「道具も体の一部」 巨人坂本の通算2000本安打を支えた球界屈指の“感度”とは

巨人・坂本勇人【写真提供:読売巨人軍】

「アディダス ジャパン株式会社」担当者の鈴木章弘さん「坂本選手の足の感覚は本当に敏感」

巨人の坂本勇人内野手が8日のヤクルト戦(東京ドーム)で史上53人目の通算2000本安打を達成した。プロ2年目の2008年からトレーニングウェア、スパイク、革手袋など用具契約を結ぶ「アディダス ジャパン株式会社」の鈴木章弘さんに、坂本の道具へのこだわりを聞いた。

31歳10か月での大台到達。高卒2年目の2008年から体の不安の大きい遊撃のレギュラーを張ってきた男を支えているのは、何と言ってもスパイクだ。14年から球場によって3種類のスパイクを使い分け。持病とも言える腰痛を抱えているだけに、スパイクの歯の長さや形状が若干異なるものを使用している。

1つ目は本拠地・東京ドームなどメーンで使用する歯1.2センチのスパイク。2つ目は甲子園など土のグラウンドで使用する歯1.4センチのスパイクで、3つ目はナゴヤドーム、札幌ドームなど短い人工芝で守備に就く際に使用する裏底ゴム製のスパイクだ。

「坂本選手の足の感覚は、本当に敏感だなと思います。故障に対する注意もあると思いますし、遊撃手は他の選手より動きが激しいポジション。スパイクは走る、打つ、守る、常に身に着ける重要な用具。長くスパイクを履いていると多少革が伸びてくるんですが、少しでも感覚が変われば、すぐに新しいスパイクに履き替えています」

スパイクだけじゃなく革手袋へのこだわり「手の甲の部分に一切のストレスをかけたくない選手」

「アディダスのスパイクは手作りなんですけど、ちょっとの違いも分かるようです。ものすごく細かいところも気づきます。本当に体のことに気を使っているし、我々としても、坂本選手の要望に対応してパフォーマンスを上げられるものを作らないといけない。今では周りの選手も球場ごとに履き替えるようになりましたけど、坂本選手ぐらい敏感でスパイクに気をつける選手は中々いないと思います」

今季モデルは「いい成績を残すことができた。変える必要はない」との理由で変更はなかったが、例年オフにはデザインも機能性もモデルチェンジする。坂本との意見交換の場は年を追うごとに張り詰めた空気になるという。

「若い時は結論だけを伝えてくることもありましたが、今は『これがこうだから、こうしてほしい』というように理論立てて話してくれます。リアルな声を商品開発にも反映できています。新しい技術にもしっかり理解を示してくれます。その場はお互いプロ同士。毎回毎回、気が引き締まる思いです」

革手袋へのこだわりも強い。「坂本選手は手の甲の部分に一切のストレスをかけたくない選手です。拳部分には特殊な素材を使って、なるべく手の形のまま合わせて作っています。手のひら部分には薄いシープ素材を使っていて、ゴルフの革手袋に近いものを使っています。『道具も体の一部。素手の感覚を大事にしたい』と言っています」と鈴木さんは明かす。道具への気配りと強いこだわりも、坂本の2000本安打には欠かせない要素の一つのようだ。(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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