シャーデー「スウィーテスト・タブー」と雨の日の記憶
雨が降り出したときに聴きたい曲。それはシャーデーの「スウィーテスト・タブー」です。
イントロに雷鳴や雨音が入っているから… でしょうけれど、10歳で初めて聴いて以来、春でも、夏でも、秋でも、冬でも雨が降り出すと「スウィーテスト・タブー」が脳内に流れます。
脳内再生でイントロが流れると、電車やバスに乗ってる時も、横断歩道を渡る時も、降る雨粒が一瞬止まったかのようなスローモーションのように見えて、私をアンニュイな世界へ誘います。
シャーデーは、1984年にアルバム『ダイヤモンド・ライフ』でデビューしたシャーデー・アデュがヴォーカルを担当するイギリスのバンドです。ソウルやジャズなどを取り入れながら聴き心地が良いサウンドは後のミュージシャンたちに影響を与え、また、現時点で最新作となる2010年にリリースされた『ソルジャー・オブ・ラヴ』ではレゲエの要素も取り入れるなどシャーデーも進化しています。もちろん、シャーデー・アデュのハスキーなヴォーカルは健在でファンを虜にしています。
10歳だった私が、何故シャーデーを聴くことになったのか… その正確な記憶は、正直なところ薄れています。ですが思うに、自宅から徒歩圏内に貸しレコード屋さんが出来たこと、そしてテレビやラジオで洋楽を耳にする機会が多かった… そんなことが理由として挙げられます。私の通っていた貸しレコード屋さんには洋楽のEPが豊富にあって「スウィーテスト・タブー」を聴くことができたのです。こうして、気が付いたら私はこの曲にどハマりしたオマセな小学生になっていたのでした。
甘くいけないコト？ 雰囲気で楽しむ大人の恋愛
当然10歳だった私には、簡単な単語を知っているだけで、理解力も読解力もゼロ…。ですがこの曲は、同じ単語、同じフレーズを繰り返すことが多く、耳から入ってくる歌詞を口ずさむことができました。
If I tell you
If I tell you now
この繰り返されるフレーズが頭にこびり付いてしまう。当時の私にとって、それはまるで魔法の言葉のようでした。
それから時は流れ、リリース当時はEPしか借りられなかった私も中学生になり、「スウィーテスト・タブー」が収録されたアルバム『プロミス』を借りカセットテープでよく聴いていました。また、中学生なりにレベッカやおニャン子クラブなども聴いたほか、渡辺美里のポスターを貼ったり、登下校時にはマドンナも口ずさむようになり、音楽の幅が広がりました。
…が、ボーっとしたり、アンニュイな気持ちになった時は、決まってシャーデーのカセットテープを部屋で聴いていました。そしていつしか雨が降り出すと、イントロに雨の音が入っていた「スウィーテスト・タブー」が頭の中で再生されるようになり、ふと詞の意味を知りたくなりました。
しかし、手元にあるのは、アルバム『プロミス』を録音したカセットテープのみ。歌詞カードもなくリスニングだけで「スウィーテスト・タブー」の翻訳に挑みます。当然（？）全くわからず苦戦した思い出が蘇ります…
聴き取れる単語はあっても限界があり、タブーという単語が「いけないコト」という意味で、スイーテストは、スイートに関係して「甘い」…。そんな解釈からタイトルは「甘くいけないコト」… を意味しているんだろうな… といった感じです。
何よりも、私自身が “恋愛” を経験していないので、 “大人の恋愛” というものを理解できず、メロディから曲の雰囲気を楽しんでいました。
ダメって理解しながらも、いけないコトって楽しいでしょ？
「大人なふたりのいけない関係は蜜の味」 これが、大人になった私が至った「スウィーテスト・タブー」の解釈です。 それはお互いの立場をオープンに出来ない大人の物語――
ダメって理解しながらも、いけないコトって楽しいでしょ？
… と、シャーデーは、ハスキーでシルキーな声で切々と歌います。それは、感情を抑え込みながら、情熱を隠せない主人公を私はイメージしました。ドロドロというよりは、サラッとしていて、でも心が揺さぶられます。
酸いも甘いも知る大人になった私ですが、この「スウィーテスト・タブー」の主人公の気持ちと私自身が抱く感情は、ほぼ重なっています。歌詞を直訳すれば、
あなたは私に最も甘いタブーをくれます
私を愛し続けてくれますか？
静かな嵐を感じます
嵐はあなたの事
あなたに恋をしています
…という訳になりますが、私は自分なりの解釈で、こう感じながら聴いています。
「大人の付き合い」なんて簡単ですよ
貴方を虜にさせる自信もあるし、秘密の関係で沼にはまらせましょうか？
でも、大人の関係よりも純粋な恋愛関係に本当はなりたいの
心は嵐のように泣いてるのは誰も気づかないでしょ
10歳の子供だった私が、単純に聴き心地よく気に入っていた曲が、まさか大人になった私に寄り添ってくれる曲になるとは思ってもみませんでした。
「良いセンスをした10歳、グッジョブ！」と言ってあげたいです。
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カタリベ: 林ともひと@muzikrecord
