<書評>『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』 分断越え、つながり模索

 ゆいまーるの島って本当?
 地道な社会調査で得た人生をめぐる語りは、私たちにそう問いかける。基地問題をはじめさまざまな矛盾が集約する沖縄だが、地元には温かな共同体がある。こうした認識には、なにか重大な見落としがあるのではないかと。
 人生は選択の連続だが、いつ・どこで生まれるのかは選べない。最初に配られたカードを頼りに、私たちはよりよい結果を求め、一度限りのゲームに参加する。さまざまな制約のもとでひとは行為を選択するため、人生を織りなすあらゆる出来事には社会の構造が刻まれる。本書の議論はこの端的な事実からはじまる。
 社会学者・教育学者の著者ら4人は、沖縄社会内部の多様性を描き出すべく、人びとが語る人生(生活史)を、社会科学の鍵となる階層とジェンダーという視座から編み直す。
 地元の共同体に愛憎半ばする感情を抱く経済的な「安定層」。沖縄のゆくえを案じるかれらの語りは、ジェンダー間の不平等を自明視し、暴力と裏切りが基調をなす日常を生き抜く「不安定層」の苛烈(かれつ)な経験と対照をなす。双方のあいだに位置する「中間層」は、自営業を軌道に乗せるため、良好な人間関係を維持・拡大する活動に没入する。夢に向けあらゆる機会を逃がすまいとするかれらの目にも、他の人びとの姿は映らない。
 本書で筆者たちは、異なる小さな社会に属する人びとの、ほぼ交わることのない人生の断片を提示する。沖縄をめぐる語り口を更新する試みとして。
 「分断」の例示にもみえる個々の語りに分け入ると、ひとつの社会に固有な歴史と構造のなかで生活が輪郭をなしてゆく様相が浮かびあがる。各人が必死に築き上げた人生を構成するエピソードには、社会的な属性を越えて理解可能な痛みと悔恨、そしてかすかな希望がある。
 事実を深く知らずして、展望は描けない。これが私たちの社会で、ここで私たちは日々、生きている。今まで十分に耳を傾けられることのなかった語りに導かれ、分断を越える新たなつながりを模索する。本書の刊行で私たちはその時宜(じぎ)を得た。
 (山田哲也・一橋大学大学院社会学研究科教授)
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▽きし・まさひこ 立命館大学大学院教授
▽うちこし・まさゆき 和光大学講師
▽うえはら・けんたろう 大阪国際大学講師
▽うえま・ようこ 琉球大学教育学研究科教授

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