人工香料「私には毒ガスのよう」 化学物質過敏症の苦しみ知って、症状ある人たちの思い

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「『いい香り』で気分が悪くなる人がいることを知って欲しい」と話す女性(野洲市内)

 「小学生の子どもの友だちを家に上げることができません。悲しいです」。合成洗剤など日用品のにおいで体調を崩す「化学物質過敏症」の女性(36)=滋賀県野洲市=が、京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」に悲痛な声を寄せた。香料など微量の化学物質が頭痛や吐き気を引き起こし、合成洗剤や柔軟剤、シャンプーのにおいがする人を家に入れられないという。公害にたとえて「香害(こうがい)」とも呼ばれる苦しみの存在を知ってほしいと女性は訴える。

 

 女性はヨガインストラクター。2014年、大津市内の新築マンションに転居した後、体調を崩した。建材や新調した家具から揮発する化学物質を一度に大量に取り込んだためとみられ、自室内だけでなく、ベランダや共用の廊下で感じるマンション住人の洗剤や柔軟剤のにおいで気分が悪くなった。東京都内の専門外来で「化学物質過敏症」との診断を受けると、マンションを約1年で手放し、野洲市内に引っ越した。

 空気のいい場所に行くと気分が良くなり、洗濯の合成洗剤を粉石けんに変えたら体が楽になった。ただ、自分の生活は変えられても、人の生活に注文を付けることはできない。「最近の洗剤はにおいがずっと持続し、とれない」。学校でいったん回収されて戻される子どものドリルやカード類に移ったにおい、交代で使用して持ち帰る給食エプロンの柔軟剤のにおい。カードは表紙を替え、給食エプロンは個別に購入した。

 「あなたが臭いとか気持ち悪いとは言えないので、その人を避けたり、やむを得ず過敏症のことを打ち明けても誤解されたりして、人間関係が壊れてしまう」と悩む。子どもの友だちを自宅に入れない理由も、最近まで親に伝えることができなかった。

 近年は症状が軽くなっていたが、今年の夏に再び悪化した。新型コロナウイルス感染防止のための消毒、除菌グッズが出回っているためではないかと感じている。「『いい香り』は私にとって刺激臭であり、毒ガスに近い。自分がこんな風になってしまうなんて、夢にも思わなかった。香りで気分が悪くなる人の存在を知ってほしい」と話す。

 横浜では化学物質過敏症に苦しむ人を支援するNPO法人が活動するなどしているが、「香害」の一般への認知度は低い。

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 京都市中京区で飲食店を営む中塚智彦さん(44)は16年、仕事中に店内で突然倒れ、入院した。17年に化学物質過敏症との診断を受けた。厨房で大量に使っていた塩素系漂白剤や、従業員の髪や衣服からにおう人工香料が原因と考えている。

 のどの痛みや涙に加え、疲れやすくなり、記憶力も低下した。外食や旅行にも行けなくなった。

 仕事や日常生活がままならないつらさを分かち合おうと、今年9月に「化学物質過敏症を話し合う会」を自店で開いたところ、大阪や兵庫、滋賀などから約30人が集まった。学生や主婦ら女性が多く、口々に悩みを吐露した。中塚さんは「周囲にわがままを言っていると思われて、苦しさを理解してもらえない。当事者は家庭や職場で孤立している」と話す。

 洗剤をやめて袋入りのマグネシウムで衣類を洗濯し、風呂でもシャンプーや石けんを使わない。仕事中や外出時は、急な化学物質のにおいで失神しないよう、フィルター付きマスクを首から提げている。「みな無意識に化学物質を吸い込んでいる。今は自覚のない人でも、いつ発症するか分からない。『いい香り』は本当に必要でしょうか」と問いかける。
 

有機揮発性化合物を吸着するフィルター付きマスクが手放せないという中塚さん(京都市中京区)