとっても初めての経験ばかりだった。試合が終わり、眠りについても、すぐにユニホームを着る感覚に襲われた。選手たちには疲れを軽減さえ、チームのコンディションを保ちながら、起用する方法をいつも考えていた。「チームの状態が良かったので、主力を6回、7回で休ませることができた。それは全体の力、チーム力が上がってきたからこそできたコンディション作りだった」。選手層に厚みを持たせ、レギュラーではない選手でも、様々な場面で起用していくことで、常に出番があることを意識をさせた。

隣の席で主将の坂本は「若い選手たちがチームを勝たせてくれて、自分自身は調子が悪かったですけど、チームは勝っていたので、本当にそこはチームメートに救われたなとすごく感じました」と話すと、原監督は「調子がいい悪い、関係なく、非常にフラットな形でプレーヤーとしてもチームリーダーとして戦っている姿は頼もしく感じました」と昨年同様、主将としての姿に強さを感じ取っていた。

丸は広島時代からひとり5連覇を達成 「誰よりも日本一に飢えている」

エースの菅野も壇上に並んだ。フォームを変える新たな挑戦、開幕から13連勝を成し遂げた。「マウンドに上がったら、バッターを抑えるというその1つだけなので、それだけを常に考えてマウンドに上がってました。13連勝は僕だけの力じゃ達成できない。(周囲への)感謝の気持ちを常に持って投げたことがそういうふう(連勝)につながったと思います」。原監督は「大投手であってもメカニック、投げ方を変える貪欲さというのはあらゆるアスリートの人たちも教訓となるんではないか。私自身も今年の智之を見ていると勉強になった。素晴らしいアスリートの姿を見た」とそばで見てきたからこそ感じる凄さを語り、称えた。

広島時代の3連覇から、これで5シーズン続けて優勝している丸は「僕自身も開幕からなかなか結果が出ずに個人としても苦しいシーズンでした。ただ、先ほど勇人さんが言ったようにチームメートがカバーしてくれて、助けてくれて、本当に救われた。感謝してます。ここにいる(岡本)和真が4番でチームを引っ張ってくれたのでなんとか、序盤以降は少しでもチームに貢献できるよう、毎日毎日、常々、監督がおっしゃっているようにフラットな気持ちで試合に臨みました」。練習方法の工夫、コンディションを最優先にスタッフが考えてくれていたことへの感謝が尽きなかった。

そこで原監督の口から、驚きの一言が明かされた。「実は開幕当初、丸は骨折していたんです。完全に治りきっていない。本人は『まったく大丈夫』というが、現実はかなり辛かったと思いますね」と5月中旬の練習で右足親指の負傷は公表されていたが、完治していない骨折を我慢して、チームに合流していた。丸は「あんまり(怪我のことを)話したくないんです。自分で“やれる”と言った以上は言い訳したくない。実際、迷惑かけてしまったが、少しは取り返せればとやっていた」と静かに口を開いた。多くを語らず、今はトップの岡本と本塁打争いをするほどの活躍を見せている。

「僕は5年連続優勝してますが、まだ、日本一になったことがない。選手の誰よりも日本一に飢えています。5度目の正直じゃないですけど、気持ちを前面に出していきたいです」と力強く語った。同僚・岡本とのタイトル争いについては「僕は足元にも及ばない。しっかりと岡本さんのカバーができればいいかなと思っています」と謙遜すると、原監督からも笑い声が聞こえた。

原監督が会見を盛り上げる、岡本へ「若大将、しっかり言ってください」

そして最後は若き4番の岡本。ホットコーナーで戦い抜いた連覇だった。「4番・三塁」での戦い、責任について問われると「いや、それは僕自身が…」と言葉を詰まらせた。しかし、原監督は容赦しなかった。

「若大将、しっかり言ってください!」

岡本は静かに「そこは僕の口から言うのはおかしいかなと思います。そこはしっかり責任を果たせるように努力してきたつもりです」と語るに留めた。長嶋茂雄氏や原監督らが務めた偉大すぎるポジションでもある。現状に満足していない上、自分で自分を評価するのはおこがましいという思いだったのだろう。

だが、坂本の開幕前の入院、丸の不振など、岡本にかかる負担が大きい中でチームを支えた。原監督は「精神的にも、肉体的にもかなり大変だった時期を支えたのは和真。4番打者、チームの柱として戦い抜いた姿は勇人、丸がいなかったら相当やるんだろうと。2人が調子が出てきたら、お兄ちゃんたちに委ねるという姿も出てきた。しかし、今日のゲームにおいても素晴らしいバッティングをしてくれている。1年間、安定した働きをしてくれた。本当に成長してくれていると思います」と賛辞を惜しまなかった。

主力選手がコメントした後、原監督がそれに思いを重ねる。そんな会見のやりとりが印象的だった。今回、壇上に上がったのは4選手だったが、誰が上がっても、原監督は選手やコーチのことを的確に表現できただろう。日々、顔を合わせても意外に監督と選手との会話そのものは多くない。ただ、それだけ見識を広げ、視線を広げてきたからこそ、ファンに伝えられるメッセージも多かった。「ワンチーム」で経験した苦悩も喜びも糧とし、21日から始まる日本シリーズへ、気持ちを向けていた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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