中国政府が内モンゴル自治区で9月から標準中国語(漢語)の教育強化を始め、国内外のモンゴル族やモンゴル人が反発している。同自治区出身の大相撲の荒汐親方(36)=元幕内蒼国来=も「母語が失われる」と強い危機感を示した。(47NEWS編集部)

―現地の状況は把握できているのか。
会員制交流サイト(SNS)で抗議デモの映像を見たり、知り合いから話を聞いたりしている。(漢語教育強化は)突然だったので何が起きているのか分からず、食事も喉に通らないほどショックだった。
―抗議活動でたくさんの人が拘束されたとの情報がある。
様子が分からないので心配だ。内モンゴルの人口は8割以上が中国人(漢族)で町中はほぼ中国語。モンゴル語を話せる子どもが激減しており、モンゴル語の将来を心配していた中で今回のことが起きた。抗議は表面上収まったようにみえるが、内面では内モンゴル人の99%が反対だと怒っていると思う。

―内モンゴルではこれまでチベット、ウイグル両自治区のような大きな抗議は伝えられていなかった。

私は個人的に差別を受けたこともないし、中国人の友だちもたくさんいる。内モンゴル人の中には、中国語ができた方が進学や就職に有利だという人もいる。内モンゴル人は中国語がいらないと言っているわけではないのに、ここまでやる必要があるのだろうか。今回のやり方は間違いで、失敗だったのではないかと思う。
―これまで小中学校ではモンゴル語で授業を受けていたのか。

そうだ。中国語は3年生から。内モンゴルの子どもたちがいきなり学校で中国人と同じレベルで中国語を使うのは厳しい。自分たちの言葉がないと、一つの民族とは言えなくなってしまうという考えがある。

―当局は来年からは道徳や歴史の授業なども漢語に変更するつもりだ。
そのこともみんな心配している。内モンゴル人はすごく歴史が好きで強い誇りがある。学校の勉強が嫌いでもお年寄りなどから地元の出来事を聞いて育っている。(民族の英雄)チンギスハンやモンゴル帝国、文化大革命など、いろんな話を聞いてきた。
日本に来て驚いたのは、日本の学生たちがあまり歴史について話さないこと。内モンゴルでは食事中はもちろん、夜通し話すこともあった。そこに民族のアイデンティティーもあるし、過去を知りたいという気持ちが強い。
―抗議デモは日本やモンゴルでも起きた。
モンゴル出身の力士からも心配していると連絡があったし、多くの日本人や中国人も声をかけてくれた。

―内モンゴルの文化とは。
モンゴルではソ連、ロシアの影響を受けており、モンゴル語にしてもモンゴル相撲にしても文化は、内モンゴルとは異なっていると言われている。本来のモンゴル文化は内モンゴル自治区の方により残っていると言われ、われわれもそれを誇りにしている。
でも(長年にわたる中国人の大量移住などで)遊牧など伝統的な生活はできなくなった。おじいちゃん、お父さん、私たちとそれぞれの世代で違う場所になってしまった。

―今後については。
私は日本国籍を取得して日本で暮らしているけれど、自分の文化は大事。でもどうすればよいのか分からない。ふるさとのことはすごく心配。できることがあれば、小さなことでもやりたいと考えている。
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荒汐(あらしお)親方 大相撲の元幕内蒼国来。本名エンクー・トプシン。中国内モンゴル自治区赤峰市バイリン右旗出身。2003年6月に来日、先代親方(元小結大豊)の荒汐部屋に入門。10年秋場所に新入幕。19年9月に日本国籍を取得。20年3月、先代親方の定年に合わせて引退し、荒汐親方として部屋を継承した。1984年1月生まれ。