決着はいつ?大接戦となった米大統領選挙と米株式市場の行方

11月3日に行われた米国大統領選挙では、接戦州のうちフロリダ、テキサス、オハイオ、アイオア州などでトランプ大統領が勝利しました。バイデン候補が大きく勝利するとの事前の主要メディアの世論調査を覆し、トランプ大統領再選の可能性が一時高まりました。

翌4日には、ラストベルトで同様に大接戦となっていたミシガン、ウィスコンシンにおいてバイデン候補の得票が伸びたことで、バイデン候補が再び優位になっています。接戦となっているネバダ州の結果次第の状況ですが、僅差となったミシガン、ウィスコンシン州の集計見直しをトランプ大統領は要求する意向を示しています。

そして、事前の郵便投票の集計が行われていなかったペンシルベニア州の結果判明にはまだ時間がかかりますが、どちらが勝利してもおかしくありません。本稿を執筆している5日朝方時点でも、依然決着には至らない歴史的な大接戦になりました。


大統領選直後までの米株式市場を振り返る

大統領選挙前の米株式市場を振り返ると、9月初旬まで上昇が続いたS&P500種株価指数などは9月末にかけて下落しました。優勢だったバイデン候補が勝利しても、大統領選挙が接戦となれば、郵便投票の取り扱いなどを巡り大きく混乱する、など大統領選挙を巡る不確実性が高まったことが影響したとみられます。

その後、10月前半に米株価は反転上昇しました。上記のリスクシナリオに対する認識が広がった中で、9月末の第一回テレビ討論会でトランプ大統領が支持を高められず、その後大統領自身がコロナに感染するなど、選挙戦終盤でトランプ大統領に逆風が吹きました。

これで、バイデン候補と民主党の上下院の勝利が選挙当日早々に決まるとの期待が高まり、10月半ばにかけて米国株式市場は再び上昇しました。

ただ10月後半にかけてトランプ大統領が接戦州で盛り返すなど接戦となり、大統領選挙が混迷するとの不確実性が高まりました。更に、欧州各国でコロナが感染再拡大し、経済封鎖が行われたことが重なり、米国株価は再び下げて、9、10月と2ヶ月連続で株安となり、11月3日の大統領選挙を迎えました。

大統領選挙当日の開票作業が始まった3日夜の米株先物指数は、開票が進みトランプ大統領の善戦が報じられた、米国時間の21時台までは米株先物指数が前日対比マイナスに下げる場面がありました。この時までは、早期に結果が判明しないリスクを株式市場は最も懸念していたと思われます。

その後、22時前には米株先物指数は再び上昇しました。トランプ氏が最大の激戦州であるフロリダ州で優位と報じられ、トランプ再選のサプライズの期待が大きく高まったことがきっかけでした。

増税を伴う拡張的な財政政策を掲げているバイデン政権となれば、民主党内の中道派と左派の主導権争いが予想され、経済政策運営の不確実性は高まります。

上院でも民主党が勝利すれば、左派陣営の意向が強まり再分配が重視され、バイデン政権において再分配が重視され増税に前のめりになるだけではなく、GAFAなど大企業への規制強化が実現する可能性が高まります。このシナリオは、米国株式市場にとってかなりのリスクです。

翌4日の米国株市場では、バイデン候補がラストベルトの接戦州の集計で逆転してバイデン勝利の可能性が高まる中で、ハイテク銘柄を中心に米国株式市場は一段高となっています。

バイデン候補は苦戦しての勝利で、一方で上院を共和党が多数を占める可能性が高まり、民主党の大勝すなわちトリプルブルーとなる可能性は大きく後退しました。「行き過ぎた左派寄りの政策」が株式市場にとって最大のリスクで、これを含めて大統領選挙を巡る不確実性が今後後退していくとの認識が強まったとみられます。

問われるメディアの存在意義

ところで、事前の世論調査を覆して、トランプ大統領が歴史的な大接戦に持ち込んだことは、2016年と同様に世論調査があてにならないことを示しています。主要メディアの世論調査がトランプ支持者の意向をしっかりと反映しておらず「民主党寄り」になり易い、という4年前と状況が変わっていないことが明白になりました。

なお、4年前にトランプ当選を予想していた著名な調査会社は、トランプ支持者の意向を正確に把握しており、4年前に続き今回の事前予想においても接戦の末にトランプ勝利を予想していました。実際にはバイデン勝利となる可能性が現状高いですが、大接戦を予想していたこの調査会社の予想がより正しかったでしょう。

主要メディアでこうした事前調査が広く伝わらなかったことが、「サプライズの大接戦」を招いた一因で、偏ったイデオロギーや調査に傾き易い主要メディアの信頼性、存在意義を我々はしっかり考える必要があるでしょう。

金融財政政策の重要性が浮き彫りに

トランプ大統領再選の最大の障害になったのは、コロナ禍によって好調だった経済が戦後最大の落ち込みに見舞われたことで、失業率は一時15%まで上昇しました。

1970年代後半以降、再選できなかった大統領(カーター、ブッシュ)は、大統領選挙前にいずれも失業率が8%まで大きく悪化していました。現在の失業率も約8%と、トランプ大統領にとっては同様に不利な状況です。このまま再選にならなければ、高い失業率では再選に至らないという経験則が今回も当てはまることになります。

ただ、コロナ後の大規模な金融財政政策の効果で、落ち込んだ米国の経済は7~9月にはかなり復調しました。コロナによる経済不況という障害があっても、政策対応でトランプ大統領はかなり巻き返したと言えます。

実際に、3月以降の株高によって、大統領選挙直前の過去1年間の株価上昇率(S&P500種株価指数)は7%越まで戻りましたが、経済対策によって早期経済回復期待が高まった結果です。

1988年以降の大統領選挙前の1年間の株価騰落率が+7%以上であれば、現職や後継者が大統領選挙に勝利しており、トランプ政権もこの経験則をクリアしていました。

歴史にifはないですが、あと2、3ヶ月大統領選挙が遅ければ失業率はもっと改善しており、そうであれば、株式市場の経験則が示すように、トランプ大統領再選となっていた可能性があります。

今回の大統領選挙が歴史的な大接戦になったことは、金融財政政策をしっかり行うことが政治的に極めて重要であることをを強く示唆している、と筆者は考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>
<写真:ロイター/アフロ>

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