対馬市「ESCO事業」 未利用材資源化で林業振興

対馬市の木質バイオマス熱供給体制

 林業が盛んな長崎県対馬市で戦後植林された人工林が伐期を迎える中、幹の先端部など未利用材の活用が課題となっている。活用策の一つとして、市は島内施設のボイラーを「木質チップボイラー」に改修を促していく構想だが、更新には多額の初期投資と運転管理のノウハウが必要。市は、民間の力を借りた「ESCO(エスコ)事業」の枠組みで市の温浴施設の改修に取り組み、普及のモデルケースにしたい考えだ。

 市によると、ヒノキやスギなどの丸太生産量は2012年度に約3万5千トンだったが、16年度には約4万7千トンに拡大。だが、幹の細い部分や曲がっている低質材はほとんど需要がなく、林内に放置されることが多かった。市は低質材もチップに加工し、熱源として利用することで林業者の所得向上やエネルギーの島内自給を図ろうと、19年に市木質バイオマスエネルギー導入計画を策定した。
 同計画によると、低質材を使った木質チップの利用可能量は対馬全体で年間約1万3千トン。灯油などを使っている高齢者施設や温浴施設など計17施設を木質チップボイラーに更新した場合、年間計約5千トンのチップを消費し、約5600トンの二酸化炭素(CO2)が削減可能と推計している。
 ボイラー設置の資金調達や改修後の運転、メンテナンスを民間に一括委託する「ESCO事業」を活用した改修のモデルケースとして最初に取り組むのは、市所有の温浴施設「湯多里(ゆったり)ランドつしま」(美津島町)。市は今春、事業者を公募し、エネルギーエージェンシーつしま(同)を選定した。同社は現行のボイラーより省エネ性能が10%高い木質バイオマスチップボイラーを湯多里ランドつしま内に設置し、22年度から熱供給を始める予定だ。同社には施設側からエネルギーサービス料が支払われる。
 同社によると、設置に関わる初期投資額は約3500万円。灯油も使っている現時点と比べて年間約600万円の燃料費削減につながり、8年間で投資額を回収できる見込みという。同施設での木質チップの消費量は年間約600トンの予定だ。
 市農林・しいたけ課は「化石燃料購入で年間40億円以上が島外に流出しているとみられている。今回の事例を参考に、お湯を多く使う高齢者施設などでも木質チップボイラーが普及し、エネルギーの地産地消が進めば」と期待する。

湯多里ランドつしまに設置されている現行のボイラーを前に木質チップを手にする対馬市職員=同市美津島町

 一方で未利用材の活用には課題も少なくない。県対馬振興局林業課は「南北に細長い対馬の場合、チップの運送コストも考えると複数の拠点を設けるなど工夫が必要」と指摘。エネルギーエージェンシーつしまの久木裕社長は「当面は(美津島町など)島の中部や南部が中心になるが、契約先を増やし対応していきたい」としている。


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