<社説>米大統領選大接戦 分断と単独主義を危惧

 米大統領選は3日投開票され、大接戦となっている。最大の焦点は「米国第一」を掲げる共和党トランプ大統領の再選を認めるかどうかだ。 再選が決まれば4年間で深まった米国社会の分断は加速し単独主義は深まるだろう。バイデン氏が当選しても分断社会の融和は難しく、国際協調路線への回帰も容易ではない。過ちがあれば修正できる民主主義の強靭(きょうじん)さが米国にあるのか試されている。

 在日米軍の専用施設の7割が集中する沖縄でも選挙の行方に注目が集まる。名護市辺野古では民意に反した新基地建設工事が強行されている。新たに誕生する大統領には沖縄の民意に真摯(しんし)に向き合うよう求めたい。

 大統領選は一部激戦州の結果が当落を決すると言われる。特にペンシルベニアのほか中西部のミシガン、ウィスコンシン、南部のノースカロライナ、フロリダ、西部アリゾナの6州の動向が注目された。

 中でも選挙人の数が多いペンシルベニアとフロリダにトランプ氏は最終盤、ほぼ連日現地入りして集会を開き、猛烈な追い上げを見せた。

 トランプ氏は都合の悪い報道を「フェイク(うそ)」と切り捨ててきた。例えば、米紙ニューヨーク・タイムズはトランプ氏が当選前の15年間のうち10年間も連邦所得税を納めていなかったと報じた。この報道を「フェイクニュース」と真っ向から否定したが、実際にどの程度の納税を行ったかは説明しなかった。

 同時に自らも多くのうそをついてきたという。ワシントン・ポスト紙は、トランプ氏が就任から約1300日間で2万件以上の「虚偽や誤解を招く主張」を記録したと報道している。

 民主主義は、異なる意見を尊重し事実に基づいて議論を深める。しかし、トランプ氏は「虚偽」情報を流して国民の判断力を奪い、敵か味方かを迫り、社会を分断してしまったのではないか。

 外交政策を見ると、トランプ氏は第2次世界大戦後、米国主導で「リベラルな世界秩序」を築いてきた国際協調体制にも背を向ける。ビジネスの世界で得意とした「ディール」(取引)を外交原則とした。「米国第一」を掲げ、地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」や中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱、コロナ禍のさなかに世界保健機関(WHO)脱退を通告した。

 トランプ氏が再選されると、国際秩序の維持に米国ばかりが多大なコストを払わされることを良しとせず、北大西洋条約機構(NATO)脱退という極端なシナリオも現実味を帯びそうだ。バイデン氏が当選したとしても、4年間で低下した米国の国際的な信頼を回復することは容易ではないだろう。

 米国は根強い人種差別や格差拡大を抱えながら、多様性を認める価値観を持ち合わせてきた。今、価値観の揺らぎを克服できるか問われている。

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