目指すのは「集団免疫の獲得」ではない スウェーデンの新型コロナ対策とは【世界から】

10月9日、ストックホルム中心部の通りを歩く市民。その後、より厳しくした感染対策を導入した(共同)

 スウェーデンでは恒例の秋休み(10月26日から11月1日まで)が終わり、11月2日から通常通り学校が始まった。あと1カ月半もすればクリスマスを迎える。 家族が集まる1年で最も大切な時間を一緒に過ごせるようにするため、同国政府は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことを目的にした規制をこれまで以上に厳しくしている。(スウェーデン在住ジャーナリスト、共同通信特約=矢作ルンドベリ智恵子)

▽「閉鎖しない」

 スウェーデンは、他の欧州諸国のように厳格なロックダウン(都市封鎖)をしなかった。マスクをつけることも義務づけていない。そのせいか、国外からスウェーデンに来た人はあまり普段と変わらない街の様子に驚く人も少なくない。

 スウェーデンで新型コロナウイルスの対応にあたっているのが公衆衛生庁だ。感染防止の方針は同庁が決定しており、感染防止の勧告も出している。これに従い、感染が広がっていた4月ごろでも保育園や小学校、中学校の閉鎖はせず、レストランなども通常通り営業を続けている。

 その後、6月から7月にかけては郊外の「サマーハウス」に移り住む人もいた。サマーハウスは日本で言う簡素な別荘のようなものだ。加えて、街中に人があふれることも少なくなった。

 これらが影響したのだろう。7月から8月にかけて感染者の数は徐々に減っていった。休校となっていた高校も8月下旬に開始する新学期に合わせて、授業を再開した。在宅勤務をしていた人たちも、少しずつ通常の勤務に戻りつつある。

 感染防止対策が長期化したため、自粛ムードにも緩みが出始めている。そのため、街に出る人が多くなり、感染者数も増加傾向に転じた。

テグネル氏の写真が載った予約サインボード。「この席は他のお客さんの席と距離が十分に保てていません」と書かれている=矢作ルンドベリ智恵子撮影

 ▽感染者は再び増加

 疫学の専門家である公衆衛生庁のテグネル氏によると、スウェーデンの感染者数は、他の欧州諸国と比較すれば、比較的少なく、第2波が到来しているとは感じていないという。

 それでも秋に入ってからは、若い人を中心に感染率が上昇している。スウェーデン政府も感染対策を強化。10月末から3週間にわたり、より厳格化したガイドラインを実施することを決定したのだ。

 具体的には、次の通り。感染者が増えている広域自治体には期間を決めて、「小売店やショッピングセンター、図書館、博物館、プール、ジムなどの滞在を避けること」や「会議、コンサート、演劇、スポーツ競技などの参加を避けること」―を求める。

 ただし、15歳以下は対象外となる。さらに「可能な限り、同居人以外と物理的な接触を避けること」や「結婚式を始めとするパーティーなどの開催と参加を控えること」なども挙げている。

 「50人以上の集会は禁止」という規制は引き続き、実施する。それゆえ、コンサートやオペラなどはまだ開催されていない。政府は10月から規制を緩和し、500人まで増やすことを検討していたが、感染が広がっていることを受けて延期となった。芸術・文化関連の業界関係者は、今後の見通しも立てられず困難な状態が続いている。

 また、レストランなどにおいて「最低1メートルの間隔をあけて飲食をする」という規制は来年の5月末までに延長されることが決まった。

公共バスも当然、感染防止策を行っている。写真奥に見えるテープは、運転席付近に客が座らないよう封鎖しているのだ=矢作ルンドベリ智恵子撮影

 ▽持続可能な対策

 スウェーデンでは、新型コロナウイルスの感染は短期的には収束せず、長期間に及ぶと考えられている。そのため、国民や社会が耐えられるような対策をとっている。ロックダウンを実施しなかったのも、経済面や国民の精神衛生面の観点から難しいと判断されたからだ。

 実際にはこれまで紹介してきたようにさまざまな規制を導入しており、他のヨーロッパ諸国と比べて厳しいものも少なくない。いわば「部分的なロックダウン」といえる対策を継続しているとも言える。 マスクの着用は奨励しないのも、ソーシャルディスタンス(社会的距離)をきちんと保つことが感染防止には最も効果的だという根拠に基づいている。

 これらの対策を通じて、感染リスクが高い高齢者への感染拡大を防ぐとともに医療崩壊が起こらないことを目指している。

 スウェーデンで感染症対策を担当したのは、感染症のスペシャリストが働く公衆衛生庁であり、政府とは独立した機関となっている。スウェーデンが他国と大きく異なるのは、新型コロナウイルスの対策を主導するのは政府ではないことである。

 政治家が専門家の意見にきちんと耳を傾けるだけでなく、メディアに通して情報を明確に伝える。このことが、国民の信頼を得ることにつながっているように思う。

 スウェーデンの対策は、日本でも報道されているような集団免疫獲得を狙ったものではない。とはいえ、現在では抗体を持つ人も20%を超えているようだ。スウェーデンでは国民の約80%は政府の勧告に従い感染防止につながる行動をとっているという調査結果が出ている。スウェーデンが集団免疫を獲得できる日もそう遠くはないかもしれない。

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