「ベンチに走った衝撃」は忘れない 楽天1位・早川隆久と投げあった夏

東海大市原望洋のエースだった島孝明【写真:本人提供】

元ロッテ・島孝明、高校3年時に早川と対戦「前日完投の疲労感は一切ない」

元ロッテ投手の島孝明です。前々回のコラムでご紹介しましたが、昨年ロッテを退団した私は、現在、大学1年生です。先日、ドラフト会議にて早稲田大学の早川隆久投手が4球団競合の末に、楽天に1位指名されました。早川投手は千葉の木更津総合の出身で、私は東海大市原望洋の3年の夏、対戦しました。今回は、その夏の大会を振り返りながら、木更津総合との一戦について書いていきたいと思います。

2016年夏の千葉県大会。準々決勝で早川投手擁する木更津総合に1-0の僅差で敗れ、甲子園への道は閉ざされました。木更津総合は選抜でベスト8と素晴らしい成績を収めていました。対する僕らも春の県大会優勝校として、事実上の決勝戦とも言われた一戦でした。

私たちは圧倒的な打力が売りのチームであり、4試合で36得点と勢いをつけ、一回戦から全てコールドゲームで勝ち上がりました。木更津総合も選抜ベスト8の実力は健在で、安定した守備と打撃で順当に勝ち進んでいましたが、望洋と戦う直前の専大松戸との試合では、4-3とギリギリの戦いを繰り広げていました。早川投手も完投しており、連戦となる望洋との試合において私たちはアドバンテージを得たつもりでいました。

東海大市原望洋は私含めた3年生投手3人と、2年生の金久保投手(=現ヤクルト)の計4人でローテーションしながら投げていたので、そこまで負担が偏っていることはありませんでした。また、打線も勢いがありましたので、前日完投した早川投手の疲労などを考慮すれば、勝算は大いにあると考えていました。しかし、それはとんでもない勘違いであったことは試合が始まってから気付くのでした。

当日を迎え、張り詰めた雰囲気の中、ウォーミングアップを行いながらどんな試合展開になるのか、自身のコンディションは問題ないだろうかなど、期待や興奮、不安、恐怖などあらゆる感情が入り混じっていました。QVCマリンフィールド(現ZOZOマリンスタジアム)のスタンドには、両校の吹奏楽部やチア、保護者、OB・OG、高校野球ファンなど大勢で埋め尽くされていました。そうした光景の中で野球ができることに感謝と感動を覚えると同時に、より一層私の感情を昂らせました。

高校日本代表でアジア王者になった島孝明、早川隆久、藤平尚真、高橋昂也(右から)【写真:本人提供】

木更津総合・早川先発に対して、東海大市原望洋は島ではなく、金久保が先発

木更津総合が先攻、私たちが後攻で始まった試合ですが、私が先発ではなく、2年生の金久保投手が務めました。金久保投手の試合を作る能力は私より優れていましたし、これまでの試合も自分がリリーフに回り継投することが多かったので、ある意味、勝ちパターンとなっていました。オーダーに関しては監督が決めることですし、チーム全員の金久保投手に対する信頼も厚かったので、自分が先発しないことに関してその時は特に不満もありませんでした。

ただ、これで最後になると分かっていたら、少し監督に進言しておけば良かったと今更ながら考えないこともないですが、当時の自分にそんな勇気は持ち合わせていませんでしたので、おそらく妄想に終わっていたと思います。

評判通り、早川投手は初回から素晴らしい立ち上がりを見せ、あまりのレベルの高さに望洋ベンチに衝撃が走ったのを覚えています。前日の完投による疲労も一切見せず、むしろこの試合に合わせてきたかのような好調ぶりでした。劣らず金久保投手も相手打線を抑え、両者譲らずの展開となりハイスピードで試合は進んでいきました。

試合が動いたのは3回表でした。木更津総合の打者が三塁打で出塁すると、続くバッターが犠牲フライを放ち先制を許しました。あっという間の出来事でしたが、その1点が今大会初失点であると同時に、私たちの高校野球人生に引導を渡す1点にもなりました。

その後0行進が続き、7回途中で私に登板のチャンスが訪れました。リードされている場面でしたが、なんとか流れを持ってこようと集中力を最大限に高め臨みました。ブラスバンドの大声援が鳴り響く中、自分の役割を全うすべくただひたすら腕を振り、気づけば試合が終わっていました。早川投手は最後まで隙を見せることなく、5安打完封勝利。エースとしての意地やプライドをまじまじと見せつけられました。

その後、高校日本代表でチームメートにもなりました。大学に進んでからも着実に努力を重ね、ますます手のつけられない投手へと成長しました。プロに入ってからも野球に対するその飽くなき欲求を絶やすことなく、私たち98年世代を代表する、ひいては日本を代表する選手となることを期待しています。(島孝明/Takaaki Shima)

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