アップル社、地元の住宅危機とホームレス対策に約2,700億円を投資

 2019年11月米アップル社が、本社のあるカリフォルニア州の住宅供給危機の緩和に向け、25億ドル(日本円で約2,700億円)という巨額の資金を拠出することを発表した。同州では企業家や大企業従事者とそうでない人たちとの収入の格差が拡大し、それ以外にも様々な要因が重なって、これまで長年住んでいた家のローンやアパートの家賃が払えない人が続出。ホームレスも増加している。

大手テック企業の中でも飛び抜けて高額な投資額

Tim Cook

 米アップル(Apple)社は2019年11月4日、カリフォルニア州に広がる住宅供給危機の緩和に向け、25億ドル(日本円で約2,700億円)という巨額の資金を拠出することを発表した。同社本社のあるシリコンバレーやサンフランシスコなどに高額所得者が集中したことなどで不動産価格が急上昇し、それまで住んでいた人たちが住宅を追われる事態が起きているからだ。

 アップル社は今回の発表の際、「教師や消防士、救急隊員、サービス従業員といったコミュニティメンバーが、住み慣れたコミュニティを去るという苦渋の選択を迫られている。4月から6月にかけて、3万人近くがサンフランシスコを離れた。ベイエリアの住宅保有率は過去7年で最低の水準だ」と話している。

この問題解決を支援するシリコンバレーの大企業は同社が初めてではなく、2019年初めにグーグル社がベイエリア(サンフランシスコとその郊外)の住宅危機の緩和を目的とする10億ドルの投資(約1,085億円)を発表、フェイスブック社も同年10月、10億ドルを支援することを発表している。また、今や第二のシリコンバレーとなっているワシントン州シアトル郊外に本社を構えるマイクロソフト社も、カリフォルニアと同様の問題を抱えるシアトル周辺を対象とする住宅基金に5億ドル(約540億円)を拠出した。

他のテック企業も同様の支援をしているとはいえ、アップル社の金額は破格だ。25億ドルの内訳は、地域の住宅を求めやすくするための投資基金と、初めての住宅購入者向け住宅ローン補助基金に各10億ドル(約1,085億円)、そしてアップル社が所有する土地において手頃な価格の住宅開発を行うための3億ドル(約325億円)が含まれる。

また、ベイエリアの低所得者向けの新たな住宅開発の支援に当てられる2億ドルの内訳は、地元の低所得者に対する住宅支援団体などと提携した住宅基金に1億5,000万ドル(約163億円)、そしてホームレス問題など社会的な弱者を保護するために5,000万ドル(約54億円)が当てられる。これらはカリフォルニア州や地元機関らと提携して進められる。

大手企業は地元に投資して貢献するべきという風潮

写真提供:Apple

 カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、「当州の住宅費用の高騰は、住宅所有者と住宅賃貸者の両方にとって、そして何百万という家庭にとって生活の質に関わる懸念だ。この問題は住宅の建設でしか解決できない。アップル社との提携はカリフォルニア州の住宅建設をサポートするものとなる。同社の経済協力とイノベーティブな戦略は、アップル社が住宅問題の解決を真剣にとらえていることの表れだ」と話している。

 経済格差は大手テック企業のせいだけではないが、大きな要因のひとつだ。外からこの地域に引っ越してくる人たちが急激に増え、住宅供給の伸びを上回る人口増加となり、高給取りの人たちが競って物件を取り合うことでさらに住宅価格が上昇した。

 アップル社は「入手可能な住宅というのは安定や尊厳、機会、プライドを意味する。これらが多くの人の手の届かないものになってしまうと、私たちが今後歩む道は持続不可能なものになる。それゆえにアップルはその解決に寄与したい」と話している。地域の方々はもちろん、同社を含む大企業の従業員の給与も不動産の上昇に合わせて上がっているため、企業にとってもこの問題の解決は意味のあることだといえる。

 アップル社の巨額投資は、行政の費用だけでは手に負えない地元の問題を具体的に助けるプロジェクト投資として好意的に受け入れられているようだが、寄付ではなく投資としての提供であるため、長期的には投資が回収できるか懸念を指摘する米メディアも多い。しかし寄付であれば、これほど巨額な金額の提供には至らない可能性もあるため、この投資をどう捉えるかはその立ち位置によりそうだ。

(2019年12月公開記事)

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