「大阪都構想」を巡る住民投票は、2015年に続いてわずかな差で再び否決され、130年の歴史を持つ大阪市の存続が決まった。大阪維新の会にとっては10年来の宿願だったが、市民の不安解消には至らなかった。看板政策に「ノー」を突きつけられた同党代表の松井一郎大阪市長は、23年春の任期を満了した上で、政界を引退する考えを表明した。(47NEWS編集部)
都構想は大阪府との二重行政解消などが狙いだ。政令指定都市の大阪市を廃止して東京23区と同様の特別区を設置、大阪府とともに行政機能の再編を目指した。成長戦略やインフラ整備などは府に一元化し、特別区は教育や福祉といった住民サービスを担う内容だ。
当時大阪市長だった橋下徹氏の下で行われた2015年の住民投票では、5特別区への再編案が1万741票差で否決。橋下氏は政界を引退した。
今回の住民投票は4特別区への再編案が対象で、前回反対運動を展開した公明党が賛成に転じた。ところが及ばず、反対が1万7167票上回った。
都構想が実現した場合、住民サービスはどうなるのか―。市民の関心事の一つだったものの、議論は最後まで深まらなかった。
松井氏や吉村洋文大阪府知事らは、財政効率化で浮いたお金を使えば、水道料金値下げや福祉の拡充ができると訴えた。一方、反対派の自民、立憲民主、共産各党などは「市が特別区になれば財政は悪化し、サービスが低下する」と批判を展開した。
見解が真っ向から対立する状況に、市民からは「どちらが正しいか判断できない」との不満が募った。
共同通信は、住民投票当日に出口調査を実施。投票で重視した事柄を選ぶ質問で「住民サービスが良くなるか悪くなるか」を挙げた人は、8割近くが反対票を投じた。反対した市民の間では、住民サービス低下への不安が根強いことを裏付けた。
1日夜、結果を受けて記者会見した松井氏は「敗因は僕の力不足。デメリットはないと今でも思っているが、変化への不安を解消できなかった」と分析した。同席した吉村氏は「大阪市を残すという反対派の熱量の方が強かった。僕自身が都構想に挑戦することはもうない」と述べた。
自民党市議団の北野妙子幹事長は「否決され、感謝とお礼を申し上げたい。3度目もあってはならない」と力を込めた。共産党や市民団体の関係者らが集まる市内の施設では、否決確実の報が伝えられると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
一夜明けた2日、大阪市民からは「不安が残る中で可決されず良かった」「賛成派の意見も反映させて」などの声が上がった。
一方、菅義偉首相は「大都市制度の議論に一石を投じたのではないかと思う」と一定の評価をした。
全国20の政令指定都市でつくる指定都市市長会の林文子会長(横浜市長)は、力強い経済の回復と活力ある地方をつくるため「大都市制度の見直しは急務」とのコメントを発表、国や道府県からの権限移譲といった地方分権改革の推進を求めていくと強調した。