「マフィア(連続起業家)」たちがつくるスタートアップ・エコシステム

 本記事では、スタートアップ界隈で重要な存在となっている「マフィア」を紹介したいと思う。

 もともとマフィアとは、イタリア南部のシチリア島に端を発し、その後世界中に広がった組織犯罪集団のことを意味している。中には映画ゴッドファーザーをイメージされる方もいるのではないだろうか。もちろん本記事では組織犯罪集団としてのマフィアを紹介するわけではない。スタートアップ・エコシステムで重要な存在となっているマフィアとは連続起業家(複数スタートアップを起業した起業家)のことを意味する。その発端と最新のトレンドを紹介しよう。

シリコンバレーを牛耳った”PayPal Mafia”

 スタートアップ・マフィアの発端はやはりアメリカ・シリコンバレーにある。1998年にセキュリティソフトを提供するスタートアップとして誕生したPayPal(当時Confinity)は、社名変更、デジタルウォレットへの事業転換、X.comとの合併を経て2002年にIPO、およびeBayへの事業売却に成功した。この時のPayPalのメンバーが事業売却後にそれぞれ残した功績が、「マフィア」の名を冠する主な由縁だ。

 Founders Fund(ベンチャーキャピタル)、Palantir(データ分析ソフト)など、事業会社やベンチャーキャピタルを数多く設立し、PayPal Mafiaで「ドン」と呼ばれるピーター・ティール、TeslaやSpaceXなど技術を複合して新しい領域を開拓するイーロン・マスクをはじめ、LinkedIn創業者リード・ホフマン、Youtube創業者チャド・ハーリーとスティーブ・チェン、Yelp創業者のラッセル・シモンズなど枚挙にいとまがない。

 20年後にはそれぞれ別のフィールドで世界のテック業界を牛耳っていることを、後にPayPal Mafiaとなる当人たちは知る由もなかっただろうが、PayPalのように成功したスタートアップから次世代の起業家が生まれる営みが一つのスタートアップ・エコシステムとして繰り返し議題となっていることは言うまでもない。なお、マフィアのメンバーたちはPayPalを離れた後もお互いに出資したり事業をサポートしており、これを一般的なマフィアのメンバー同士の結束になぞらえているという節もあるようだ。

世界中で誕生するマフィアたち

 スタートアップへの注目と投資活動が全世界的に注目を集めていることは本連載においてもいくつか紹介してきたが、PayPal Mafiaに続く「マフィア」もまた誕生しているようだ。

 同じくシリコンバレーでは、元Facebookのメンバーによる創業ケースをCB Insightsの記事がまとめている。

 中でもFacebookの共同創業者で、退社後2009年に創業した、業務管理ツールを提供するAsanaは、ちょうど今年IPOに成功している。

 イギリスの首都ロンドンでは、金融の中心地として栄えた既存の産業基盤を生かし2010年代に多くのFintechの企業が誕生している。こちらの記事によると、RevolutやMonzo、TransferWiseといったユニコーン企業に、かつて役員や従業員として務めていたメンバーが、2010年代後半から創業し一定の成功を収めているケースがある。

 またスウェーデンのユニコーン企業Klarnaの元メンバーは、母国だけではなくアメリカやドイツで創業していることは、こちらの記事が紹介している。

なぜ「マフィア化」するのか

 PayPal Mafiaの成功によってフィーチャーされやすくなったきらいはあるだろうが、「マフィア化」する要因を以下2つの視点で探ってみたい。

①起業家目線 - スタートアップの成長フェーズによって人材需要が異なる

 人材の流動はどのスタートアップにも起こりうることだが、事業の成長に合わせて人材の需要も変化していくというのが自然であろう。

 創業間もない0→1のフェーズでは、いかにコアな顧客層に深くリーチすることができるかが求められる一方で、十分売り上げの立ったフェーズでは、既存事業の維持と安定が求められる。前者にとっては成長した企業を去り、新しいフィールドを求めることは当然なのであろう。

②投資家目線 - 一定の成功を担保する要素としての経験

 数多くの評価軸があるスタートアップ投資において、PayPal Mafiaを代表例とした連続起業家(複数スタートアップを起業した起業家)という経歴は、未来での一定の成功を担保するものであろう。それは事業を生み出す上でのスキルセットや経験はさることながら、そのスタートアップ・エコシステムにおける人的な繋がりや文化的な理解など、多くの側面において良い影響を及ぼすと考えられているのではないだろうか。

 成功を収めたスタートアップはもちろん、その元メンバーが、その後、自身のキャリアを投じて創業したスタートアップに着目してみることが、より広がりをもってスタートアップ・エコシステムを把握する一つのきっかけになるのではないだろうか。

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